南鳥島を除く国内では最も東側に位置する北海道「根室地方」。
「海に面したイメージ」を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、実際に気候・自然環境は海の影響を大きく受ける地域となっています。
こちらでは、根室地方の気候について、その全体的な特徴や季節ごと・各自治体ごとの大まかな傾向などを解説していきます。
根室地方の気候「全体的特徴」

根室地方は、北海道内、また東京都小笠原諸島に属する「南鳥島」を除く日本国内では最も東側に位置する地域です。区域内にはロシア連邦が実効支配する北方領土も含まれています(本ページでは、北方領土に観測地点がないため、観測データが入手可能な北海道本島側の気候について解説します)。
地理的には、「オホーツク海」と「太平洋」に面する地域で、北側は知床半島・南側には根室半島が延びており、知床半島側は標高が高く急峻な「知床連峰」の山々が連なる一方、それ以外の場所はかなり平坦な土地(ゆるやかな丘陵地)のみで占められています。
観測地点 | 根室 | 厚床 | 別海 | 中標津 | 羅臼 |
---|---|---|---|---|---|
年間平均気温 | 6.6℃ | 5.6℃ | 5.7℃ | 5.8℃ | 6.1℃ |
年間平均最高気温 | 9.9℃ | 10.5℃ | 11.1℃ | 10.9℃ | 9.6℃ |
年間平均最低気温 | 3.6℃ | 0.8℃ | 0.1℃ | 0.5℃ | 2.9℃ |
年間降水量 | 1040.4mm | 1158.8mm | 1148.0mm | 1183.8mm | 1657.1mm |
年間平均風速 | 5.3m/s | 2.5m/s | 2.1m/s | 2.3m/s | 2.6m/s |
年間日照時間 | 1846.7時間 | 1794.1時間 | 1756.0時間 | 1681.2時間 | 1473.2時間 |
年間最深積雪 | 34cm | 54cm | 64cm | 78cm | 87cm |
根室地方内には合計10か所に気象庁の観測施設がありますが、うち主要な地点の基本的なデータは上記の通りです。
根室地方の気候を見る場合の重要なポイントとしては、以下の3点が挙げられます。
・気温は全体的にかなり寒冷な傾向があります。
・特に沿岸部は海からの影響を受け「夏の暑さ」がほとんどなく、「夏のない地域」と呼んで差し支えない地域です。
・寒冷な気候は、海の海水温が低いことが大きな要因です。
・冬場に流氷で冷やされたオホーツク海の海水温は、上昇が非常に鈍くなっています。
・太平洋も寒流である「親潮」が流れるため、常時海水温がかなり低めです。
・険しく標高が高い「知床連峰」の山々では、雨雲や雪雲が斜面にぶつかって発達しやすい環境です。
・特に山地の南側では降水量が増えやすく、「羅臼」は道内屈指の「多雨地域」となっています。
春の気候
観測地点 | 根室 | 厚床 | 別海 | 中標津 | 羅臼 |
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平均気温 | 3.5℃ | 3.2℃ | 3.5℃ | 3.5℃ | 3.2℃ |
降水量 | 207.6mm | 246.7mm | 241.5mm | 249.2mm | 349.6mm |
日照時間 | 543.3時間 | 502.5時間 | 510.8時間 | 490.4時間 | 457.0時間 |
最深積雪 | 27cm | 46cm | 58cm | 72cm | 78cm |
・道内で最も春の気温が低い地域です。
・流氷で冷やされた海水温の影響を強く受け、春の後半ほど各地との気温差が大きくなります。
・根室半島、羅臼方面など沿岸部は特に「日中の気温」がかなり低くなる傾向があります。
・全ての地域で「1年で最もよく晴れる」時期です。
・晴れも多い一方、天気は周期的に変わります。
・降水量は春の後半ほど増えていく傾向にあり、道内日本海側と比べると雨量がかなり多くなります。
・太平洋側を通る低気圧などの影響で、「雪のピーク」が3月となる場合も目立ちます。
・雪の季節が終わるタイミングは遅めで、4月にもまとまった雪が降るケースがあります。
夏の気候
観測地点 | 根室 | 厚床 | 別海 | 中標津 | 羅臼 |
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平均気温 | 14.4℃ | 14.8℃ | 15.5℃ | 15.8℃ | 14.9℃ |
降水量 | 350.4mm | 384.5mm | 388.1mm | 401.0mm | 445.3mm |
日照時間 | 353.3時間 | 466.9時間 | 357.9時間 | 332.2時間 | 351.0時間 |
・道内で最も夏の気温が低めの地域です。
・まだ冷たい海水温の影響で、夏の前半ほど気温の低さが目立ちます。
・真夏は海沿いの地域は「暑い日」がかなり少なく「夏がない気候」とも言える状況です。
・中標津、別海など内陸部では平均年数日程度「真夏日(最高気温30度以上)」となる場合があります。
・オホーツク海からの湿った冷たい風、太平洋からの気流が引き起こす「海霧」の影響で、天候不順が目立つ季節です。
・日照時間(晴れ間)は釧路周辺などと並び、道内で最も少ない地域です。
・8月以降は「秋雨前線」などの影響で降水量が急増し、羅臼では月間降水量の平均が200mmを超えます。
秋の気候
観測地点 | 根室 | 厚床 | 別海 | 中標津 | 羅臼 |
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平均気温 | 11.2℃ | 9.6℃ | 9.3℃ | 9.5℃ | 9.9℃ |
降水量 | 369.3mm | 395.2mm | 389.1mm | 391.8mm | 571.6mm |
日照時間 | 455.6時間 | 455.0時間 | 444.9時間 | 430.7時間 | 362.5時間 |
最深積雪 | 2cm | 3cm | 5cm | 5cm | 12cm |
・下がりにくい海水温が春~夏とは逆の影響を及ぼすため、全体的にそれほど気温が下がりません。
・1年の中で最も道南、道央などとの気温差が小さくなる時期です。
・根室半島沿岸部は特に温暖な傾向があり、周辺地域と比べ平均気温では最大2℃以上の差が生じます。
・降水量が1年で最も多い時期です。
・特に知床半島に近い地域では、山にぶつかって雨雲が発達しやすくなり、羅臼では降水量が9~10月にかけて月間平均200mmを超えます。
・雨をもたらす要因は秋雨前線に加え、太平洋などを通る「台風」の影響を受ける場合があります。
・秋の後半は羅臼を除きよく晴れる時期に入ります。
・日本海側と比べ、雪が降る時期、積もる時期は遅めです。
・11月中に積雪が観測されない年も珍しくありません。
冬の気候
観測地点 | 根室 | 厚床 | 別海 | 中標津 | 羅臼 |
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平均気温 | -2.5℃ | -4.9℃ | -5.6℃ | -5.5℃ | -3.5℃ |
降水量 | 114.5mm | 134.5mm | 131.6mm | 145.0mm | 293.2mm |
日照時間 | 468.9時間 | 480.5時間 | 439.3時間 | 423.0時間 | 303.0時間 |
最深積雪 | 31cm | 49cm | 59cm | 67cm | 82cm |
・気温は概ね寒冷ですが、根室半島沿岸部は緯度の割に温暖です。
・流氷の影響を受け、海が氷に覆われる2月に沿岸部の気温が低くなる傾向が見られます。
・内陸部の冷え込みは厳しいですが、釧路地方や網走地方の内陸部ほどではありません。
・羅臼を除き晴れる日が多く、道内では冬の天候が安定しやすい地域です。
・羅臼はオホーツク海側から雪雲が入りやすく、あたかも日本海側のような気候的特徴を持ちます。
・降水量も羅臼を除き少なくなっています。
・根室半島では雪が比較的少なく、それ以外の場所は概ね北へ行くほど多くの雪が降る傾向があります。
・太平洋やオホーツク海周辺を低気圧が発達しながら進む際に、大雪となる場合があります。
・羅臼は最も積雪が多い地域で、他の地域と比べ降る頻度もかなり多くなります。
・オホーツク海から流氷が毎年のように流れ込みます。
・陸に「接岸」する期間は根室方面では1か月程度、羅臼方面では2か月近くと北へ行くほど長くなります。
・流氷が接岸すると海水温の影響が弱まる(氷のため陸地と同じようになる)ため、沿岸部の気温が下がる傾向が見られます。
各地域ごとの傾向まとめ
根室地方(根室振興局管内)の気候について、これまで解説してきた気候の特徴・差を「各地域(自治体)」ごとに大まかにまとめると、以下のような形になります。
根室市 | ・根室地方では最も冬場が温暖(道内で見てもそれほど寒くない)です。 ・雪も最も少ない傾向です。 ・夏は海に囲まれている影響で気温が上がりにくい地域です。 |
別海町 | ・内陸ほど厳しく冷え込む傾向があります。 ・雪も根室と比べ一気に増える傾向があります。 |
中標津町 | ・内陸のため冷えやすい地域です。 ・雪は羅臼に次いで多くなっています。 ・夏場に「真夏日(最高気温30℃以上)」となる可能性が最も高い地域です。 |
標津町 | ・海沿いも含め寒い特徴があります。 ・雪は中標津、別海と比べやや減ります。 |
羅臼町 | ・冬場に天候が悪くなりやすく、雪も多い「日本海側」のような気候的特徴を持ちます。 ・夏~秋にかけて平年の月間降水量が200mmに達する道内屈指の「多雨地域」です。 |
拠点都市である根室市の気候については、上記の記事で別途解説しております。
根室地方と札幌の気候を比較すると?
根室地方の気候を、北海道の中心都市「札幌市」と比較すると、主な項目では以下のような違い・共通点が挙げられます。
・共通点は少ない状況です。
・「暑い日の頻度」ではかなりの差があります(札幌が暑い)。
・晩秋~冬の前半の「根室半島沿岸」の平均気温に限りほぼ同じ水準です。
・札幌は冬の降水量、夏の日照時間(晴れ間)が多く、羅臼を除く根室地方は夏の降水量、冬の日照時間(晴れ間)が多い特徴があります。
・降水量と日照時間は、羅臼を除き年間合計値は同じような水準です。
・沿岸部で見られる濃い「海霧」は、札幌では見られない現象です。
・雪の多い羅臼も含め、積雪の深さは札幌の方が多くなる傾向があります。
・特に根室半島一帯は雪が少ないため、年によっては札幌で数十cm・根室で数cmということもあります。
道内各地方の気候については、それぞれ個別の記事において解説しております。