根室市の「気候の特徴」とは?季節ごとの傾向などを解説【海洋性の気候】

自然・気候

北方領土を除く国内の最東端に位置し、オホーツク海と太平洋に面する形で突き出した(根室半島)地理的特徴を持つ根室市。当ページでは、根室市の気候の特徴について、季節ごとの傾向や札幌市との比較などを詳しく考察・解説していきます。

根室市の気候「全体的な特徴」

根室特別地域気象観測所の雨温図
年間日照時間年間平均風速年間降雪量年間最深積雪
1846.7時間5.3m/s159cm34cm
平年値(1991年~2020年)

根室市は、北海道内では北方領土を除いては最も東側に位置します。地理的に見ても「根室半島」として、北側をオホーツク海・南側を太平洋に面する形で海に突き出しているため、海からの気候への影響を常に受ける「海洋性の気候」としての特徴が際立っています。海流としては、千島列島方面からは寒流の「親潮」が根室半島の南側を沿って流れており、この影響も大きくなります。

具体的な気象状況で見ると、変動が鈍い「海水温」が気温に与える影響が大きく、1日の間の気温差が小さくなりやすいほか、流氷で冷やされた海水温の影響で、春から夏にかけては気温が低い一方、夏に上がった海水温が下がりにくいことから、秋以降は気温が高めに出やすいといった特徴が強く見られます。

また、夏場は太平洋高気圧からの温暖な気流が「海霧」を頻繁に発生させたり、冷たく湿った空気をもたらす「オホーツク海高気圧」の影響で雲が広がったりしやすい特徴があり、晴れにくく気温も上が栄にくい結果「夏がない」気候と言える地域です。

海に面するため風も強く、道内では留萌等と並び、年間の平均風速が最も大きい地域でもあります。

世界的な気候区分(ケッペン)で見た場合、根室市は亜寒帯の「亜寒帯湿潤気候(Df)」となり、道南の一部を除く道内全域と同じ区分になります。

市内全体を見ると、山地は存在しないため気候に大きな差はありませんが、海に突き出した側ではない別当賀・初田牛・湖南地区等は海からの影響がやや抑えられ、朝晩により冷え込みやすい特徴を持つように一定の差は見られます。

根室市「季節ごとの気候」

【春の気候】晴れやすい・気温が上がりにくい

平均気温平均最高気温平均最低気温降水量日照時間降雪量最深積雪雪日数
3月-0.8℃2.2℃-3.7℃47.0mm190.8時間36cm25cm19.4日
4月3.5℃7.4℃0.5℃64.4mm180.9時間12cm12cm12.9日
5月7.7℃11.9℃4.5℃96.2mm171.6時間0cm0cm2.6日
平年値(1991~2020年)
積雪深月間降雪量
観測史上最大の値115cm(2014年3月21日)113cm(2014年3月)
観測史上最高気温34.0℃(2019年5月26日)
流氷初日流氷終日接岸期間
平年値2月15日3月21日35日間

春の根室市は、「春になった」と言ってよいのか判断に迷うほど「気温が上がりにくい」特徴を持ちます。

3月の時点ではまだ「流氷」のシーズンであり、海を氷が覆う間は冷え込みが厳しくなりやすく、過去最大の積雪は3月の観測であるなどまれに大雪が降る年もあり、春というよりは「真冬」により近い気候となります。

4月以降は気温は上昇傾向になるものの、道内各地との比較では最も上がり方が鈍く、5月に入ってからも最高気温が5℃以下になるようなケースもあり、4月までは雪が降ることも一般的です。

2021年5月10日の海水温(出典:気象庁「日別海面水温」)

気温上昇しにくい理由はひとえに「海水温」の影響であり、流氷が解けて間もない冷やされた海水は5月に入ってからも5℃前後の場合があり、海から離れた内陸部では日差しの影響でどんどん気温が上がる場合でも、海に突き出した地形の根室では海からの気流を常に受けるため、気温は上がりにくい状況が続くことになります。

但し、2019年の5月26日には、極端に温暖な空気が流れ込んだ結果、夏の気温を飛び越えて「観測史上最高気温(34.0℃)」が記録されました。これは一種の異常気象のようなものですが、特殊な条件が整った場合は春の終わりに気温が高くなる可能性もゼロではありません。

【夏の気候】国内の海沿いで最も涼しい・霧に覆われやすい季節

平均気温平均最高気温平均最低気温降水量日照時間霧日数
6月10.9℃14.9℃8.1℃103.0mm135.5時間15.9日
7月14.9℃18.7℃12.1℃115.1mm111.7時間20.1日
8月17.4℃20.9℃14.8℃132.3mm124.6時間15.7日
平年値(1991年~2020年)

夏の根室市は、全国的に見ると極めて涼しい地域です。平地や海沿いで見た場合、根室よりも涼しい場所を見つけることは困難で、平均気温は20℃を大幅に下回るなど、「夏がない地域」と言って差し支えない状況です。

気温の低さは、周辺と比べて低い海水温の影響を強く受けるほか、日照時間が少な目で気温が上がりにくいことも大きな要因です。日照時間を減らす現象としては大きくは2点が挙げられます。

1点目は夏の暖かい空気をもたらす「太平洋高気圧」から吹き出す暖かく湿った南風が、冷たい海水が流れる「親潮」の影響で冷やされ、水蒸気の行き場がなくなり濃い霧となる現象です。これは多い年では月20日ほど観測され、朝晩のみの場合も多いですが、状況次第では日中も霧に覆われ、結果晴れ間が少なくなる結果となります。

2点目は寒冷な「オホーツク海高気圧」の影響であり、太平洋高気圧が弱くオホーツク海高気圧の影響が強い年は、逆に北側から湿った冷たい空気が流れ込み、結果どんよりした天気が長続きしやすくなります。

なお、海に近いため道内では比較的雨が降りやすい地域でもあり、日本海側ではすっきりとした天気が続きやすい6月から平年の降水量は100mmを超えています。但し、風は1年で一番弱い時期であり、その点ではやや過ごしやすい環境になります。

「暑い日」の状況を見ると、最高気温30℃以上の真夏日は年1回あるかどうかの頻度で、最高気温25度以上の夏日ですら年間平均10日以下となります。一般論として根室は「エアコン」を設置する必要がない地域と言えるでしょう。

【秋の気候】春とは逆に気温が高い・雪の便りは遅め

平均気温平均最高気温平均最低気温降水量日照時間降雪量最深積雪雪日数
9月16.2℃19.4℃13.6℃160.0mm144.5時間なしなしなし
10月11.6℃14.7℃8.5℃126.1mm162.8時間なしなし0.7日
11月5.6℃8.6℃2.3℃83.2mm148.2時間2cm2cm6.1日
平年値(1991年~2020年)
初雪初積雪(1cm以上)
平年日11月6日12月6日

秋の根室市は、夏までの寒冷な傾向とは異なり、道内各地との気温差が縮まるか、むしろ高くなる季節となります。

気温が比較的高くなりやすい理由は、海水温が夏場にやや暖められ、それが冷えるのに時間が掛かるためで、春とは全く逆の原理になります。道内でも内陸部はシベリアからの寒気が入る場合や「放射冷却」の影響で急速に気温が下がるのに対し、海からの気流を常に受ける根室では気温低下が抑えられ、特に温暖な年は、10月中には5℃以下にならないこともあります。

天候を見ると、海からの湿った気流の影響を受けやすく、道内では雨が増えやすい地域の一つであり、1年の間では9月が降水量のピークになります。台風と秋雨前線の影響を合わせて受ける場合等にはまとまった雨となりやすく、数年に1回程度は1日の雨量が100mmを超えるような大雨も観測されています。

台風の状況は、接近する頻度自体は特に多いとは言えませんが、太平洋上を台風がやや離れて進んだ場合、または宗谷海峡方面を進んだ場合も含め、最大瞬間風速30m/s以上の暴風が過去に吹いたこともあり、間近を通らない場合も含め注意が必要です。

雪については、温暖な上日本海側からの雪雲が届かない場所にあるため、道内では雪の便りが遅い地域で、積雪が11月中には見られない場合が多くなっています。道内では珍しく、秋の間雪とはほぼ無縁に過ごせる可能性が高い地域と言えるでしょう。

【冬の気候】比較的晴れやすい・流氷が気温を左右

平均気温平均最高気温平均最低気温降水量日照時間降雪量最深積雪雪日数
12月-0.5℃2.1℃-3.6℃59.0mm151.8時間28cm15cm17.5日
1月-3.4℃-0.9℃-6.5℃30.6mm154.4時間43cm21cm23.2日
2月-3.8℃-1.2℃-7.1℃23.5mm164.1時間39cm29cm20.5日
平年値(1991年~2020年)
積雪深日降雪量年間降雪量
観測史上最大の値115cm(2014年3月21日)65cm(1960年1月17日)279cm(2014年)
流氷初日流氷終日接岸期間
平年値2月15日3月21日35日間

冬の根室は、全国的に見ればとても寒い場所ですが、「道内」として見た場合はそれほど寒さは目立ちません。根室は海に面しているため、風が弱い条件で発生する「放射冷却」での冷え込みが弱く、冬の初めまでは海水温も高めのため、結果気温は周辺地域(内陸部)と比べ高くなります。

2月については、流氷が接岸してからは気温にやや影響が生じる(海の表面が水ではなく氷になると、放射冷却しやすくなる)傾向がありますが、データ上極端に差が見られるようなことはありません。

天候面では、冬型の気圧配置の影響で「風が強い」傾向がある一方、雪・雨・曇りなど天気が悪くなることが非常に少なく、「晴れ間」という意味では、昼間の時間が短いことを考慮すると「1年で最も晴れやすい」時期と言えます。特に12月の日照時間は、日本海側と比べると5倍以上の差が出る場合もあります。

雪は道内では少ない地域で、50cm以上の積雪になることはまれですが、全国的に見れば雪が身近な地域です。まとまった雪の頻度は特に多くありませんが、太平洋やオホーツク海周辺で低気圧が急速に発達する場合には1日10cm以上の雪となる場合があります。

札幌と比較する

札幌と根室「月平均気温」の比較
札幌と根室「月降水量」の比較
年間平均気温冬の平均気温年間降水量年間降雪量年間最深積雪年間日照時間
札幌管区気象台9.2℃-2.3℃1146.1mm479cm97cm1718.0時間
根室特別地域気象観測所6.6℃(-2.6℃)-2.5℃(-0.2℃)1040.4mm(-105.7mm)159cm(-329cm)34cm(-63cm)1846.7時間(+128.7時間)
平年値、括弧内は札幌との比較

根室市の気候と札幌市の気候を比較した場合、極端なくらい差がはっきりしています。

気温は根室における海水温の影響が非常にわかりやすく、海水温が低い春から夏は札幌より大幅に気温が低く、逆に海水温が下がりにくい秋から冬の初めは札幌とほぼ同じ気温となります。

降水量は太平洋側と日本海側の違いがわかりやすく、海からの湿った気流の影響を受けやすい春の終わり~10月くらいまでは根室の降水量が多くなり、日本海からの雪雲・雨雲が流れ込みやすい11月~春先くらいまでは札幌の降水量が多くなります。

この他、雪は日本海側ではない根室では圧倒的に少なくなり、日照時間は冬は根室で多く夏は札幌で多い、風は根室の方が特に強いといった特徴もあります。

全体的に見た場合「共通点はほぼない」点が根室・札幌の気候の特徴であり、広い道内における気候の違いを象徴する事例と言えるでしょう。

「根室地方」全体の気候については、上記の記事で別途解説しております。