九州地方の「雪」に関する基本を知る【どのくらい降る・積もる?】

自然・気候

国内では最も西側に位置する九州地方は、基本的に「温暖多湿」な気候が特徴です。一方で、冬には大陸側からの寒気が直接流れ込むことがあり、状況によっては雪が降る・積もることもあります。

こちらでは、九州地方の「雪事情(雪の降る・積もる傾向)」に関する基本について解説していきます。

※当記事内の全ての情報は「過去の一般的な傾向」を解説するものです。実際の状況はその時々の気象条件に応じ変化する場合があります。なお、こちらでは「沖縄県」は除いて解説を行います。

基本中の基本・ポイント

あくまでも雪は少ない

九州地方は、雪が多いか少ないかで言えば「少ない」地域です。

例えば、西日本でも「中国地方」のように豪雪地帯指定を受けている地域があるかと言えば、九州には一切ありません。また、四国の山沿いのように、時に50cm以上などかなりの積雪となる地域も、九州にはほぼありません。

九州の場合温暖であるのみならず、北側に朝鮮半島がある関係上、海の上で雪雲が大規模に発達しづらい特徴(海上を雲が進む距離が短くなる)があり、結果として山地も含め豪雪地帯は存在しない状況となっています。

条件が揃うと雪が降る場合あり

一方で、九州地方は特定の条件が揃う場合は、温暖なイメージとは裏腹に気温が大幅に下がり、場所によっては雪がしっかり降る場合があります。

国内で最も朝鮮半島・中国方面に近い九州地方は、シベリアから流れ込む強い寒気が、気圧配置のパターンによっては東日本などを差し置いて、九州めがけて直接流れ込む場合があります(西回り寒波と呼ばれる)。

このようなケースでは海上で雪雲が次々に発生し、九州の西部・北部を中心に流れ込み、平地でも雪が降ることもあります。

平成・令和以降でも長崎・鹿児島などでは15cm以上雪が積もった記録があるなど、温暖で雪が少ないとは言え、「全く降らない」訳ではなく「時には降る」こともある点が、九州地方の「雪事情」の特徴と言えるでしょう。

地域差も大きい

九州は豪雪地はありませんが、比較的「少ない」中でも雪の頻度・量の地域差は比較的大きくなっています。

具体的には、九州の東部、とりわけ宮崎県の沿岸部は雪が舞うことすらほぼなく、10年に1回のペースですら雪が積もらないような地域が広く見られ、日本国内では沖縄・南西諸島などを除き最も雪が少ない場所となっています。

一方で、九州北部はシーズンごとに一度は雪が積もることが多く、県庁所在地でも複数回雪が積もりやすい場所もあります。また、長崎・鹿児島など気圧配置の条件次第では、まれながら10cm以上の大雪に見舞われる地域もあります。九州山地沿いでは何度も繰り返し雪が積もりやすい場所もあり、「九州」と一括りにいっても状況は様々です。

特殊な環境を持つ地域も

九州地方には、雪・寒さという観点からは国内では余り見られないユニークな環境を持つ地域もあります。

一つは「対馬」です。対馬は朝鮮半島に近いこともあり、寒波がやって来る際には「極寒」となる場合があり、昼間の気温が氷点下の「真冬日」となるケースがあります。一方で、北海道のような寒さとなる場合でも、雪はほとんど降りません。これは朝鮮半島に近すぎるため、雪雲が発達する余地がほぼないためです。

もう一つは「屋久島」です。

屋久島は九州の本土側からは離れた亜熱帯の離島ですが、かなり高い山地が見られ、標高が高い場所では大量の雪が降ることがあり、「登山が必要な場所」として見た場合「九州で最も雪が多くなることがある」場所と言えます。

各県ごとの状況は?

福岡県

福岡県は、雪は沿岸部ではかなり少ない傾向ですが、日本海側(対馬海峡側)ということで、寒波が来る場合に時折降ることがあり、雪と無縁という訳ではありません。

福岡・北九州などの都市部では、5cm以上雪が積もることもかなりまれで、まとまった雪となるケースは少なくなっています。但し、ごくうっすら程度を含めると、一度は積もる年の方が多いと言えます。

一方で、寒波がやって来る場合、雪雲は内陸側でやや発達することがあるため、飯塚方面などではまれに10cm以上の雪が積もることがあります。

大分県

大分県は、沿岸部の場合雪は一部を除きかなり少ない一方で、山沿いは標高が高いほど雪の頻度が増え、湯布院なども含め積雪が珍しくない地域が見られます。

沿岸部で唯一雪がまとまって降ることがある地域は、国東半島の北側の一部地域で、関門海峡からの雪雲が直撃し、ごくまれに10cm以上積もるケースがあります。

別府・大分市などそれ以外の地域については、積雪がまとまる事例は極めて少なく、そもそも雪が積もらない年も一般的です。

山沿いは大きく環境が異なり、湯布院など別府・大分から近い地域でも積雪が時折見られる場所があります。標高が高い場所では「冬型の気圧配置」だけではなく「南岸低気圧」で雪が積もることもあります。

佐賀県

佐賀県は、あくまでも雪が少ない九州の中での比較ですが、雪が降る頻度は「九州基準」ではやや多い傾向があります。

佐賀市街地は、九州の県庁所在地では雪が積もる頻度が最も多い地域です。多いと言っても一冬に複数回あるかどうかといった状況ですが、積もる量ではなく単に雪化粧する回数で言えば、年によっては東京より多い場合があります。

また、天山周辺など積雪が珍しくない地域も見られ、標高が高い山間部ではスタッドレスタイヤの利用が一般的な場合もあります。

長崎県

長崎県は、雪が降る機会自体は多くありませんが、長崎市などではまれに福岡・佐賀以上の大雪に見舞われるケースがあります。

長崎市では雪が一度も積もらない年もある一方、平成以降に10cm以上の積雪を観測した記録が何度かあり、まれに大雪が降ることがある地域です。

また、県内は離島部が多いこともあり、大きな地域差が見られます。例えば対馬では朝鮮半島に近いため雪が積もる機会は非常に少ない一方、五島列島についてはごくまれとは言え、平均数年に1回程度まとまった雪となる場合があります。離島部以外については、例えば長崎市側よりは大村・諫早・島原方面の平地で雪の頻度がより少なくなる傾向(場所によっては積もることがかなりまれ)が見られます。

熊本県

熊本県は、平地・沿岸部は天草方面一部例外を除き雪がかなり少なめです。山地については阿蘇周辺などをはじめ、時折雪が積もることがある環境となっています。

特徴的なのは天草地域の一部(主に本渡側)で、雪が一度も積もらない年や温暖なため雨・みぞれとなるケースも多いですが、特に寒気が強い一部のケースでは、10cm以上の大雪(一部では20cm程度)が過去に積もっており、九州の平地では「最も大雪となる機会が多い」とすら言える場合があります。

一方で、熊本市などは雪雲自体流れ込みにくい地域ということで、積雪がまとまるケースはほぼ見られません。

山地は「冬型の気圧配置」のみならず「南岸低気圧」の影響で雪となるケースがあり、場所によっては冬の間に何度も積雪するケースがあります。

鹿児島県

鹿児島県は「南国」の名の通り、基本的に雪が降ることは「かなりまれ」な環境です。但し、まれに特定の条件を満たす場合、南国らしからぬ大雪に見舞われる地域があります。

朝鮮半島から比較的遠い鹿児島県は、薩摩半島及びその北側の地域(大まかには県の西半分)を中心に、海の上で比較的発達した状態の雲が掛かることがあります。気温が高い地域ですので、降っても雨・みぞれのケースも多いですが、寒気が特に強いごく一部の状況では、鹿児島市など平地でも大雪となる場合があります。

平成以降鹿児島市では10cm以上の雪を複数回観測しており、少なくとも大阪・神戸・岡山などと比べると大雪になる頻度が高い地域となっています。

離島部である屋久島・種子島エリアは、通常雪が観測される場所としては国内最南端にあたります(厳密には奄美大島の名瀬でも過去に雪の観測あり)。

宮崎県

宮崎県は、沿岸部・平地など多くのエリアは「九州で最も雪が少ない地域」です。但し、九州山地沿いの標高が高い地域は、雪が当たり前のように積もる特徴があります。

雪は、標高が低いほど、また県の東側ほど「どんどん降らなくなる」特徴があります。宮崎市では積雪を観測することがほとんどなく、雪が舞うことすらほぼない環境で、沖縄・南西諸島などを除いては全国で最も雪が少ない地域です。

一方で、熊本県境側に近い高千穂町・五ヶ瀬町といった地域は、標高が高く気温がかなり低くなりやすい点や、山地の影響で雲が掛かりやすい点などがあり、雪がごく一般的に降る・積もる環境、九州の中では最も雪が多い地域(スキー場もある)の一つとなっています。

同じ県内でもかなり差があるため、車の運転などには注意が必要です。

最も雪が多い・少ない場所はどこ?

九州地方の「人が住む地域」で見た場合、雪が最も多い場所・少ない場所はいずれも宮崎県内にあると言えます。

最も雪が少ない地域は、狭い範囲で述べることは難しく、宮崎県内の太平洋沿岸部の広い範囲となっています。宮崎市などでは、10年に1回のペースですら雪が積もらない状況で、舞う程度の雪すら観測されなかった年も多数存在します。雪が降りにくいというよりは、ほぼ「降らない」地域です。

最も雪が多い地域は、宮崎県内の五ヶ瀬・高千穂町一帯の標高が特に高い地域です。「五ヶ瀬ハイランドスキー場」の存在で知られる通り、標高が高いため気温が長野県の南部などと大きな違いがない地域となっており、まれに北海道のような気温(昼間に-5℃未満)で雪が降ったこともあります。

雪は「冬型の気圧配置」で降ることもある一方、関東のように太平洋上を通る「南岸低気圧」により降るケースも少なくありません。場合によっては20cm以上の大雪になるケースもあり、気温が低めの年であれば、日陰を中心に雪が長期間残ることもあります。