札幌で「熱帯夜」はあるのか?【データから見る「寝苦しい夜」】

夏の暑さというと、最高気温30℃以上の「真夏日」・35℃以上の「猛暑日」が暑さを象徴する要素として最も一般的ですが、夜の寝苦しさを象徴する要素としては、最低気温が25度以上の「熱帯夜」という気象用語もあります。

本ページでは、一般に涼しく過ごしやすい夏が特徴とされる「札幌」について、一見無関係に見える「熱帯夜」というテーマに着目し、熱帯夜はどの程度あるのか・どのような場合に観測されたのか。といった内容などを解説し、観光へ訪れる際などに参考にしていただければと思います。

札幌「過去の熱帯夜」はわずか9日のみ

下記のデータは2022年シーズンまでのデータです。2023年シーズンのデータについては、気温が高い時期が終わりデータが確定した後に反映をする予定です。

最低気温の高い記録観測気温・観測日前日の最高気温
1位27.4℃(2019年7月30日)32.9℃
2位26.0℃(2019年7月31日)33.5℃
3位25.4℃(2021年8月8日)31.9℃
4位25.3℃(2021年8月6日)33.4℃
5位25.3℃(2019年8月1日)32.4℃
6位25.1℃(2021年8月7日)35.0℃
7位25.1℃(1981年8月2日)34.0℃
8位25.0℃(2021年8月4日)34.4℃
9位25.0℃(1985年8月9日)34.2℃

札幌管区気象台において、過去に熱帯夜が観測された記録は極めて少ないものです。熱帯夜自体はあるとは言え、その日数はなんと約140年の観測記録上で、わずか9日のみ。

1年に1回も熱帯夜が観測されないことの方が圧倒的に多く、札幌では熱帯夜という存在は全く一般的とは言えません。

具体的には、1981年8月2日が観測史上最も古い熱帯夜の記録であり、それ以前の約100年間には、一度も熱帯夜は観測されていません。その後は1985年に観測されたほかは2019年まで観測されることがありませんでした。

しかし、近年2019年に3日、2021年に4日観測され、これまで2日しか観測されていなかったところに急に7日間の記録がプラスされ、現在に至っています。

2019年7月30日9時の天気図(出典:気象庁「日々の天気図」<トリミングの上利用>)

過去最も高い最低気温(27.4℃)を観測した2019年7月30日の天気図です。

この期間は全国的に見ても記録的な猛暑が続いている時期で、例年と比べ北側にも暑い空気が入りやすい状況となっていました。また、この際には日中気温が上がった一方で夜にはやや雲が広がりがちな天気となり、北海道付近の等圧線(気圧の傾き)がやや急な点からも分かるように南寄りの風が吹き込む状況も続き、夜になっても風が吹き続けたことで気温が下がりにくかった(一般に夜に気温が下がるのは風がないよく晴れた日)のも大きな要因となっています。

近年増える?熱帯夜

2019年と2021年に合計7日間観測された熱帯夜。これだけをもって「熱帯夜が増えた」と断定するのは早計かもしれませんが、昭和の後半まで100年程度観測されず、更に昭和から平成にかけても30年以上観測されなかった時期があることを考えれば、「何か違うフェーズ」に入ったというようにも捉えられることも確かです。

札幌の熱帯夜を含む気温上昇については、気候変動による一般的な温暖化という全体的な気温の変化という要素・その時々の気象条件(南風が吹くなど)も大きな要因としては考えられますが、都市化によるヒートアイランド現象という事情も一般的には大きく関わると考えられます。

ヒートアイランド現象は、都市化により熱が溜まりやすく、かつ放出されにくくなる現象であり、札幌に留まらず全国各地の都市部ではっきり確認されるものです。札幌では近年にかけても高層ビルやマンション建設が都心部を中心に急ピッチで進み、熱が蓄積されやすい人工物の増加、また地表から空が見える範囲が少なくなる=熱が放出されにくい条件の増幅をもたらしています。

ヒートアイランド現象では、一度暑くなってしまうと熱が溜まる悪循環をもたらし、連日の猛暑日や熱帯夜をもたらす可能性を増やします。実際に、2019年の熱帯夜は3日連続、2021年の熱帯夜は中1日を挟んで4日間続いて発生しており、過去に観測された日数が極めて少ないにも関わらず、一度観測されると同じ期間に何度も観測される傾向があることが確認できます。

札幌市内では、今後も都心部では大規模な開発が進むとされており、温暖化・気候変動による気温上昇リスクとあいまって、ヒートアイランド現象の影響がよりはっきり見られる頻度が増える可能性もあります。熱帯夜など関係ない。と言えていた札幌でも、熱帯夜は当たり前。とは言わずとも、時々見られる=珍しくない。といったような一段階異なるフェーズに入りつつあると言えるでしょう。

札幌の様々な「気温」に関するテーマ・札幌におけるヒートアイランド現象については、上記の記事で別途解説しております。