札幌市における「ヒートアイランド現象」とは?【冬に顕著】

札幌市の気候は、一般にとても寒冷なイメージを持たれていますが、気温のデータを見ると、札幌の都心だけ気温が高くなっていたり、周辺地域と比べ10℃前後の気温差が生じていたりするなど、道内では特に温暖な環境になっているという特徴があります。

こういった局地的な気温の上昇は、ほぼ全てが「ヒートアイランド現象」と呼ばれる気象現象によるものです。当ページでは札幌における「ヒートアイランド現象」の実態について、基本的なデータを見ながら考えていきたいと思います。

ヒートアイランド現象の基礎知識

ヒートアイランド現象とは、非常にシンプルに言えば「都市部の気温が、周辺と比べ高くなる現象」です。

都市部。というとそれだけで気温が上がりそうなイメージがありますが、具体的には以下のような要因で気温が上昇します。

・エアコンの室外機や自動車をはじめ各種の排気が気温を直接上げる。
・舗装された地面・道路や多数の建物などが熱を蓄積して、夜間にも熱を放出する。
・水辺、土や植物(木・森)など気温上昇を抑える「自然」が少ない。
・高層ビルや高層マンションが海から吹く比較的涼しい「海風」の「防波堤」となってしまう。

こういった現象は、都市部であればどこでも発生する可能性があるものですが、実際に東京や大阪の都心部では極端なくらいの気温上昇が発生することがあり、周辺地域との差が生じる日々の気温データが「ヒートアイランド」の証明になっています。

札幌における「ヒートアイランド現象」

札幌で発生する「ヒートアイランド現象」は、全ての季節で見られると考えられますが、データから直接見ることが出来る「最低気温」の状況と、余りはっきりしない「最高気温」の状況という2つの傾向が観察されます。

極端に最低気温が高くなる「冬」の札幌

冬の札幌は、一般には「寒い地域」であるとされ、実際に朝の気温が-5℃以下になることはよくあることで、-10℃以下になることも時折見られます。この気温は東京や大阪などと比べれば、極端な低温であり、一見するとこれのどこが「ヒートアイランド現象」なのかわかりにくいかもしれません。

しかし、札幌の「冬の最低気温」の平均値をグラフ化して見ると、極度の「温暖化」傾向がはっきりとわかります。

地球温暖化自体は、上がっているとは言え1880年~2020年で平均1.5℃以下の上昇となっている中で、札幌の最低気温は150年弱の期間で少なくとも6℃ほど上昇しており、「上がり過ぎ」といって良いくらいです。

変化を見ると、概ね第二次世界大戦が終わる頃までの期間は上昇傾向がさほどはっきりしておらず、平均すれば-10℃以下の最低気温が当たり前の時期となっています。

上昇は1950年前後に急に顕著となり、一気に「底」が上がっており、これは北海道内の都市で札幌が断トツの大都市へと変わっていった時期=都市化が急速に進んだ時期と一致しています。

平成以降は一層上昇した最低気温は、-4℃台や-5℃台といった、戦前の最も低い時期と比べ10℃程度高い平均気温すら観測される状況となり、近年は-10℃前後の最低気温平均値は観測されなくなっています。

なお、最もはっきりしたデータである上記の「1月の最低気温」に留まらず、朝の最低気温は1年間を通じて過去と比べ極端な上昇が見られます。例えば7月・8月のような温暖なシーズンについても、やはり5℃程度と、極端な気温上昇が観測されています。

明治時代の札幌では、朝9℃。昼間27℃。といったような日も時に見られるほどでしたが、今は朝に10℃以下はおろか、年によっては15℃以下にすらならない状況で、夏の朝は「肌寒い」から「涼しい・ふつう」へと大きく変化しているのです。

夏の最高気温は変化なし?

ヒートアイランド現象は、一般的なイメージとしては「夏の暑さ」に特に関係する現象と思われている傾向があります。

札幌の夏の暑さについて、明治時代から近年までの「8月の最高気温平均」を見ていくと、以下の通りとなります。

グラフからもわかるように、見た目上最高気温はほとんど上がっているように見えません。

詳しく分析すると、近年のデータは少なくとも明治時代よりはやや高い数値であることが多いですが、例えば近年でなくても戦後しばらくの期間かなり高い気温が続くことがあったように、時期ごとの変動があるため、「最近になって気温が大幅に上がっている」とは言い難い状況です。

一方、気象庁が発行する「ヒートアイランド監視報告(2010年)」においては、「北海道石狩地方とその周辺の夏季におけるヒートアイランド現象」として、札幌における夏のヒートアイランド現象について分析が行われています。

この解析によると、「札幌の夏季の最高気温に有意な気温上昇の傾向は現れていない(p.28)」とする一方、一見すると気温データ上その影響がはっきりしない札幌周辺でも、都心周辺と郊外では1℃程度の気温差があり、ヒートアイランド現象が発生しているという議論がなされています。

大阪などのように、古い時代と比べ2℃以上「データ」からも気温上昇が読み取れる地域とは異なりますが、札幌の夏に「ヒートアイランド現象」がない。という訳ではないのです。

朝のヒートアイランド現象はどうして顕著?

札幌のヒートアイランド現象は、全国的に見ても「朝」の最低気温上昇が極めて大きく、一方で昼間は現象そのものは「ある」とは言え、それほど実感するようなことはない最高気温上昇に留まっています。

この差はなぜ生じるのでしょうか。

これについては、朝の「放射冷却」を抑える効果が都市化で非常に大きくなっている点が挙げられます。

「放射冷却」とは、要するに「熱を持つ物体が外側に熱を放射して、温度が下がる現象」です。

一般的に「放射冷却」は気象用語として扱われていますが、充電中熱かったものが充電器を抜くと冷たくなったり、暑い鍋を放置したら冷たくなるのも、要は熱を外側に放射して冷却しているという点で原理は同じです。

放射冷却は、地上の熱をどんどん上空へ逃がして気温を下げていきますので、晴れて上空がすっきりしている日は強く、曇りや天気が悪い日は弱く(ほとんどない場合も)なります。

都市化が進むと、特にビルなどが立ち並ぶ状況は、上を眺めればわかるように「上空」が見える面積を減らします。すなわちこれは「雲」と同じような効果を持つことになります。

また、舗装された地面・コンクリートなどは土や植物で覆われた自然の地面と比べ、暖まりやすく冷えにくい。熱を溜め込みやすい性質があるため、気温の低下を抑えます。

市街地は風通しも良くない場合があるため、空気がよどみやすくこれも気温の低下を抑える要因になります。

要は「放射冷却」されにくい状況を都市化は引き起こすため、札幌の朝の気温はどんどん上がって来たわけなのです。

特に北海道の場合、冬は雪が積もるのが当たり前となり、積雪は放射冷却の効果をより高くしますので、朝の気温は本来どんどん下がるはずなのですが、都市化されてしまうとその影響が薄れてしまうので、札幌都心部と自然豊かなそれ以外の地域の最低気温の差が極端に大きくなります。

例えば、恵庭島松アメダスでは-20℃程度になることもありますが、そのような場合でも札幌の最低気温は-10℃程度となることが多く、時に10℃程度の差が生じます。

近距離かつ山間部以外でこれほどの気温差は本州では生じにくく、雪が放射冷却の影響を強くする北海道特有の要因が、かえって札幌のヒートアイランド化を目立ちやすくしているのです。

札幌の様々な「気温」に関するテーマについては、上記の記事で別途解説しております。