こちらでは、東北地方の中では太平洋側に位置する「岩手県」の気候について、全体的な特徴や季節ごとの傾向などを詳しく解説していきます。
岩手県の気候「全体的な特徴」
岩手県は、東北地方の中では南北に伸びる奥羽山脈の東側、位置的には太平洋側に位置する県です。なお、太平洋側といっても人口の大半が住む盛岡市~一関市周辺の北上川流域(北上盆地)は、海からは北上山地を隔てて離れており、海の影響を強く受ける地域は久慈・宮古・釜石・大船渡市などの沿岸部中心となります。
気候は緯度の高い地域ですので概ね寒冷な傾向が強く、特に内陸部・山間部では-20℃以下の極寒と言える冷え込みになる場合があります。また、夏は太平洋から吹き込む湿った冷たい風「やませ」の影響を受け、海沿いの地域を中心に日照時間が減り、気温も上がらない日が続くことがあります。
雪は日本海側ではないため秋田・山形県などと比べるとかなり少ないですが、奥羽山脈沿いはかなりの豪雪となることもあります。
岩手県「季節ごとの気候」
【春の気候】寒さは残りやすい・3月は大雪も
岩手県の春は、首都圏や京阪神などと比べ、北に位置するため季節の進みは遅い傾向が顕著です。
3月はまだ冬と言ってよい寒さが続くこともあり、太平洋側を発達しながら通る低気圧の影響を受け、まとまった雪が降りやすい時期でもあります。降雪記録を見ると太平洋沿岸部や北上山地沿いの「雪のピーク」は2月から3月にかけての時期であり、春に近づいたから雪が減る。とは一概には言いにくい傾向が見られます。
地点 | 過去最多の積雪量 |
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奥中山 | 131cm(2018年3月2日) |
宮古 | 101cm(1944年3月12日) |
岩泉 | 97cm(2003年3月8日) |
二戸 | 87cm(2003年3月8日) |
遠野 | 50cm(2007年3月13日) |
また、4月以降は春らしさが増していき、5月には少し暑いくらいの日も増えていきますが、雪は4月の初め頃まで、霜や氷は5月の初め頃まで平地で見られることもあります。
春の天気は概ね周期的に変わり、晴れる日は1年の中で最も多く、夏や秋と比べても日照時間がかなり長くなる傾向が見られ、特に行楽に適したシーズンと言えるでしょう。
桜については寒冷地であるため見頃は遅く、東京や大阪などと比べると平地でも1か月程度の差が生じることがあります。なお、県内の南北でも気温差がありますので、南部ではやや早く咲き、北部ではより遅く咲く傾向があるとも言えます。
盛岡市の桜(平年値) | |
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開花日 | 4月21日 |
満開日 | 4月25日 |
【夏の気候】やませの影響で日照不足の場合あり
岩手県の夏は、全体的に見ると内陸部などでは暑くなる日も多いですが、意外な程に雨が多かったり・日照時間が少なかったりすることもあり、夏らしさを少し感じにくい傾向が年によっては見られます。
梅雨については、東北地方の北側ですので梅雨入り時期は全国で最も遅い地域で、6月下旬になることも多く、降水量は7月以降に増えていきます。雨は8月にかけても多い状態が続き、太平洋沿岸部では平年の雨量で見ると7・8・9月と降水量が増えていく状況が見られます。
夏の雨の多さや日照時間の少なさは、梅雨前線とも秋雨前線とも言える前線が長く停滞するケースに加え、東北地方太平洋側特有の湿った東寄りの風「やませ」による所が大きくなっています。
「やませ」が吹くと霧や低い雲に覆われ、小雨・霧雨が降ることもあり、気温は20℃前後止まりと真夏らしからぬ気候が続くことになります。発生状況は年によって差が大きく、影響が大きな年は日照時間が1か月100時間を割り込んで冷夏となり、米の生産に悪影響を及ぼすこともある一方、晴れる日が多く影響が少ない年も多くなっています。
やませは平成以降では1993年・2003年に大きな影響を及ぼしました。特に1993年は米が極端な不作となり、岩手県の作況指数は30と通常の3割程度まで落ち込みました。全国的にも米不足となったことで、外国からの輸入米が食卓に並ぶなどしたことでも知られます。
【秋の気候】沿岸部は雨が多い・寒さは早く訪れる
東北北部に位置する岩手県は、秋の気候は概ね季節の進行が速い傾向があり、残暑があったと思えばすぐに冬の兆しといったように、寒さを感じる時期は本州南部と比べかなり早くなります。
初霜・初氷は10月に、初雪は概ね11月頃には見られることが多く、場合によっては平地でも11月に雪化粧することがあります。
台風については、暴風被害よりも大雨による被害が発生する頻度が多く、時には河川の氾濫や土砂災害を伴うこともあるほか、9月は秋雨前線などの影響を受けやすいこともあり、9月が1年の雨のピークとなる観測地点も沿岸部を中心に多く見られます。
変わった進路を取ったことでも知られる2016年の台風10号では、太平洋沿岸部に大雨をもたらし、特に岩泉町では多くの人的被害も発生するなど甚大な災害となりました。
岩手県内の紅葉は気温の関係上見頃が早いことが特徴で、標高の高い八幡平一帯では9月下旬頃から、中尊寺などの平地でも10月下旬頃からは見頃となることが多くなっています。
【冬の気候】一部を除き雪はやや少な目・極寒の地も
冬の岩手県は、全体的に寒冷な傾向が強く、沿岸部こそ海の影響を受け気温の低下はやや抑えられますが、内陸部・山間部では場所によって最低気温が-20℃前後まで冷え込むことがあり、盛岡市街地でも–10℃の冷え込みは珍しくないなど、本州で最も寒い場所の一つとも言える環境です。
雪は日本海側ではありませんので、秋田県・山形県・青森県西部と比べると少ない傾向がはっきりしていますが、雪雲が流れ込む西和賀町など奥羽山脈沿いは豪雪に見舞われる地域です。
なお、太平洋沿岸部は三陸沖などを発達しながら通る低気圧の影響を受け、宮古や釜石では時に数十㎝単位のドカ雪に見舞われるケースもあります。但し、南からの暖気が入りやすい大船渡方面の雪はかなり少な目です。
盛岡など北上盆地周辺の地域は、大雪は少ない地域ですが「冬型の気圧配置」でも「低気圧」でも一定の積雪になることが多いため、気温が低い県北部を中心に少ない積雪でも「根雪」状態になる場合があります。
地点 | 最深積雪平年値・過去最深積雪 |
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湯田 | 191㎝(最多279㎝:2013年2月25日) |
雫石 | 65㎝(最多113㎝:2006年2月10日) |
盛岡 | 36㎝(最多81㎝:1938年2月19日) |
宮古 | 26㎝(最多101㎝:1944年3月12日) |
大船渡 | 11㎝(最多32㎝:1984年2月28日) |
地点 | 日最低気温の平年値(1月) |
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薮川 | -13.2℃ |
区界 | -11.2℃ |
葛巻 | -8.2℃ |
盛岡 | -5.2℃ |
宮古 | -3.5℃ |
大船渡 | -2.4℃ |
岩手県の気候トピック
北上山地と大雨・大雪
リアス式海岸などが続く宮古・釜石方面など岩手県の太平洋沿岸部は、年間で見ると特段降水量が多い訳ではありませんが、台風や低気圧の影響を受け、時に東北地方では異例と言えるほどのまとまった雨・雪に見舞われることがあります。
これは、太平洋から流れ込む湿った気流が北上山地にぶつかって雨雲などを発達させやすいことに由来するもので、山から見て内陸側に位置する盛岡市とは全く異なる天気になることも少なくありません。
やませの仕組み
岩手県をはじめ東北地方太平洋側に大きな影響を及ぼす冷たい東風「やませ」。
やませは、太平洋高気圧が弱い年に冷たい空気を伴った「オホーツク海高気圧」が張り出してそこから吹き出す風であり、東北~関東の太平洋沿岸部に影響を及ぼします。
冷たい空気の層は概ね高さ1500m程度であり、奥羽山脈を越えることはほぼないため、太平洋側に冷気が溜まって長期間曇り・小雨・気温低下をもたらすことになります。
本州一寒い「薮川」アメダス
岩手県は寒冷な地域であり、冬には標高の高い内陸部・山間部で-10℃~-20℃程度の冷え込みになることも珍しくありませんが、その中でも特に気温が下がる地点として、盛岡市の山間部にある「薮川」アメダスがあります。
薮川では気象庁の記録に残る限りでは、1988年2月17日に-27.6℃を観測したことがあるほか、近年でも-25℃台を観測しており、-30℃以下になることがある北海道を除けば、本州より南では最も寒い観測地点となっています。
東北地方各県の気候については、別途上記の各記事で詳しく解説しております。