日本の都道府県庁所在地の中では、青森に次いで雪の多い地域である札幌のまち。
雪による災害は、積雪~cm。という積もっている量の絶対値も大きな要因になりますが、それ以上に、1日や数時間といった短い期間で極端な量の雪が降る「ドカ雪(大雪・ゲリラ豪雪とも)」の影響が大きく、例えば1日で50cm以上雪が降ったりすると、多くの地域で道路交通がマヒしたり、建物や樹木・電線などに被害が生じることがあります。
こちらの記事では、札幌の雪について、積雪量そのものではなく、短時間に降る「ドカ雪」について、その頻度や状況、他の地域との比較などを見て行きたいと思います。
「ドカ雪・大雪」に関する基本データ
日本国内の主要な「雪が降りやすい」都市における、観測史上最大の日降雪量と、年間に一定量の降雪量となる「日数(平年値)」を一覧化すると以下のようになります。
地点名 | 観測史上最大 日降雪量 | 日降雪量 ≧1cm 年間平年日数 | 日降雪量 ≧3cm 年間平年日数 | 日降雪量 ≧5cm 年間平年日数 | 日降雪量 ≧10cm 年間平年日数 | 日降雪量 ≧20cm 年間平年日数 | 日降雪量 ≧50cm 年間平年日数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
高田(上越) | 106cm | 56.0 | 33.4 | 25.5 | 14.2 | 5.5 | 0.5 |
帯広 | 102cm | 31.1 | 17.4 | 12.5 | 6.4 | 2.1 | 0.2 |
若松 | 98cm | 54.2 | 29.5 | 21.4 | 11.4 | 3.1 | 0.2 |
伏木 | 89cm | 31.5 | 20.6 | 15.5 | 9.2 | 2.6 | 0.1 |
新庄 | 86cm | 76.7 | 54.0 | 43.1 | 26.8 | 7.3 | 0.1 |
富山 | 84cm | 35.0 | 21.8 | 16.4 | 8.6 | 2.9 | 0.1 |
豊岡 | 84cm | 32.5 | 17.4 | 12.7 | 7.0 | 2.2 | 0.1 |
金沢 | 84cm | 30.4 | 16.7 | 10.9 | 4.5 | 1.1 | 0.1 |
小樽 | 84cm | 86.6 | 57.3 | 40.9 | 20.3 | 4.2 | 0.0 |
甲府 | 83cm | 3.4 | 1.8 | 1.4 | 0.7 | 0.2 | 0.0 |
米子 | 79cm | 18.0 | 9.3 | 7.0 | 2.8 | 0.6 | 0.0 |
敦賀 | 78cm | 21.0 | 11.0 | 7.4 | 4.0 | 1.5 | 0.0 |
鳥取 | 75cm | 21.5 | 12.2 | 9.1 | 4.3 | 1.6 | 0.1 |
境 | 70cm | 17.3 | 7.9 | 5.3 | 2.1 | 0.4 | 0.0 |
青森 | 67cm | 78.7 | 52.7 | 40.8 | 22.8 | 5.2 | 0.0 |
高山 | 64cm | 50.6 | 28.4 | 19.3 | 10.6 | 3.0 | 0.0 |
新潟 | 63cm | 30.0 | 14.0 | 9.2 | 3.5 | 1.1 | 0.1 |
札幌 | 63cm | 82.0 | 46.3 | 33.8 | 15.5 | 4.2 | 0.0 |
酒田 | 63cm | 49.2 | 25.7 | 14.3 | 5.2 | 0.8 | 0.0 |
福井 | 63cm | 32.1 | 18.3 | 13.1 | 5.7 | 1.6 | 0.0 |
舞鶴 | 63cm | 22.2 | 12.4 | 8.7 | 4.4 | 1.5 | 0.0 |
留萌 | 62cm | 97.8 | 54.5 | 38.1 | 18.4 | 4.1 | 0.1 |
旭川 | 62cm | 100.0 | 59.3 | 41.4 | 19.6 | 3.2 | 0.0 |
稚内 | 61cm | 98.9 | 51.6 | 31.8 | 13.6 | 2.7 | 0.1 |
函館 | 60cm | 65.5 | 34.3 | 22.7 | 9.1 | 1.4 | 0.0 |
秩父 | 59cm | 5.3 | 3.3 | 2.1 | 1.2 | 0.4 | 0.0 |
岐阜 | 56cm | 6.6 | 3.6 | 2.4 | 1.0 | 0.3 | 0.0 |
紋別 | 55cm | 74.6 | 36.4 | 22.3 | 9.2 | 2.0 | 0.1 |
秋田 | 54cm | 60.5 | 33.1 | 20.9 | 6.8 | 0.9 | 0.0 |
山形 | 54cm | 53.5 | 30.0 | 20.8 | 10.0 | 1.7 | 0.0 |
長野 | 52cm | 33.5 | 16.8 | 10.9 | 5.0 | 1.3 | 0.0 |
彦根 | 51cm | 12.8 | 7.7 | 5.5 | 2.8 | 0.9 | 0.0 |
網走 | 49cm | 71.1 | 35.5 | 21.3 | 7.9 | 1.8 | 0.1 |
釧路 | 47cm | 25.2 | 13.0 | 8.6 | 4.0 | 0.9 | なし |
盛岡 | 40cm | 22.8 | 14.4 | 6.2 | 1.2 | 0.0 | 0.0 |
日本で一番雪が多い青森・2番目に多い札幌は、必ずしもこれまで1日に降った雪の量の記録で見れば、上位に食い込んでいる訳ではありません。
むしろ、ドカ雪の記録は北海道では帯広など太平洋側の一部、本州では山陰から北陸、福島内陸部にかけて集中しており、こういった地域では1日70cm以上の観測記録があり、とりわけ新潟県上越市(高田)と北海道帯広市では唯一市街地で1日1m以上の降雪が観測されています。
札幌のこれまでで一番の「ドカ雪」は1日63cm。これはこれで十分な大雪なのですが、最高記録で見ると鳥取県の米子・境港、兵庫県の豊岡や福井県の敦賀といった温暖な地域に加え、日本海側ではない甲府にも記録面では抜かされています。
一方で、一定以上の降雪を記録にした日数で見ると、50cm以上のドカ雪自体はそもそも珍しく、北陸であっても高田で2年に1回ペースであるのを除いては、ほとんどの場所で10年に1回ペースかそれ以下の頻度であり、とてつもないドカ雪・大雪はどの地域でも珍しい現象であることが分かります。札幌についても、50cm以上の降雪が記録される頻度は10年に1回以下で、最後に観測されたのは2002年の56cm/日となっています。
まとめれば、札幌で度肝を抜くような「ドカ雪」となる頻度自体は極めて少なく、過去の事例で見ても北陸~山陰ほどの集中豪雪にはなりにくい。という点がはっきりあると言えるでしょう。また、北海道内で見ても、本来雪が少ない太平洋側の方がドカ雪自体は起きやすい傾向もはっきりしています。
なお、ドカ雪とは言えず、生活に大きな支障も出ないとは言え「ある程度まとまった雪」と言える1日10cm以上の降雪量を観測する年間の平年日数を見ると、札幌は比較的頻度が多くなっており、山陰・北陸・新潟の全ての主要都市を上回っています。
札幌は、ごくまれなドカ雪よりも「ほどぼどに降る」雪の量がいつも多いため、全体で見ると日本で2番目に雪の多い都道府県庁所在地になっているのです。
札幌で記録的な「ドカ雪」が発生しにくい理由
JPCZ(日本海寒気団収束帯)の影響を受けない
山陰や北陸など、比較的気温が温暖な地域で札幌以上の「ドカ雪」が降る理由は、上越高田に関しては地形などの特殊要因もありますが、それ以外は原則として全てのケースがJPCZ(日本海寒気団収束帯)と呼ばれる現象によるものです。
JPCZは、朝鮮半島北部(中国と北朝鮮の国境)に位置する「白頭山」付近で、シベリアから下りてきた寒気(季節風)が山にぶつかって東西に向きをやや変え、その分かれた風が日本海に達してから再度「ぶつかる(収束する)」ことで発生するものです。
風がぶつかると上空への上昇気流が生じやすくなり、日本海は比較的海水温も高いことから雪雲(雨雲)が急発達します。収束帯は風向きにもよりますが、白頭山の位置上山陰~北陸・新潟周辺に直撃するケースがほとんどで、この影響を受ける範囲では、1時間に場合によっては5cm前後のかなり強い雪が、数時間どころではなく、場合によっては半日以上降り続くことで50cm前後かそれ以上のドカ雪になることがあります。
他方、札幌は地理的にJPCZの影響は100%受けない場所にあるため、これらによる「ドカ雪」リスクは存在しません。後述するように札幌にもJPCZに少し似た「石狩湾小低気圧」という存在がありますが、雪の量や頻度・インパクトはJPCZと比べるとやや少ない・小規模と言えるでしょう。
爆弾低気圧の影響をやや受けにくい
北海道における「ドカ雪」は、そのかなりの割合は道東エリアで発生します。これは、特に1月~3月頃を中心に、頻度は多くありませんが、時折北海道の南海上または北海道の真上において低気圧が急速に発達し、その低気圧による雪雲(場所によっては雨の場合も)が長時間掛かり続けること、そして道東地域は寒気が溜まりやすく雪が降りやすいことに由来します。
帯広では、これまで1日の降雪量が70cm/日以上となったことが6回もあり、その全てが低気圧に関係する大雪です。
低気圧による雪雲は、特にひどい場合1時間に10㎝前後の降雪量となることがありますが、このような集中的なドカ雪は、札幌など日本海側で降る雪ではまず発生しません。札幌は低気圧の影響を受ける場合でも、太平洋側からの気流の影響を受けにくい日本海側にあるため、まれにドカ雪になることはあっても、帯広の降雪量を上回ることは極めて少なくなります。
また、多くの場合温度もやや高く重く湿った積もりにくい雪・みぞれになることもある他、降り続ける時間も道東よりはやや短くなる傾向があります。
海水温の影響で1月以降雪がやや減る
札幌を含む北海道の特に日本海側では、雪の降る強さは「海水温」の動向にも左右されがちです。日本海といっても、山陰や北陸周辺では10℃台の海水温が冬場続く一方、北海道付近は数度程度とかなりの差があり、これは雪雲の発達に大きな影響を及ぼします。
日本海で雪雲が発達するメカニズムは、要は「シベリアからの寒気」と「比較的暖かい海水温」の温度差で上昇気流が生じるという点に集約され、海が暖かく、寒気が強いほど雪雲が強くなるというシンプルな構図があります。
つまり、北海道付近で真冬になり海水温がどんどん下がってしまうと、寒気がそれなりに強くても・風が収束して上昇気流が生じやすくなっても、温度差が少なくなることで、雪雲が弱くなる・途切れやすくなるといった状況が起きやすくなるのです。逆に言えば、札幌・北海道では海水温が暖かい12月中に、むしろまとまった雪が集中しやすい傾向も見られます。
12月にまとまった雪が降る状況については、上記の記事で詳しく解説しています。
札幌でまとまった雪・ドカ雪をもたらす要因は?
年間で降る雪の総量の割には、一度に降る「ドカ雪」の頻度はさほど多くない札幌。そうは言っても、過去には1日30~60cm程度の雪が降ったこともあります。そういったまとまった降雪量となったケースでは、どういった要因が影響しているのでしょうか。
石狩湾小低気圧・西岸収束雲
札幌「特有」のまとまった雪をもたらしやすい要因としては、北海道の日本海側の一部のみで発生し、主に石狩湾付近から札幌周辺に直撃する「石狩湾小低気圧(または西岸収束雲)」と呼ばれるものがあります。
こちらは、メカニズムは全く異なりますが、雪雲の塊が突っ込んで来るという意味では。先述した山陰~北陸でドカ雪をもたらす「JPCZ」に似た存在とも言え、概ね数時間程度、1時間に多くて5センチ前後の雪をもたらすことが多くなっています。
小低気圧は、冬型の気圧配置の際でも「緩みかけ=やや弱い冬型」の際や、発達した低気圧が北海道の遠い東海上に位置する際などに生じやすく、低気圧と言っても、天気図上で表せるかどうか。というくらいの小さな「気圧のくぼみ」が生じるのみですが、レーダーで見ると渦を巻いた雲が強い雪雲を伴いながら確認できるなど、短時間ながら威力はかなりのものです。
発生要因については、極端な冷え込みになる北海道内陸側が局地的な「高気圧」となるため、そこから風が吹き出し、逆方向から吹き込む季節風とぶつかることで上昇気流が生じ、このような現象になるという考え方などがあります。
なお、ぐるぐる渦を巻く低気圧とは言えない場合でも、異なる風向きの風がぶつかりあうことで本州におけるJPCZのような「西岸収束雲」が同じような場所で形成され、石狩湾小低気圧と同じように大雪をもたらすケースも多く見られます。
「寿命」や「頻度」で見ると、山陰~北陸にかけての「JPCZ」と比べ石狩湾小低気圧及びそれに類するものは劣ることが多く、まとまった雪になったとしても、1日の雪の量が50cmを越えるようなドカ雪となることは、札幌では極めてまれと言えます。
石狩湾小低気圧・西岸収束雲に関する詳細は、上記の記事で詳しく解説しています。
強烈な冬型の気圧配置
50cm単位のドカ雪になることはほぼありませんが、ただ単純に「冬型の気圧配置」が非常に強まるケースでも、風向きなどの条件に応じて10~20cmくらいのまとまった雪になる事はあります。
雪雲が概ね「一列」になって流れ込んで来るごく一般的な冬型の気圧配置で札幌がまとまった雪になるには、風向きが西寄りではなくやや北寄りの風となることが一つの条件となります。また、岩見沢でドカ雪となる場合は札幌では晴れている場合が多い代わりに、岩見沢で余り雪が降らないケースでは、札幌周辺で集中的な雪となっている場合があります。
風向きについては、時間の経過とともに次々に変わる場合は余りまとまった雪にはなりませんが、同じ風向きに固定されると同じ場所でずっと降り続くことになり、例えば市内でも~区ではたいしたことがないのに、~区ではドカ雪になった。とかいったことが生じることもあります。
冬型の気圧配置による雪については、上記の記事で詳しく解説しています。
頻度は多くない「爆弾低気圧」
先にドカ雪の頻度がさほど多くない理由として、帯広方面ほど「爆弾低気圧」の影響を受けにくい。と解説しましたが、札幌でも頻度としてはまれですが、急発達する低気圧本体の影響で記録的な雪が降ったことがあります。
例えば、観測史上最大の63cmという日降雪量を観測した1970年1月31日の雪は、「冬型の気圧配置」でも「石狩湾小低気圧」でもなく、台風並みに発達した「爆弾低気圧」が北海道の太平洋沿いを進んだ際に記録されています。近年では、2016年12月22~23日にかけても、40cm近い雪が急発達する低気圧本体の雪雲によって降っています。
爆弾低気圧通過時は、多くの場合で先述したように雪雲の主な部分が道東側に集中する・気温が比較的高く積もりにくいといった理由で札幌ではさほど極端な降雪量にならない場合が多いですが、余りにも強烈な低気圧(雪雲の範囲が広い)であり、低気圧のスピードが北海道付近で遅くなり、かつ雪が積もりやすい気温条件であれば、札幌でも極めてまれに災害級の雪になる可能性はないとは言えません。
低気圧による雪については、上記の記事で詳しく解説しています。
過去の「降雪量記録」を「要因」別でまとめると
過去の「1日で降った雪の量の最大記録(日降雪量の最大記録)」を一覧化し、その要因を見てみると、以下のようになります。
順位 | 日降雪量 | 観測年月日 | 雪の要因 |
---|---|---|---|
1位 | 63cm | 1970年1月31日 | 爆弾低気圧 |
2位 | 56cm | 2001年12月10日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
3位 | 56cm | 2000年2月25日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
4位 | 52cm | 1983年2月26日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
5位 | 52cm | 1966年12月29日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
6位 | 51cm | 1995年12月12日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
7位 | 51cm | 1981年1月22日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
8位 | 50cm | 1983年2月27日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
9位 | 49cm | 1966年1月9日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
10位 | 49cm | 1964年12月10日 | 冬型の気圧配置(西岸収束帯または小低気圧) |
上位記録で見ると、1位が爆弾低気圧であっても、それ以下は全て冬型の気圧配置の過程で発生した西岸収束帯または石狩湾小低気圧によるもので、やはり日本海側に位置する以上は、日本海側特有の「雪の降り方」が多いことが分かります。
なお、これより更に下位を見ると一定程度「爆弾低気圧(または低気圧通過・気圧の谷)」による雪の記録も見られます。とりわけ近年は、暖冬が増えて冬型の気圧配置の頻度が少しだけ減っているため、相対的に低気圧が要因となるまとまった雪がやや増えている傾向があります。
札幌で降る「雪の量」に関する全般的な知識については、上記の記事で詳しく解説しています。