雪が多い都市の代表格である札幌のまち。札幌では、一度に降る雪の量は北陸・新潟で「ドカ雪」になる時ほど極端なものにはなりませんが、そうはいっても時には1日30cm以上のかなりの大雪、場合によっては50cm前後の「ドカ雪」と言って差し支えないような雪に見舞われることもあります。
こちらでは、札幌で降るまとまった雪の「最大の要因」になっている「石狩湾小低気圧・西岸収束雲」という存在について、やや専門的な内容も含め詳しく解説していきます。
石狩湾小低気圧とは
札幌に時折大雪をもたらす存在である「石狩湾小低気圧」。これは、その名の通り札幌の北側に広がる「石狩湾」付近を中心に見られる小さな低気圧を指す名称です。
内陸との気圧差が生じ風がぶつかることで発生
この低気圧は「小低気圧」という名の通り、気圧の差で言えば1~2hPa(ヘクトパスカル)くらいしか差がなく、天気図ではしっかり描かれにくい(何もないように描かれる場合も多い)低気圧です。
発生する原因は北海道特有のものとなっています。
典型的な石狩湾小低気圧発生時について、そのメカニズムを大まかに説明すると、以下のようになります。
条件 | ・冬型の気圧配置ではあるが、発達した低気圧は北海道のかなり東へ離れている ・内陸部などで厳しい冷え込みとなっていること |
原因1 | 北海道の内陸部は「放射冷却」などで-20℃以下といった極端な冷え込みになることで、そこから風が西側の日本海など周辺へ吹き出す(内陸高気圧とも呼ばれる) |
原因2 | 海面が流氷で覆われたオホーツク海上も極端に冷えることで風が周辺へ吹き出すようになり、やはり南西側の日本海へと吹き込む |
原因3 | シベリア(大陸)方面からは、冬型の気圧配置に伴い主に北西側から季節風が北海道日本海側へ吹き込む |
発生 | 上記の主に3方向からの異なる向きの風が、北海道日本海側北部の沖合いでぶつかって上昇気流を生じさせ雪雲となる。内陸高気圧との気圧の差により小さな低気圧となることで、その傾向がはっきりするほどに「渦を巻く」強い雪雲が現れる。上空に強い寒気が流れ込むタイミング(気圧の谷が通るタイミング)では、より低気圧が生じやすくなる。 |
必ずしもわかりやすいメカニズムとは言えませんが、要は北海道日本海側の北部で「風がぶつかる」場所が出来て雪雲が湧き、その際内陸部の気圧が少し高く、日本海上の気圧が少し低くなっていることから、「小低気圧」という形になる。ということになります。
発生については、上記のような状況で発生しますが、冬型の気圧配置が弱まれば必ず発生するという訳ではありません。上空の寒気や気圧の谷、微妙な風の向きの違いなどで発生する場合も、しない場合もあります。
なお名称については必ずしも低気圧自体が石狩湾上空で生じるものとは言えないため、「北海道西岸小低気圧」と専門的には表記される場合があり、それが石狩湾に達した際に「石狩湾小低気圧」と記されるということもあります。
また、渦を巻く雲がサハリン周辺、シベリアに近い日本海上などから流れ込むケースもあります。この場合のメカニズムは「石狩湾小低気圧」の典型的なケースとは異なり、上空に極めて強い寒気を持った「寒冷渦(寒冷低気圧)」と呼ばれる別のパターンとなります。
低気圧は石狩湾一帯だけを狙い撃ちに
この小低気圧は、主に北西からの風と、東または北東からの風がぶつかって発生しますので、この2つの風向きを足すと「ほぼ真南」の向きに雪雲が動くことになります。
低気圧が発生する羽幌・留萌沖といったエリアから真北の風に乗ると、そのまま「石狩湾」へ突入し、その後石狩市・札幌市・北広島市・恵庭市・千歳市・江別市、またはやや西に寄る場合は小樽市や余市町・仁木町・神恵内村方面といった積丹半島周辺に直撃するというコースを取りますので、この「石狩湾小低気圧」は、大まかに言えば道内で札幌周辺といった石狩地方・後志地方だけに大雪をもたらす特殊な要因となっているのです。
なお、この低気圧が発生する際には、強い雪雲が直撃するその瞬間まで、札幌周辺ではよく晴れた良い天気がしばらく続いているケースも少なくありません。
例えば朝からカラリと晴れた寒い冬晴れの日であったものが、昼過ぎに急に北から黒い雲がやってきて猛吹雪になり、生活に支障が出るほどの雪になった。こういうパターンもある訳です。
天気の変化が急で、一度降りだすとかなりの雪となり、そもそも天気図には表れないような小さな低気圧である。こういった「サイレントキラー」ぶりから、かつての天気予報では「忍者低気圧」と呼ばれたこともあります。
雪はどれくらい降る?
低気圧が生じる場合は、雪雲は必ず「渦を巻く」ような形になりそのまま南下します。渦をつくる雪雲は、北海道付近では珍しいくらいの「強い雪雲」を伴っており、1時間に5cm前後の強い雪が、札幌の都心部でも降ることになり、多い場合は数時間で30cm以上のかなりまとまった雪・大雪をもたらすことになります。
なお、唯一の「救い」としては、この小低気圧は札幌市内など陸地に直撃すると次第に消滅へと向かい、全体としてはそれほど「寿命」が長くないため、多くの場合札幌で雪が強まる期間はせいぜい数時間~半日単位となります。
そのため、石狩湾小低気圧が原因で新潟県上越地域、北陸各地のように1日で1m前後の雪が降った。といった記録はありません。石狩湾小低気圧による大雪は、その仕組み上、概ね50cm前後が限界ラインと言ってもよいでしょう。
また、低気圧の「渦」は決して大きなものではなく、わずかな「進路」の違いによって雪の量が全く違うケースもあります。札幌周辺のどこかに大雪をもたらすことには違いありませんが、それが札幌市街地中心の場合もあれば、小樽や積丹半島中心の場合もあり、低気圧が近くを直撃しても、運よく数センチ程度の雪で済む可能性も、30cm以上の大雪になる可能性のどちらもある訳です。
予測は決して簡単ではなく、スーパーコンピュータによる直前の予想が外れる場合もあるため、特定の場所の降雪量については断定的なことは言い難いというのが実情です。
札幌における「ドカ雪・大雪」については、上記の記事で別途解説しております。
西岸収束雲とは
明らかな「低気圧」として渦を巻いて札幌周辺に突っ込んで来る「石狩湾小低気圧」。一方で、同じような大雪・まとまった雪の降り方をする場合でも、はっきりとした「渦」を巻かずに石狩湾一帯に強い雪雲の分厚い帯が直撃する場合があります。
出典:気象庁ウェブサイト(https://www.jma.go.jp/bosai/nowc/)
これは、専門的には「北海道西岸帯状収束雲」・「北海道西海岸帯状雲」等といった表記をされるものであり、発生するメカニズムは、向きの違う風がぶつかって雪雲を発達させるという点においては、先述した「石狩湾小低気圧」のそれに近いと言えますが、全てが100%同じとは言えません。
北海道付近で吹く風は、傾向としては先述したいくつかのパターンがある訳ですが、微妙な向きの違いなどはあり、一概に毎回同じ条件とは言えません。ちょっとした風のぶつかり方や気圧差の違いで、はっきり渦を巻くような低気圧化した雪雲の塊になる場合もあれば、渦は巻かずに巨大な雪雲の帯として下りて来る場合もあり、気象レーダーで見る場合にはやや違った状況が生まれていることが確認できます。
もっとも、実際に降る雪の強さや降る場所については、いずれも結局は「石狩湾一帯のどこか」に比較的強い雪を一定時間もたらすものですので、大雪を生じさせる可能性があるという点においては同じ話です。一般の生活レベルで「渦を巻いているかどうかの違い(石狩湾小低気圧なのか、収束雲なのか)」を気にする必要はないでしょう。
札幌市に雪をもたらす要因については、上記の記事で別途解説しております。