札幌の大雪は「12月」が一番多い?海水温がもたらす大雪のメカニズムとは

自然・気候

1年間で合計4m以上の雪が平均して降る「豪雪都市」札幌。

その札幌で降る雪の量を詳しく見て行くと、真冬であり気温が大きく下がる1月・2月だけではなく、12月にも多くの雪が降っているという特徴があります。また、とりわけ「まとまって降る雪」に絞ってみれば、12月が一番雪がまとまりやすいシーズンであるというデータが導かれます。

当ページでは、12月の札幌でなぜ雪が比較的多くなるのか。というテーマについて、データなどを見ながら掘り下げて見て行きます。

データから見る「12月の雪」

平年月間降雪量113cm(1月137cm・2月116cm)
日降雪量の平年最大値28cm(1月24cm・2月24cm)
日降雪量「20cm以上」の平年日数1.2日(1月1.3日・2月1.0日)
過去最多の日降雪量56cm(2001年12月10日・全体の最多記録は1970年1月31日の63cm)

12月の「雪」に関する基本中の基本とも言えるデータを見ると、上記の通りになります。平年値で見ると12月が突出している訳ではありませんが、まとまって降る雪の量の指標である「日降雪量の最大値」の平年データについては1・2月を上回っており、12月は一気に降る雪の量が最も多い傾向にあることは読み取れます。

12月の降雪量合計12月の日降雪量最大値
2006年147cm24cm(最多)
2007年136cm37cm(最多)
2008年63cm19cm
2009年116cm31cm
2010年98cm21cm
2011年58cm14cm
2012年106cm16cm
2013年212cm(最多)29cm(最多)
2014年101cm21cm
2015年130cm(最多)39cm(最多)
2016年101cm26cm(最多は11月)
2017年198cm(最多)44cm(最多)
2018年102cm24cm
2019年106cm22cm(最多)
2020年54cm13cm
2021年50cm8cm
順位降雪量観測日
1位44cm2016年12月10日
2位41cm2020年2月5日
3位39cm2014年12月15日
4位37cm2008年2月23日
4位37cm2006年12月24日
5位34cm2016年12月22日
6位32cm2009年1月20日
7位31cm2011年3月3日
7位31cm2008年12月26日
8位30cm2015年11月24日
8位30cm2008年1月24日
8位30cm2007年1月29日

よりわかりやすいのは、積雪計が現在のものになった2006年冬以降のデータであり、12月は16年間のうちで7回「日降雪量」で冬のシーズンにおけるトップに立っています。

また、2006年冬以降に30cm以上の日降雪量を観測した日を並べてみると、12回中6回が年越し前(12月5回・11月1回)となっており、冬の気温が1・2月に一番の底を迎えることを考えると、12月にまとまった雪がかなり偏っていることが分かります。

12月になぜ雪が多くなりやすいのか

1月・2月以上に12月の方がまとまった雪が降りやすい要因は、比較的シンプルで「海水温」によるところが大きくなっています。

冬場の日本海側を中心とした雪は、シベリア方面から強い寒気が季節風とともに日本付近へ下りて来る中で、比較的温暖な日本海の海水温との「温度差」によって強い上昇気流が生じ、雲となり雪を降らせるというメカニズムです。

雲は暖かく湿った空気が供給されるほどに発達し、強い雪を降らせやすいため、寒気の強さも重要ですが、それとともに海水温が比較的高ければ、一層雪雲は発達することになります。

海水温と言うものは、必ずしも気温や上空の寒気と連動するものではなく、冬場は遅く冷え、春先は気温よりも上昇が鈍い傾向があり、11月・12月の間は真冬と比べて海水温が必ず高くなります。

つまり、海水温が高いうちに、真冬並みの強い寒気が入り込むタイミングさえあれば、雪雲は同じ寒気が1・2月に流れ込む場合よりは発達しやすくなると言えるのです。

「日別海面水温(2020年12月15日)」(気象庁ホームページより)
「日別海面水温(2021年1月15日)」(気象庁ホームページより)

上記は気象庁サイトで公開されている日別海面水温のデータ(気象庁サイトからの画像引用は可能となっています)ですが、12月15日と1か月後の1月15日の状況を比べてみると、北海道を含む日本海の広い範囲で海水温が概ね少なくとも3℃~6℃程度は下がっていることが分かります。

これほどの水温差が1か月程度で生じるとなると、当然ながら雪の降り方も変わってきます。

なお、12月については、北海道では雪が増えることが多い(降水量も増えやすい)一方、本州の日本海側では雪の量ではなく降水量だけが増える傾向が顕著です。これは、12月の段階では本州への強い寒気の流れ込みが限定的になる場合が多く、雨やみぞれなどで降ることが多いためです。12月の降水量は北海道では多くても200~350mm程度ですが、本州日本海側の多い場所では時に月間500~800mm単位と、梅雨時や台風シーズンの太平洋側よりも多いくらいの極端な降水量となる場合があります。

年ごとの差が大きい・雪が少ない場合も【風向きも重要】

雪がまとまりやすい12月ですが、年ごとの差を見て行くと、12月の降雪量はその年の気象条件によって大きな差が生じやすい傾向です。

観測データがある期間(1953~2020年)の12月「月間降雪量」の推移

例えば2020・2021年の12月は、概ね50cm程度の降雪量合計となり、特に多い年と比べれば4分の1~5分の1程度という状況になっています。

雪が少ない年は、もちろん寒気が流れ込みにくい「暖冬」の年という場合もありますが、過去の事例を見て行くとそうとはも言い切れないこともあります。これは、「風向き」によるもので、例えば2020年12月は強い寒気が度々流れ込んだにも関わらず、雪雲が風向き(西北西)の関係でほとんどが近隣であれば岩見沢市の方へ行ってしまい、札幌は「残りかす」のようなわずかな雪にしかならなかったという状況があります。

12月は「海水温の高さ」と「強い寒気」の2条件があると大雪に見舞われやすい環境にはなりますが、それに加えて雪雲が札幌へ流れ込むかどうか。という「風向き」というものが、まとまった雪をもたらす必要条件となっています。

温暖化で雪が増える?減る?

札幌の冬においては12月のように海水温が高い方が雪がまとまりやすい。降雪量(降水量)が増えやすい。という事実は、「地球温暖化」で「北海道の雪」はどうなるのか?という疑問も引き起こします。

すなわち、海水温・平均気温がやや高い12月に大雪になりやすいのだとすれば、少し温暖化した方が札幌・北海道で雪は増えるのでは?そういった解釈も出来てしまいかねません。

これについては、気象学的には「温暖化」によって一般的には「平地の雪はどこでも減る」と考えられています。但し、その「シナリオ」には注意が必要です。

例えば、一番わかりやすい書籍としては『地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題』(著:川瀬宏明,2019,ベレ出版)があり、多面的な角度から検討がなされています。

詳細なデータとしては、気象庁発行の『地球温暖化予測情報 第9巻』においても降雪量の変化が詳細に予測されています。

出典:「図4.2-1 年及び月降雪量の将来変化」
※気象庁ホームページ『地球温暖化予測情報 第9巻

これらによれば、21世紀末の段階で気温が5℃程度上がる温暖化の条件で想定した場合、そもそも冬の期間が大幅に短くなる上に、本州の平地では冬でも最高気温が20℃以上のような日が現れ、各地で雪がほぼ消える年が増え、北海道でも標高が非常に高い大雪山地を除き雪の量がかなり減る(本州とは違いほぼゼロという訳ではない)と考えられています。

但し、時期で見ると12月の降雪量は北日本では特に減少し、逆に1・2月はさほど減らない(内陸部ではむしろ増える)などの違いも見られます。なお、海水温が上がるため「何かが降る量(降水量)」自体は冬場に増えるとも考えられています。

大雑把に解釈すれば、12月は雨やみぞれが多く降り、各年ごとで見ると雪がたくさん降ったり、ほとんど降らなかったりする年に分かれる本州日本海側の「雪事情」が北海道に移り変わる。と言ってもよいかもしれません。

札幌の雪の量については、北日本の予測値から考えると、概ね年間では半減に近いくらい少なくなるともなると考えられ、気温が5℃近く上がった場合は、道内でも気温が高い地域であることから、特に暖冬の年では、札幌でも雪がわずかしか積もらない年が起きるようになるのかもしれません。

一方で、これはあくまでも5℃近く上昇するというかなり悪いシナリオに基づくものです。例えば1℃上がった時、1.5℃上がった時、2℃上がった時に、上記のような平地で雪が大幅に減るシナリオの通りになるかと言えば、少なくとも気温が低い北海道では、確実にそうなると言い切れる訳ではありません。また、旭川のような内陸部では、5℃近い温暖化でむしろ「ドカ雪」の頻度が増えるという予測すらあります。

海水温が高く、平均気温も真冬より高いはずの12月にまとまった雪が多いという札幌の特徴は、断定することは出来ませんが、今後の温暖化・気候変動時代における「雪事情」にもしかするとちょっとした示唆を与えているのかもしれません。

札幌における「ドカ雪・大雪」や「降雪量」一般については、上記の記事で別途解説しております。