札幌と岩見沢「雪事情」の違いとは【近いのに差が大きい】

自然・気候

全国的に見ても非常に雪が多い地域である北海道の札幌市。

一方で、周辺地域との比較で見た場合、札幌は時に「雪が少ない」と言われることすらあります。その大きな要因というのは、約30km少々離れた場所にある「岩見沢市」の存在。

岩見沢市では、市街地であっても時に2m以上の積雪となることがあり、1日50cm単位のドカ雪となる頻度も札幌と比べ明らかに多い地域です。

こちらの記事では、札幌と岩見沢の「雪」について、気象データなどを見ながらその性質の違い、岩見沢で雪が多くなる要因・理由などをじっくりと、少し専門的な内容も含め考えていきます。

札幌市と岩見沢市「降雪データ」を比較する

項目札幌管区気象台岩見沢アメダス
年間降雪量479cm664cm
年間最深積雪97cm120cm
日降雪量の最大値34cm38cm
いずれも平年値
札幌月間降雪量月間最深積雪
10月1cm1cm
11月30cm15cm
12月113cm47cm
1月137cm76cm
2月116cm95cm
3月74cm82cm
4月6cm22cm
いずれも平年値
岩見沢月間降雪量月間最深積雪
10月1cm1cm
11月70cm29cm
12月200cm74cm
1月187cm101cm
2月137cm118cm
3月72cm99cm
4月8cm32cm
いずれも平年値

札幌市と岩見沢市の雪について、それぞれ札幌管区気象台・岩見沢アメダスの観測データで比較をすると、岩見沢の方が全体的に雪が多い傾向が見られます。札幌に通勤可能な範囲にある都市で見た場合、雪が比較的多い小樽市を上回り「札幌圏で最も雪が多い市」と言って差し支えない状況です。

時期による変化を見ると、基本的にほぼ全ての月で降雪量は札幌を上回っていますが、12月は札幌が大幅に少ない一方で、2月・3月は差が縮まるなど、冬のはじめと春先の降雪量を見た場合、それぞれの傾向は大きく異なります。

降雪パターンの違いなどを考える

風向き(雪雲の向き)による雪の降り方

札幌市と岩見沢市は、距離にするとそれぞれの中心部間で約35km程度と、東京から横浜より少しだけ遠いくらいの距離で、そう遠い地域同士ではありません。

一方で、雪雲が流れ込んでくる石狩湾からの地理的な位置関係を考えた場合、2つの都市で雪が降る条件はかなり異なります。

(出典:地理院地図・一部作図)
岩見沢で雪になるケース主に「西北西」方向からの風に乗って雪雲が流れ込む場合
札幌で雪になるケース主に「北~北北西~北西」方向からの風に乗って雪雲が流れ込む場合

札幌と岩見沢では、雪をもたらす「冬型の気圧配置」の際に「同時にしっかり雪が降る」ことは余り多くありません。

それぞれの都市は異なる風向き・方向で雪雲が流れ込む場合に雪が降り、岩見沢の場合は主に西北西、札幌の場合は北寄りの向きから雪雲が流れ込む場合に雪が降りやすくなります。

こう見ると、一見札幌の方がカバーする方角が幅広く、より頻繁に雪になりそうに見えますが、雪雲の向きを見た場合、北~北北西~北西など北寄りから雲が来るケースよりは、西北西方向からの向きで固定される頻度の方が高いため、結果として岩見沢の雪が多くなっています。

岩見沢で大雪・札幌で冬晴れというよくあるパターン

冬の天気で比較的よくあるパターンは、岩見沢で豪雪となり、札幌では良く晴れている(場合によっては快晴)ような気象条件です。

雪雲の向きが西北西から東南東方向へ固定された場合、石狩湾から流れ込む雪雲は、石狩市(特に厚田区の南側)・当別町・新篠津村周辺を通り岩見沢市内に直撃します。

この際には、微妙な風向きの差で札幌市内の北区でもあいの里・拓北周辺では大雪になることがありますが、基本的にはその一部を除き、札幌市内では雪が降りません。

札幌都心・札幌駅周辺では、岩見沢に雪雲が掛かり続けている際には雪が舞うことすらなく、すっきりした冬晴れの天気となっていることが基本で、30km程度の距離であっても気象条件には極端な差が生じます。

もちろん、逆に北から雪雲が入る際には、岩見沢で晴れて札幌で大雪。というパターンもありますが、どちらの頻度が多いかと言えば、岩見沢雪・札幌晴れのパターンの方が傾向としては多く、実際のデータ上も雪が多い状況となっています。

気圧配置から見る違い

岩見沢で札幌以上に雪が降りやすい理由は、これまでも述べたように「西北西」方向からの雪雲が長時間流れ込みやすい状況が発生しやすい点が大きくなっています。

冬型の気圧配置となった際には、気圧の大きさを示す等圧線が北海道付近で幾重にも連なるような天気図となりますが、頻度として最も多いパターンとしては、札幌や岩見沢周辺を北西~南東方向周辺に、やや曲線を描きながら等圧線が掛かるという条件が挙げられます。「西北西」からの雪雲の流れは、こういった気圧配置の際に発生し、結果岩見沢に多くの雪をもたらします。

2021年2月9日9時の天気図(天気図の出典:気象庁「日々の天気図」(https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/hibiten/index.html)※トリミングの上利用)
2020年12月1日9時の天気図(天気図の出典:気象庁「日々の天気図」(https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/hibiten/index.html)※トリミングの上利用)

例えば、上記の天気図はいずれも岩見沢で40~50cmの雪が降った「ドカ雪」当日の天気図ですが、いずれも似たような形で、北海道付近では概ね北西~南東方向に等圧線が掛かり、なだらかなカーブを描いている様子が読み取れます。

なお、石狩湾に差し掛かった雪雲が、札幌方面ではなく岩見沢方向へ西北西の向きから入りやすい要因としては、この気圧配置に加え、積丹半島から冷たい空気が吹きおりて結果雪雲の向きが西寄りに修正されやすいことも一つの要因ともされています。

時期としては、特に12月は海水温が高いため並みの寒気でも雪雲が発達しやすく、こういった気圧配置となり一定時間同じ場所で雪が降り続けた場合、すぐに雪の量がまとまるため、岩見沢にとっては最も雪が多い時期です。

一方、「札幌」で雪になるパターンでは等圧線の向きは異なり、北から南方向などを向くパターン・札幌周辺で等圧線が「こぶ」のように膨らんでいるケースで降りやすいほか、天気図では描けないことがある小さな低気圧(石狩湾小低気圧)が関係している場合が多いなど、北から南に向けて雪雲が入ればまとまった雪の可能性があるものの、頻度は上記のような等圧線が北西~南東方向を向くパターンよりは少なくなります。

2016年12月10日9時の天気図(天気図の出典:気象庁「日々の天気図」(https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/hibiten/index.html)※トリミングの上利用)

上記の天気図は、札幌で記録的な大雪となった2016年12月10日のものですが、上記で見た岩見沢に大雪をもたらした日の天気図とは違うことが一目でわかります。

札幌で大雪をもたらすことがある条件については、上記の記事でも詳しく解説しています。

雪雲を発達させる「村松バンド」

雪雲が西北西から流れ込みやすいことで、結果岩見沢の雪が多くなっているという条件について、これまで長々と解説してきましたが、岩見沢の大雪は、実はよりマニアックな気象条件も関わっています。

それは、メディアなどで過去に取り上げられたことから知っている方もおられるかもしれませんが、「村松バンド」と呼ばれる強い雪雲の帯に由来します。

(出典:地理院地図・一部作図)

村松バンドは、必ずしも北海道周辺にルーツを持つものではなく、その生みの親とも言える存在は、ロシア沿海地方にある大きな山脈「シホテアリニ山脈」です。

山脈が雪雲を発達させるプロセスは、非常に大まかに言えば以下の通りです。

1シホテアリニ山脈の地形によって、北西方向からの季節風の向きが強制的に変わってしまう
2季節風が向きを変えた結果、山の南東側にある海など風が入りにくい場所に寒気が流れ込まず、比較的上空の気温も含め周囲より高くなる
3向きを変えた季節風が進む向きには寒気が入るため気温が下がり、上記の場所との気温差が生じる
4低い気温の場所は気圧がやや高く、高い気温の場所は気圧がやや低くなり、前線のようになり風が吹き込む
5気温差で「上昇気流」が強まり、結果上空に温暖な気流が入って寒気との温度差で雪雲が発達する

要は、山の地形によって風向きと寒気の流れ方が変化し、温度差が生じることで強い雪雲が発達して北海道・岩見沢周辺に流れ込むというものです。

村松バンドという名称は、札幌管区気象台に勤務しておられた村松照男氏がこの雪雲の帯について指摘・議論したことからそう呼ばれているものであり、論文などでも実証されています。

強い雪雲の帯は、必ず岩見沢に流れ込むことが決まっている訳ではありませんが、これまで述べた通り石狩湾方面から西北西の風に乗って岩見沢に雪雲が流れ込むケースが最も多いことから、結果としてこの村松バンドは、岩見沢に最も影響を与える現象となっているのです。

積雪期間・降雪期間に差はある?

項目札幌管区気象台岩見沢アメダス
初雪日11月1日10月30日
終雪日4月19日4月21日
年間積雪日数(1cm以上)127.9日135.8日
年間降雪日数124.4日129.4日(暫定)
根雪期間(1cm以上)12月6日~4月3日12月1日~4月6日
いずれも平年値

雪が札幌よりも多い岩見沢ですが、単純な降雪量・積雪深だけではなく、雪の降る・積もる期間という尺度で見てみた場合も、札幌よりも全ての指標で少しだけ期間が長い、日数が多いといった状況が見られます。もっとも、差はそれほど大きくなく、平均すれば根雪が消えて春へと向かう時期などはほぼ同じくらいと言ってよいでしょう。

但し、両都市の積雪量には年によりかなりの差が生じます。例えば2021年は札幌の最深積雪が79cmの中、岩見沢はなんと205cmの豪雪となり、根雪が消えるまでの期間に20日程度の差が生じるなど、全く違う気象条件となりました。雪解けなどの時期が概ね同じなのは平年値(平均)の話であり、各年ごとに見た場合は大きなずれが生じる点には一定の留意が必要です。

雪の量の変化は?

◆年間降雪量の変化

札幌の年間降雪量の推移(1962年~2022年)
岩見沢の年間降雪量の推移(1962年~2022年)

◆年間最深積雪の変化

札幌の年間最深積雪の推移(1962年~2022年)
岩見沢の年間最深積雪の推移(1962年~2022年)

札幌と岩見沢の降雪量と最深積雪について、記録がしっかり残る1962年以降で比較して見ると、かなりの違いがあることが一目瞭然です。

特徴としては、札幌は雪の量が比較的安定的で、岩見沢は極端であるという点が浮き彫りとなります。

岩見沢では年間降雪量が10m(1000cm)を超え、積雪が2mの大台に乗るような極端な豪雪年がある一方で、札幌では観測されたことがないくらい少ない最深積雪(50cm台)で終わった年もあるなど、全体的・平均的には札幌よりも雪は大幅に増えるものの、最もよく降る年とそうでない年の差が倍どころではありません。

他方、札幌では年ごとの差はありますが岩見沢ほどの極端さはなく、岩見沢より平均して大幅に少ない代わりに、ほどぼどに安定して降りやすい傾向があることが読み取れます。

この差は、札幌の方が冬型の気圧配置に加え「低気圧」の影響を多少受けやすくそこで降る雪がプラスされやすい点、また岩見沢の場合は得意とする「西北西の風」が気圧配置上少ない年は、一気に雪が減ってしまう点が、このような差を生み出していると考えられます。

岩見沢市・空知地方の気候については、上記の記事で別途解説しております。