日本の大都市では最も雪が多い都市である北海道・札幌市。札幌の冬は、今現在でも非常に寒いものですが、一般論としては「地球温暖化」等の影響でじわじわと気温が上がる傾向は否定できず、昔と比べると「暖冬」が増えたことは否定できません。
暖冬というイメージは、一般に気温が高い=雪が少ないというイメージで捉えられることがほとんどで、確かに全てのデータを集めて単純に平均すればそういった傾向が見られることは間違いありません。しかしながら、個々の年ごとに見て行くと、必ずしも暖冬=雪が少ないとは言い切れるのでしょうか。
こちらのページでは、札幌の冬の寒さと雪の量について、過去の観測データを詳しく見ながらその関係性を考えていきたいと思います。
過去の「冬の気温」と「降雪量」を見る
1991年から2020年までの札幌管区気象台で観測された「冬の気温(12月~2月の平均気温)」とその冬の「降雪量(合計)」と「最深積雪」を一覧化すると以下の通りです。
年 | 気温の状況 | 12月~2月の 平均気温 | 平年との差 | 雪の状況 | 冬の降雪量合計 | 最深積雪 |
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1991年 | 非常に高い | -0.7℃ | +1.6℃ | 多い | 637cm | 125cm |
1992年 | ふつう | -1.9℃ | +0.4℃ | やや少ない | 382cm | 70cm |
1993年 | 高い | -1.2℃ | +1.1℃ | ふつう | 470cm | 95cm |
1994年 | ふつう | -2.0℃ | +0.3℃ | やや多い | 571cm | 124cm |
1995年 | ふつう | -2.3℃ | 0.0℃ | やや少ない | 394cm | 71cm |
1996年 | ふつう | -2.4℃ | -0.1℃ | 多い | 680cm | 145cm |
1997年 | 高い | -1.7℃ | +0.6℃ | やや少ない | 378cm | 89cm |
1998年 | 低い | -3.0℃ | -0.7℃ | やや少ない | 408cm | 86cm |
1999年 | 低い | -2.8℃ | -0.5℃ | 多い | 632cm | 100cm |
2000年 | ふつう | -2.7℃ | -0.4℃ | 多い | 630cm | 142cm |
2001年 | 非常に低い | -4.6℃ | -2.3℃ | ふつう | 494cm | 87cm |
2002年 | ふつう | -2.2℃ | +0.1℃ | やや少ない | 415cm | 83cm |
2003年 | 低い | -3.4℃ | -1.1℃ | ふつう | 465cm | 87cm |
2004年 | 高い | -1.3℃ | 1.0℃ | やや少ない | 397cm | 95cm |
2005年 | ふつうみ | -2.7℃ | -0.4℃ | 多い | 617cm | 123cm |
2006年 | 低い | -3.1℃ | -0.8℃ | やや多い | 574cm | 111cm |
2007年 | 高い | -1.3℃ | +1.0℃ | やや多い | 543cm | 78cm |
2008年 | 低い | -2.8℃ | -0.5℃ | ふつう | 423cm | 106cm |
2009年 | 高い | -0.9℃ | +1.4℃ | ふつう | 492cm | 76cm |
2010年 | ふつう | -2.0℃ | +0.3℃ | ふつう | 485cm | 79cm |
2011年 | 高い | -1.4℃ | +0.9℃ | ふつう | 490cm | 92cm |
2012年 | 低い | -3.6℃ | -1.3℃ | やや少ない | 399cm | 76cm |
2013年 | 低い | -3.7℃ | -1.4℃ | 多い | 628cm | 137cm |
2014年 | ふつう | -2.3℃ | 0.0℃ | ふつう | 478cm | 113cm |
2015年 | 高い | -1.2℃ | +1.1℃ | やや少ない | 367cm | 91cm |
2016年 | 高い | -1.7℃ | +0.6℃ | ふつう | 428cm | 83cm |
2017年 | ふつう | -2.3℃ | 0.0℃ | ふつう | 512cm | 96cm |
2018年 | 低い | -2.9℃ | -0.6℃ | ふつう | 465cm | 89cm |
2019年 | ふつう | -2.2℃ | +0.1℃ | 少ない | 335cm | 72cm |
2020年 | 高い | -1.7℃ | +0.6℃ | ふつう | 427cm | 80cm |
<表の注意点> 気象庁で定めた降雪量の「平年並み・多い・少ない」の基準や「暖冬・寒冬(大暖冬・大寒冬)」の基準というものは、一定の統計的な補正をかけて判断するものです。 上記の表では、単純な数字の差で分けるため、気温が0.5℃以上平年との差がある場合をそれぞれ「高い・低い」、1.5℃以上平年との差がある場合を「非常に高い・非常に低い」、降雪量は12.5%の差がある場合を「やや多い・やや少ない」、25%の差がある場合を「多い・少ない」、50%の差がある場合「非常に多い・非常に少ない」、それ以外は「ふつう」と本サイト上の区分として便宜的に表記しています。 |
12~2月の平均気温が平年と比べ0.5℃以上上回る暖冬寄り(気象庁の定義とはやや異なる場合があり)の年を見て行くと、雪の量との関係は以下のようになります。
気温が高く・降雪量がやや多い以上 | 30年で2回:1991年・2007年 |
気温が高く・降雪量が概ね平均的 | 30年で6回:1993年・2009年・2011年・2014年・2016年・2020年 |
気温が高く・降雪量がやや少ない以下 | 30年で3回:1997年・2004年・2015年 |
最深積雪について | 平年以上は1回、平年以下が10回(但し25%以上下回ったケースはなし) |
上記のように、札幌の冬の気温と全体の降雪量には、やや少なくなるという関係性はあるかもしれませんが、現在の所さほど極端な相関はない。と言えてしまいます。
もちろん、気温が高くなりますので、雪の降る量が余り変わらない場合でも融けやすくなり、最深積雪量は少な目となる場合が大半です。そのため、確かに実感としては積もっている雪の量は少なくなりますが、その積雪量で見ても、やはり極端に少なくなるとまでは言えず、暖冬だから雪のストレスなし。という訳にはいきません。
例えば、これがより気温の高い北陸・山陰地方の場合、暖冬で雪が増えることは一瞬の寒波でドカ雪となるケースを除きほぼあり得ず、暖冬になった途端に雪の量がゼロに近づく。といったような状況が頻繁に見られることがあり、気温の高さと雪の少なさには誰が見ても明らかな非常に強い相関関係があります。
しかし、札幌の場合は気温が高い冬になった途端に、雪がほとんど降らなくなる。といったことはまずありません。それどころか、暖冬の年に、降雪量が平年よりも多いことが一部であるなど、時に逆転現象すら起きているのです。
このような状況は、一体どうして起きているのでしょうか。
暖冬でも雪が降る?その原因は?
北海道は寒いので「雪」で降り通す
まず、北海道・札幌で「暖冬」傾向の場合でも雪が激減しにくい最大の理由として挙げられるのは、単純に「寒いから」という当たり前の理由です。
緯度が高くシベリアからの寒気の影響を常に受ける北海道は、札幌の平年の冬の気温が-2.3℃と、本州の日本海側と比べ、場所によりますが3~8℃程度低くなっています。
平均気温が-2.3℃ということは、もし仮に観測史上未だない+2℃の大暖冬であったとしても、平均気温はまだ0℃を下回ります。
他方、北陸のように雪国とされるものの気温が比較的高めの地域は、元々の気温がもし1℃上がるだけでも、雪であったものがみぞれ・雨になってしまうくらいの非常に微妙なラインとなっています。
つまり、「何か降る」場合に、札幌くらいの寒さであれば、多少気温が上がってもみぞれや雨に変わらず「雪」のまま降ってしまう。しかし、北陸などはわずかな気温の上昇により「雪」でなくなってしまう。この違いが、札幌で暖冬になっても大幅に雪が減ることはない、当たり前ながら最大の理由と言えるのです。
低気圧・気圧の谷がやや通過しやすい
気温だけではなく、天候という面から見ても、暖冬の年にはまた違った要素が加わります。
それは、暖冬の年は低気圧や気圧の谷が日本付近を通りやすくなるという点です。
北海道の冬に降る雪は、日本海から吹き付ける季節風・寒気(いわゆる「冬型の気圧配置」)に伴う雪というイメージが一般的で、特に寒い年であればある程、冬型の気圧配置となる頻度は増える傾向がありますが、暖冬の年はシベリアからの寒気が流れ込む量・頻度がやや少なくなり、その代わりに春や秋のように低気圧・気圧の谷がやや通りやすい状況になります。
もちろん、頻度としては冬型の気圧配置の方が多くはなりますが、寒いので低気圧や気圧の谷が通る場合も雪で降ることが多く、その結果合計の降雪量としてはある程度暖冬でも「つじつまが合う」ような形になるのです。
例えば、大暖冬であった2007年で最も多くの降雪量が観測された1月29日は、冬型の気圧配置とは似ても似つかない天気図であり、石狩地方周辺のみが気圧の谷の影響を受け大雪となりました。当日の降雪量は30cmに達しています。
他の地域と比べると冬型の気圧配置になりやすい
暖冬になると寒気の流れ込みが減りますので、日本海側で雪をもたらす「冬型の気圧配置」の頻度は減少し、先に述べたように低気圧や気圧の谷の影響を受けやすくなります。
しかしながら、北海道付近は日本国内では最も寒気が流れ込みやすい地域であることには変わりありませんので、いくらどのような暖冬の年であっても、減少したとしても必ず数回は強い冬型の気圧配置に見舞われます。
山陰や北陸周辺の日本海側まで行くと、大暖冬の年は1~2回程度しか寒気が本格的に流れ込まず、ほとんどまともな冬型の気圧配置にならないケースが見られます。しかし、北海道・札幌でそこまでの事態はまず起こりません。
11月・12月・1月・2月・3月といった雪の降る時期全体で見た場合、特定の月ではほとんど雪が降らない場合でも、他の時期にはまとまった雪が数回降り、結局一定の積雪量となっています。
例えばかなりの暖冬になった2015年は、2月以降雪が非常に少なかったものの、12月には強い冬型の気圧配置でまとまった雪が降っています。同じくかなりの暖冬になった2009年には、1月の中頃まではかなりの少雪・高温傾向であったものの、2月には寒気が流れ込み大雪が複数回降っています。2007年などその他の暖冬年でも、一定回数強い冬型の気圧配置となっています。
極めつけは、過去最も温暖な冬であった1991年シーズンであり、この際には気温がかなり高くなった12~1月にかけてむしろ冬型の気圧配置に伴う大雪が増えており、この年の合計降雪量は平成以降で2番目に多い「豪雪シーズン」にすらなっています。
シーズン通して雪がない。ということはまずあり得ず、「冬型の気圧配置・寒気の流れ込み」といった意味でも、シーズン全体で見ると「つじつまが合いやすい(最終的にそれなりの雪が降る)」特徴が北海道・札幌にはあると言えるのです。
雪が少ない年に関するテーマは、上記の記事で別途解説しております。