冷涼で冬は厳しい寒さと雪が特徴の「札幌の気候」。一方で、これ以外の気候面での大きな特徴としては「風が強い日が多い(強風)」というものがあります。
こちらでは、札幌の「強風」について観測データを見てその状況を確認しつつ、なぜ風が強く吹きやすいのか。と言った条件も解説していきます。
札幌の月別の「平均風速」データを見る
札幌管区気象台と、それ以外の全国の主要都市の気象台で観測された「平均風速」のデータを月ごとに示すと、以下のようになります。
各月の平均風速(単位はm/s) | 札幌管区気象台 | 仙台管区気象台 | 新潟地方気象台 | 東京管区気象台 | 大阪管区気象台 | 福岡管区気象台 | 沖縄気象台 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1月 | 3.3 | 3.6 | 3.9 | 2.7 | 2.4 | 3.2 | 5.3 |
2月 | 3.4 | 3.7 | 3.8 | 3.0 | 2.4 | 2.9 | 5.2 |
3月 | 3.8 | 3.8 | 3.5 | 3.1 | 2.5 | 3.3 | 5.2 |
4月 | 4.2 | 3.6 | 3.4 | 3.2 | 2.6 | 3.1 | 5.1 |
5月 | 4.2 | 3.2 | 3.2 | 3.1 | 2.3 | 2.8 | 4.8 |
6月 | 3.7 | 2.8 | 2.7 | 2.8 | 2.5 | 2.6 | 5.5 |
7月 | 3.6 | 2.5 | 2.8 | 3.2 | 2.4 | 3.0 | 5.3 |
8月 | 3.5 | 2.6 | 2.7 | 2.9 | 2.7 | 3.0 | 5.2 |
9月 | 3.2 | 2.9 | 2.9 | 2.7 | 2.6 | 3.1 | 5.3 |
10月 | 3.4 | 3.1 | 2.8 | 2.6 | 2.5 | 3.0 | 5.5 |
11月 | 3.4 | 3.2 | 3.2 | 2.5 | 2.0 | 2.7 | 5.3 |
12月 | 3.2 | 3.4 | 3.9 | 2.6 | 2.0 | 3.0 | 5.3 |
年平均 | 3.6 | 3.2 | 3.3 | 2.9 | 2.4 | 3.0 | 5.3 |
このデータだけでは、一見すると大きな差がないように見えるかもしれませんが、平均風速というのは一瞬ではなく、1年中常に吹いている風の強さの全体平均ですので、平均値が少し上がるだけで、実際の強風の頻度は大きく異なっている場合があります。
全体を比較すると、海からの風が1年中吹き続ける沖縄(那覇)は極端に平均風速が大きい数字になっており、瀬戸内の穏やかな気候である大阪は最も平均風速が弱い地域であり、札幌は全体の中では2番目に風が強い地域となっています。
同じ日本海側で見ると、新潟は冬場の風速こそ海に近いこともあり札幌を上回っていますが、春以降は札幌の方が風速が強い傾向がはっきりします。札幌の風速は、他の地域で風速が下がり始める春頃にピークを迎える傾向にあり、それ以外の季節は大きな差がないことが特筆すべき点となっています。
強風が吹く日数は?
札幌管区気象台の平年値で、一定の風速が吹く日数で見てみた場合、以下のような数字となります。
月 | 最も多い風向き | 風速10m/s以上 | 風速15m/s以上 |
---|---|---|---|
1月 | 北西 | 3.2日 | 0.2日 |
2月 | 北西 | 3.6日 | 0.2日 |
3月 | 北西 | 4.6日 | 0.4日 |
4月 | 北西 | 6.6日 | 0.5日 |
5月 | 南東 | 6.2日 | 0.5日 |
6月 | 南東 | 3.4日 | 0.1日 |
7月 | 南東 | 2.5日 | 0.0日 |
8月 | 南東 | 2.5日 | 0.1日 |
9月 | 南東 | 2.8日 | 0.1日 |
10月 | 南南東 | 4.4日 | 0.1日 |
11月 | 南南東 | 3.9日 | 0.1日 |
12月 | 北西 | 3.1日 | 0.2日 |
年 | 南東 | 46.7日 | 2.7日 |
平均風速の傾向と同様、春に風速が強い日が多い傾向がはっきりしています。風速10m/sというのは、地上約10メートルの高さで計測した「10分間」の平均風速を表す数字であり、一瞬吹いた数字を表す「最大瞬間風速」とは異なります。
そのため、10m/sが平均して吹いているような状況であれば、更に強い最大瞬間風速(15m/s以上など)が観測されることも多く、風が結構強いと感じる一つの目安と言えるでしょう。
大まかに言えば、札幌では風が強いと感じる日が、平均すれば数日に1回くらいは必ずあり、春先にはその頻度が更に増える環境となっています。これは少なく見積もって東京や大阪の3倍程度「強風が吹きやすい」ということでもあります。
なお、風速の計測というものは、観測する条件(近くにある建物や機械を置く場所その他)で大きく変化する場合があります。札幌の場合、2001年9月26日に観測機器を移転しており、それ以前はかなり風が弱く観測され、それ以降は逆に強く観測される傾向が極端なまでにはっきりしています。
上記のデータ(風速の日数)はその移設前のデータも含むものですので、現在は平均45日ではなく、近年は一層多く概ね50~80日程度観測されるようになっています。
最大風速ではなく、瞬間的に吹き付ける「最大瞬間風速」で見た場合、毎年10~20日程度は最大瞬間風速が20m/sを越える日が見られます。瞬間的でも20m/s程度の風速になると、災害レベルとまでは言えないかもしれませんが、傘が使い物にならず壊れてしまったり、場合によっては物が飛ぶこともあるなど、生活に多少は支障が生じるようになってきます。実際に、札幌で折りたたみ傘を使っていてすぐに壊れた。といった事柄はよくある話です。
最大瞬間風速のランキング・暴風の原因は?
次に、平均風速や一定の風速を観測する日数のデータではなく、過去に札幌で観測された「最大瞬間風速」のデータを見てみましょう。
「最大瞬間風速」のデータを観測史上最も高い順に並べると、以下のようになります。
風向き | 最大瞬間風速 | 観測日 | 暴風の原因 |
---|---|---|---|
南西 | 50.2m/s | 2004年9月8日 | 台風18号(ポプラ台風) |
北西 | 34.4m/s | 2001年12月30日 | 強い冬型の気圧配置 |
北西 | 33.8m/s | 2016年3月1日 | 強い冬型の気圧配置 |
北西 | 33.6m/s | 2000年12月24日 | 強い冬型の気圧配置 |
南南東 | 33.6m/s | 1949年9月1日 | 温帯低気圧化した台風10号(キティ台風) |
南東 | 33.4m/s | 2018年9月4日 | 台風21号 |
西南西 | 33.3m/s | 2010年3月21日 | 発達中の低気圧 |
南 | 32.9m/s | 1954年9月26日 | 温帯低気圧化した台風15号(洞爺丸台風) |
南東 | 32.8m/s | 2018年9月5日 | 台風21号 |
南 | 32.8m/s | 2005年5月1日 | 前線・気圧の谷の通過 |
札幌の場合、本州の太平洋側とは事情が異なり、過去に観測された暴風の要因は、「台風」によるケースのみならず「冬型の気圧配置」に伴う暴風など様々な要因が見られます。
2004年9月8日の暴風被害は札幌の歴史上でも特筆すべきもので、これまでとは比べ物にならないような暴風に見舞われた結果、市内各地での倒木や建物被害のほか、札幌の風景を象徴する北海道大学構内のポプラ並木が倒れる被害を受けたことから、台風が「ポプラ台風」の名称で呼ばれることになりました。
また、平均風速ベースでは春よりも風は強くない冬場については、低気圧が発達しながら通過した直後、猛烈な冬型の気圧配置に変わるタイミングで数時間程度暴風雪に見舞われることがあり、このタイミングで最大瞬間風速25~30m/s前後が観測されることは上記ランキングに入らないものを含め、2年に1回程度の頻度で見られます。
単純な暴風(概ね最大瞬間風速25m/s以上)の頻度で見た場合、冬≧春>秋>夏といった状況となり、必ずしもランキング上位に見られるからといって、台風による暴風の頻度自体が高いとは言えない環境です。
札幌で風が強い理由
本州の主要な都市と比べ、風速が強い傾向がある札幌のまち。この理由は一体どこにあるのでしょうか。
石狩平野の地形的特徴
まず、「環境面」での最も説得力のある理由としては、札幌の「場所」と「地形」というものがあります。札幌市は比較的広い「石狩平野」の南西側に位置し、市街地からそれほど遠くない場所に比較的標高の高い山々(札幌岳・空沼岳・余市岳その他)がそびえる環境です。
市街地の軸となるJR・地下鉄線・高速道路の向き、また山地のある場所は、大まかには北西から南東方向へ向かって伸びており、これは冬場の北西からの季節風、夏場の南東からの季節風の通り道と完全に一致します。
平野の中央ではなく、平野の縁・山裾に近い札幌は、山を避けるように吹き込む風が通る細い道にあたり、都市の軸・中心がちょうどその風の吹き抜けやすい場所となっていることから、「札幌=風が強い場所」となっていると言えるのです。
春先の低気圧の影響
札幌では、冬場の季節風(冬型の気圧配置)のイメージが強い上、観測史上最大の風速記録は秋の台風シーズンに記録されていますが、先述したように「春」が平均風速ベースでは最も風が強い季節となります。
この時期は天気自体は安定し、雨量も少ない季節である一方、時折急発達を見せる「爆弾低気圧」が北海道付近で発生しやすいこと、また北海道の北側に位置する低気圧と、南側の高気圧の間で気圧の差が大きくなり、強い南風が吹くこと等により、強風が1年の中で最も吹きやすい時期となります。
春に30m/sを越える記録的な暴風が吹くこよは極めてまれですが、20m/s以上の最大瞬間風速はよくあることで、終日風が強い日も多いことから、1年間の平均風速を押し上げる効果を持っているのです。
観測場所が塔の上
一見すると自然条件のみで「強風」となっているようにも見える札幌ですが、風速というのは「観測機器」が設置される条件にも左右されやすいものです。
札幌管区気象台で行われている「風速」の観測は、気象台の敷地内の地面付近ではなく、隣接する北海道開発局の所有する鉄塔の頂上部(高さ約60m)で実施されています。近くの建物はこの風速計が設置された場所より低い位置にあり、ビルによる風向・風速の変化といった影響を受けにくい代わりに、恐らくは道路付近・地上付近と比べ明らかに強い風が観測されていることが推定されます。
実際に、風速計がこの塔の上に設置された2001年9月26日以降、札幌で観測される風速は明らかに上がっており、特に風速10m/sを観測した日数が、年間数日~10日単位から、突如として50日~80日単位へと異常な増え方をしています。
もちろん、だからと言って地上付近で吹く風が他の地域と比べて弱い。という訳ではありませんが、観測する環境も一つの要因になっていることは否定できないでしょう。
札幌市における「台風」というテーマについては、上記の記事で別途解説しております。