冬の雪と寒さは例外として、それ以外の季節(春・夏・秋)の気候が穏やかなことで知られる札幌・北海道地域。
本州各地に頻繁に影響を及ぼす台風災害・大雨災害などとも、一見するとほぼ無縁に見えそうな地域ですが、札幌における「台風」事情、リスクは実際のところどうなっているのでしょうか。
本記事では、いくつかのデータや過去の事例なども見ながら、「札幌と台風」というテーマについて見ていきたいと思います。
台風来襲の頻度自体は「明らかに少ない」
札幌の台風を考える場合、一般的にイメージされている通り、台風自体が接近したり通過したりする頻度は本州の太平洋側など「台風の影響を受けやすい地域」と比べ明らかに少なくなっています。
全国各地域における「台風の接近数」の平年値(1991年~2020年のデータ)は、以下のようにまとめられます。
各地方への台風接近平年数 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 年間 |
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沖縄地方 | 0.0 | 0.4 | 0.6 | 1.5 | 2.2 | 1.9 | 1.1 | 0.3 | 0.0 | 7.7 |
伊豆小笠原諸島 | 0.1 | 0.4 | 0.4 | 0.7 | 1.0 | 1.5 | 1.3 | 0.3 | 0.0 | 5.4 |
奄美地方 | 0.0 | 0.2 | 0.4 | 0.7 | 1.1 | 1.3 | 0.7 | 4.3 | ||
九州地方南部 | 0.0 | 0.1 | 0.4 | 0.7 | 1.0 | 1.2 | 0.5 | 3.9 | ||
九州地方北部 | 0.0 | 0.1 | 0.3 | 0.8 | 1.1 | 1.1 | 0.4 | 3.8 | ||
東海地方 | 0.1 | 0.2 | 0.6 | 0.8 | 1.2 | 0.7 | 3.5 | |||
近畿地方 | 0.1 | 0.3 | 0.6 | 0.7 | 1.1 | 0.7 | 3.4 | |||
四国地方 | 0.1 | 0.3 | 0.7 | 0.9 | 1.0 | 0.4 | 3.3 | |||
関東甲信地方 | 0.0 | 0.2 | 0.4 | 0.8 | 1.2 | 0.7 | 3.3 | |||
中国地方 | 0.1 | 0.2 | 0.6 | 0.8 | 1.1 | 0.3 | 3.0 | |||
北陸地方 | 0.2 | 0.5 | 0.7 | 1.0 | 0.4 | 2.8 | ||||
東北地方 | 0.0 | 0.2 | 0.3 | 0.8 | 0.9 | 0.5 | 2.7 | |||
北海道地方 | 0.1 | 0.2 | 0.7 | 0.7 | 0.2 | 1.9 |
北海道への上陸数 | 1951年以降で6つの台風が北海道に上陸 ※上陸はその台風がはじめて到達した島を除く陸地 ※北海道を「通過(それ以外の地域に上陸後)」した台風はこれより多い |
北海道における台風の接近数は全国最下位で、本州各地と比べると半分から3分の2程度、沖縄方面と比べると3分の1以下となっています。
台風は平均すれば北海道に年間2個ほど接近していますが、台風来襲といっても北海道全体で見た場合は広いエリアに及びますので、札幌に全てが大きな影響を及ぼすとは限らず、天気の傾向が全て同じとも言えません。太平洋に面したエリアとそれ以外では接近時の雨の降り方なども違いがありますし、風の吹き方も違います。
その意味では、札幌に市民生活に影響を及ぼす台風は、実際は平均では年間1つあるかどうか、といった程度と言えます(複数回来る年もあれば1回も接近しない年があるため、実際毎年1回づつという訳ではありません)。
温帯低気圧化後も要注意
台風が少ないとされる札幌ですが、台風が仮に接近した場合の大きなポイントとしては、それが最も近づく際に「温帯的低気圧」に変わっていたとしても、最大限の警戒が求められる。という点があります。
北海道は冷涼・寒冷な地域であり、暖かい南の海からの「熱」だけを受けて成長してきた台風は、そのままの姿でやって来ることはほぼありません。
むしろ、北からの冷たい空気を引き込み、「熱帯低気圧=台風」の姿ではなく、一般的な発達した低気圧=「温帯低気圧」化していることが大半です。
温帯低気圧化している台風は、北と南の気温差が大きい場合などに「再発達」することがあります。比較的強い勢力のまま温帯低気圧化し、その上再発達した場合は、一般的な強い台風を上回る勢力となり、中心付近のみならず広い範囲で暴風・高波の甚大な被害をもたらすことがあります。現に2004年の台風18号では、札幌の近くで温帯低気圧に変わっていますが、その時点でも甚大な暴風被害を発生させています。
天気予報だとどうしても「台風かそうでないか」によって扱いが変わってしまいますが、札幌に台風が近づくケースでは「台風のままであるかどうか」を余り重視しない方がよい訳なのです。
日本海通過時に「暴風」リスク大
台風や台風から変わった温帯低気圧は、一般に台風の右(東)側が暴風が強く「危険半円」と呼ばれ、左(西)側はそれよりは少しましな暴風となる「可航半円」と呼ばれる性質を持ちます。危険半円の場合、北上するに連れて暴風域の範囲も可航半円より大きくなり、中心からかなり離れた場所でも暴風が吹きやすくなります。
すなわち、札幌周辺を台風が通過する場合、石狩湾・日本海付近をその進路とする場合が、まさに「危険半円」に入ることになりますので、特に暴風のリスクが大きくなるパターンとなります。
2004年の台風18号、2018年の21号、昭和の時代などに暴風をもたらした洞爺丸台風などの各台風を見ても、基本的に全ての台風が北海道の西側・日本海沿いを北西または北方向に向かって進んでいます。
過去の大雨災害には「台風」によるものも
台風については、日本海を通過して暴風をもたらすケースに留まらず、前線を刺激するなどして「大雨」をもたらすケースも見られます。
例えば、戦後最大の水害と言われた昭和56年8月水害では、8月の前半と後半の2回札幌で大雨・豪雨となりましたが、いずれもケースでも台風が関係しています。
まず、石狩川が溢れた8月3~5日頃の大雨では、札幌から離れた東日本の海上を通る台風12号が、次第に北海道の太平洋側へ近づくタイミングで大雨が発生しています。これは北海道に停滞する前線に台風から暖かく湿った気流がどんどん流れ込んだことで発生したもので、台風なくしては降ることがなかった大雨でした。
また、南区で土砂災害が多発した8月23日の豪雨は、台風15号が関東方面から札幌方面へと進むタイミングで、台風の中心が差し掛かる前に前線が活発化し大雨となっています。
これらの大雨では、特に前者の台風12号は、一見すると札幌に余り影響のなさそうなコースを通っており、こと大雨に関しては、日本海を通るかどうかや、札幌に大きく接近するかどうかに関わらず前線を活発化させる条件があればリスクが生じると言えます。
札幌市における「大雨」については、上記の記事で別途解説しております。
過去に被害をもたらした主な台風
2004年台風18号
札幌に観測史上最大の最大瞬間風速(50.8m/s)をもたらしたのは、2004年の台風18号です。この台風は九州北部地方を通過しその後日本海に進み、970hPa(ヘクトパスカル)以下の勢力を保ちながら北海道へ近づきました。
札幌に最接近した9月8日午前9時頃には温帯低気圧に変わりますが、この時点での勢力は968hPaと、再び低気圧に変わってから「再発達」の兆しを見せ、札幌・北海道各地に記録的な暴風をもたらしました。
市内では北海道大学のポプラ並木が倒れるなど(それ故「ポプラ台風」とも呼ばれる)倒木が多数発生し、車両・建物などの被害も生じたほか、負傷者なども出るなど、少なくとも戦後の札幌・北海道内では最も大きな風による被害が生じた台風となりました。
2018年台風21号
2004年の台風に次ぐ規模の暴風をもたらした台風としては、2018年の台風21号が挙げられます。この台風は大阪周辺を中心に近畿地方に甚大な被害を発生させましたが、その後日本海に抜け、975hPa(ヘクトパスカル)程度で札幌に最接近し、最大瞬間風速30m/s程度の暴風をもたらし、大規模な被害はなかったものの、倒木・電柱への被害などが生じました。
なお、この台風が襲来した翌日には、札幌市内でも震度6弱を記録した北海道胆振東部地震が発生し、連日の自然災害で大きな混乱が生じました。
洞爺丸台風・キティ台風
札幌に記録的な暴風をもたらした台風としては、この他1949年に関東から日本海へ抜け、北海道にもかなりの暴風をもたらした「キティ台風」、青函連絡船が沈没し世界でもまれに見る規模の海難事故をもたらした「洞爺丸台風」など、昭和期にも複数の台風が来襲しています。