札幌には海がある・ない?結局どっち?【海の玄関口】

北海道最大の都市であるのみならず、日本国内でも第5位の規模を誇る札幌のまち。

観光をする際の「予備知識」にもなる札幌のまちの地理を考える場合に、時折疑問として上がりやすいテーマは、「札幌って、海はあるの?」というものがあります。これについては、市民の方ですら余りよく分かっていないケースがあるのですが、本ページではそんな札幌市の範囲と「海」を巡る事情について解説をしていきたいと思います。

海に近いようで実は海がない札幌のまち

札幌のまちには、結局「海がある(面している)のか海がない(面していない)のか」という実に素朴な疑問。

これについては、結論かつ少し地理的にマニアックな話をすると、札幌市自体は「日本最大の『海に面していない』都市」となっています。

札幌の都市としてのイメージは、豊かな海産物が比較的手に入れやすく、小樽の観光へも近い。手稲駅から臨時バスですぐに行ける海水浴場がある。といった印象から「海」とはそれほど疎遠なイメージはありません。冬には日本海側の気候らしく雪が多くなるといった点からも、海との関わりは大きな地域と言えます。

しかし、あくまでも札幌市という行政区域の範囲には、確かに海はありません。

出典:地理院地図

わかりやすいように、決められた各自治体の「境界」だけが記された白地図で見てみましょう。地図上では札幌市は北側が海にほとんど接しているように見えるほど、海に非常に近い場所までその範囲を広げていますが、本当にごくあとわずかな距離で残念ながら海に面していません。

札幌市のエリアに食い込むような形では、小樽市の範囲がかなり細長く伸びており、そのまま石狩市と接しているため、ギリギリの所で札幌市の「海洋進出」は阻まれたような格好になっています。

要は、札幌市は「海に極端なくらいまで近いけど、海自体はどこまで行ってもない」自治体なのです。そもそも、「おたるドリームビーチ」という名の通り、札幌市民があたかも札幌市の一部であるかのように集うあの海水浴場も、あくまでも名前が「小樽市」の範囲であることを単刀直入に物語っています。

なお、日本国内の主要な都市(政令指定都市)について、海に面しているか・いないかで分けると以下の通りです。

海のある政令指定都市仙台市・新潟市・横浜市・静岡市・名古屋市・大阪市・堺市・神戸市・岡山市・広島市・北九州市・福岡市・熊本市(政令市ではないが東京23区も海に面する)
海のない政令指定都市札幌市・相模原市・京都市

このように見ると、海のない大都市は日本国内ではかなりまれな存在です。そもそも内陸に位置する京都市やベッドタウンとして栄える相模原市とは異なり、「海が近い」上に「その地域の最大都市」でありながら、市内には「海がない(面していない)」という札幌は、日本国内では同じような都市がない、かなり特徴的な地域と言えるでしょう。

札幌市内で最も海に近い場所は?

非常に微妙な加減で海に面していない都市である札幌。一方で、海に非常に近い場所は市内にある訳ですので、その場所を確認しておきましょう。

札幌市内で最も海に近い場所は、手稲区の下水施設「西部スラッジセンター」に近い新川周辺であり、海からの距離は最も短い場所で約400m少々となっています。一般的に立ち入ることが出来る場所としては、新川沿いの「手稲山口バッタ塚」が海に最も近い場所となっており、海からの距離は500m弱となっています。海までの残りわずかな区間は小樽市の区域に含まれています。

出典:地理院地図(一部加工の上利用)

周辺では、山口緑地などの一部から海が見えますが、さほどよく見える場所はなく、市内で最も海に近い場所へ行けば、海がとてもよく見えるという訳ではありません。

純粋に海が見たいだけであれば、すぐそばの「おたるドリームビーチ」へ行くと海岸の風景がご覧いただけるようになっており、札幌市内から海を見るという意味では、サッポロテイネ方面といった山の上など市内を遠くまで一望できる場所に行った方がよいかもしれません。

札幌市は、少し移動すれば石狩湾沿いの海の風景もご覧いただける一方、山・森・公園といった自然環境も充実している地域であり、自然環境をテーマに観光を楽しむのもおすすめです。

札幌周辺の「港町」はどこ?

一般的に、各地域に位置する大きな都市は、海に面しており流通や貿易・工業の拠点として大きな「港(港湾)」を持つことが多くなっています。実際に、海に面する各政令指定都市は、規模に差はありますが、いずれもそれなりの規模の港が必ず存在し、海の玄関口になっていない地域はありません。

一方で、札幌市は海が近いにも関わらず海に面していないため、市内に港はありません。では、札幌にとっての「海の玄関口」と言える港は一体どこにあるのでしょうか。

石狩湾新港

指定重点港湾・特定港
規模水域2,235ha(全国65位)
臨港393ha(全国40位)
取扱貨物量680万トン(全国71位・2019年)

札幌市内から最も近い港湾は、小樽市の東部から石狩市にかけての沿岸に設けられた「石狩湾新港」です。こちらは「新港」という名の通りまだ比較的新しい港であり、札幌に近い場所で大きな港湾を建設しようという流れの中で1970年(昭和45年)に国家事業として建設が開始され、実際の利用開始は昭和の終わり頃と歴史がかなり浅いことが特徴です。

現在は周辺に大規模な工業団地も有し、エネルギー関係の拠点として複数の発電所も立地するなど、港の一帯は札幌郊外の重要な地域として機能していますが、貨物の取り扱いという意味では苫小牧港と比べ圧倒的に小規模であり、札幌という都市のスケールと比べると特段大きな港湾とは言えないでしょう。

なお、港の一帯については、一部は一般の立ち入りが可能ですが、進入禁止となっている場所も多くなっており注意が必要です。

小樽港

指定重要港湾・特定港
規模水域面積は全国100位以下
臨港192ha(全国70位)
取扱貨物量1,295万トン(全国50位・2019年)

小樽港は、石狩湾新港に次ぐ札幌最寄りの大型港湾です。こちらは歴史的に見た場合明治以降の北海道開拓において、最も重要な役割を果たした港であり、戦前においては日本有数の港湾都市として小樽市自体も非常に栄えました。

一方で、戦後は苫小牧港の台頭や拠点の分散化等によって状況が大きく変わり、次第に全国的に見た場合は特別に大きな港湾とは言えなくなり、現在は一般の貨物船の発着は極めて少なく、新日本海フェリーによって関西・北陸・新潟方面からの物流・人流・車両を主に受け入れる北海道における重要な港湾として機能している他、観光都市ということでクルーズ船の発着にも力を注いでいます。

その他の港とは異なり、港湾一帯は観光地となっているため散策しやすく、札幌最寄りの「歩ける港町」としてぜひ訪れておきたい空間と言えるでしょう。

苫小牧港

指定国際拠点港湾・特定港
規模水域面積14,300ha(全国6位)
臨港1,965ha(全国位)
取扱貨物量10,729万トン(全国4位・2019年)

札幌という巨大な都市で消費・利用される様々な物資・資材については、石狩湾新港や小樽港ではなく、かなりの割合は札幌から約50km程度離れた苫小牧市にある「苫小牧港」がその物流受け入れの一大拠点となっています。

苫小牧港は単純な貨物トン数で見た場合、東京・大阪・神戸港を凌ぐ規模(コンテナ数では大幅に劣る)を持つ港湾であり、現在では北海道経済の屋台骨と言ってもよい重要な拠点となっています。

船舶としては一般の貨物船も多いですが、太平洋フェリー・日本海フェリーの発着があるため内航フェリーによる貨物輸送が全体の半分を占めており、工業が盛んではない北海道ということで、輸出はかなり少なくなっていることも特徴です。

大きな港ということで埠頭や防波堤周辺は一切立ち入りが出来ませんが、公園が整備されている場所などもあり、フェリーターミナルは時期によっては多くの利用者でにぎわいを見せます。

石狩湾全般に関する基礎知識は、上記の記事で別途解説しております。