札幌や北海道各地の気候の傾向としては「冬が寒い・雪が多い」とか「夏が涼しい」といったものが一般的に挙げられますが、この他に最も特徴的な要素としては、「梅雨がない」こともよく言われます。
梅雨がない。というと、梅雨が一般的な本州(特に西日本など)の感覚ではなかなかイメージがつかない点もあるかもしれませんが、こちらのページでは、「梅雨がない北海道」のメカニズム、梅雨がないけれども「梅雨のような天気」はあるとされている点など、「北海道と梅雨」を巡る内容を詳しく解説していきたいと思います。
「梅雨がない」は事実
梅雨入り・梅雨明けの発表がない唯一の地域
札幌・北海道一帯に本州や南西諸島では一般的な「梅雨」がないとされているのは、イメージ・印象論ではなく、一般的な現実として確かに梅雨は存在しないと考えられています。
気象台などが何かを説明したりする時にも、様々な気象予報士の方が天気を解説するときにも、北海道に日本各地では一般的な「梅雨」シーズンは存在しない。そういった形で取り扱われることが基本であり、曲がりなりにも「北海道に梅雨が存在する」と公言するような専門家の姿は今の所見られません。
そもそも、多くの方が関心を持つ気象庁による「梅雨明け」や「梅雨入り」の発表は、沖縄・奄美から本州各地(東北北部)まではくまなく発表されますが、北海道は対象外です。北海道の梅雨入り・梅雨明けの発表がないのは、要するに北海道には「梅雨がない」と気象庁が判断しているからにほかなりません。
すなわち、ひとまず「公的な見解」としては北海道は「梅雨のない地域」となっていると言えます。
まとまった雨の頻度はかなり少ない
気象データから見た場合、「梅雨のない北海道」は他地域とどのような違いがあるのでしょうか。
地点 | 6月の降水量(平年値) | 7月の降水量(平年値) | 1日30mm以上の降水日数 (6・7月合計の平年値) |
---|---|---|---|
札幌 | 60.4mm | 90.7mm | 1.1日 |
旭川 | 71.4mm | 129.5mm | 1.3日 |
帯広 | 81.1mm | 107.1mm | 1.2日 |
函館 | 79.8mm | 123.6mm | 2.0日 |
東京 | 167.8mm | 156.2mm | 3.2日 |
大阪 | 185.1mm | 174.4mm | 3.8日 |
福岡 | 249.6mm | 299.1mm | 6.0日 |
一般的に梅雨のシーズンとされる6月・7月の平年降水量を見ると、北海道は本州の主要都市と比べかなり少ないことがはっきりしています。特に太平洋からの湿った空気の影響を受けにくい札幌など日本海側の地域では、7月にかけても雨量はさほど多くならず、梅雨がないことがデータからもしっかり読み取れます。
また、1日の雨量が30mmを超える日数(まとまった雨が降る日数)で見ると、北海道は他の地域より半分以下の場所が大半で、札幌ではまとまった雨量になることは6・7月の間に平均1日程度であるなど、しっかりと降る梅雨らしい雨が少ないということも歴然としています。
「梅雨のような天気がある」も現実
北海道には確かに「梅雨」は存在しないとされていますが、まるで梅雨であるかのような天候となることや、実際に梅雨と同じ気象状況となることもあります。
いわゆる「蝦夷梅雨」
近年よく言われるようになった用語としては、「北海道特有の梅雨」であるかのような意味合いで使われる「蝦夷梅雨」というキーワードがあります。
これは、ざっくりと言えば6月頃に曇りや小雨・霧雨などのすっきりしない天気が一時期続く傾向を言うものとされています。
なお、「蝦夷梅雨」は公式的な気象用語でもなく、気象庁などが積極的に使っているものではありません。すなわち公式的な「定義」などもなく、なんとなく6月に天気がすっきりしない=蝦夷梅雨と言われるケースがほとんどですが、一応のメカニズムとしては、オホーツク海側から冷たい湿った気流が流れ込み、特にオホーツク海側の沿岸部などを中心に曇りや小雨・霧雨が一定期間続く。そういった現象を指すとされています。
蝦夷梅雨という言葉については、上記の記事で別途解説しております。
梅雨前線による北海道の雨
いわゆる「蝦夷梅雨」ではなく、本州各地などと同じ「梅雨前線」の影響によって、北海道でも天気が崩れることもあります。
梅雨前線は、本州付近に停滞することが多いですが、南の海上へ下がったり、逆に北海道付近まで北上することもあるなど、前線が北海道付近までやってくれば、当然ながら北海道周辺でも天気は崩れ、梅雨のような天気となります。
例えば2009年の7月には、全国的に梅雨前線の影響を受ける中、北海道付近にも前線や低気圧が進んで来る頻度が多く、かなり長い期間に渡って晴れ間(日照時間)が少ない状況が続き、一定のまとまった雨が降ることもありました。データを見るとこの2009年に限っては、大阪や東京における「梅雨シーズン」とあまり変わらない条件が北海道でも観測されており、「梅雨があった」と言って差し支えない状況となっています。
但し、北海道の場合このようなシーズンがまれにあっても、全体的には雨量が少ないシーズンが大半で、毎年のように梅雨らしいしっかりとした雨が降る傾向がある本州とは根本的に状況が違います。
梅雨のような年が「まれにある」くらいでは、毎年の気候の特徴として「梅雨がある」と言うことは出来ないという訳なのです。
道内における傾向の違いは?
「梅雨のない地域」は、気象庁などの解釈では北海道全体であるとされており、観測データ上もその議論は間違っているとも言えません。
一方で、細かな違いを見ていけば道内の各地域ごとに、様々な特徴があることも確かです。先に見た梅雨時のデータについて、北海道内各地に範囲を広げて一層詳しく見て行きましょう。
地点 | 6月降水量 (平年値) | 7月降水量 (平年値) | 2か月の雨量合計 | 6月日照時間 (平年値) | 7月日照時間 (平年値) | 1日30mm以上の降水日数 (6・7月合計の平年値) |
---|---|---|---|---|---|---|
苫小牧 | 111.6mm | 163.5mm | 275.1mm | 119.7時間 | 108.1時間 | 2.7日 |
室蘭 | 109.1mm | 159.2mm | 268.3mm | 155.8時間 | 133.2時間 | 2.6日 |
釧路 | 114.2mm | 120.3mm | 234.5mm | 126.8時間 | 118.9時間 | 2.2日 |
根室 | 103.0mm | 115.1mm | 218.1mm | 135.5時間 | 117.3時間 | 1.7日 |
函館 | 79.8mm | 123.6mm | 203.4mm | 172.6時間 | 134.4時間 | 2.0日 |
旭川 | 71.4mm | 129.5mm | 200.9mm | 176.5時間 | 159.8時間 | 1.3日 |
帯広 | 81.1mm | 107.1mm | 188.2mm | 148.2時間 | 121.9時間 | 1.2日 |
岩見沢 | 69.5mm | 111.5mm | 181.0mm | 173.6時間 | 156.2時間 | 1.2日 |
紋別 | 69.8mm | 108.6mm | 178.4mm | 154.7時間 | 143.2時間 | 1.1日 |
留萌 | 56.3mm | 113.9mm | 170.2mm | 174.0時間 | 169.2時間 | 1.1日 |
稚内 | 65.8mm | 100.9mm | 166.7mm | 154.6時間 | 142.7時間 | 1.0日 |
倶知安 | 59.9mm | 102.3mm | 162.2mm | 169.7時間 | 144.5時間 | 1.2日 |
網走 | 68.1mm | 85.8mm | 153.9mm | 172.2時間 | 167.6時間 | 0.8日 |
札幌 | 60.4mm | 90.7mm | 151.1mm | 180.0時間 | 168.0時間 | 1.1日 |
小樽 | 55.6mm | 93.6mm | 149.2mm | 170.4時間 | 163.3時間 | 1.0日 |
主要な観測地点(都市)の6月・7月の観測データを見た上で、実際の気圧配置・気候の傾向を検討すると、大まかには以下のような特徴が見出せます。
・札幌周辺の地域は、北海道で最も「梅雨のなさ」がわかりやすい地域。6月も7月も雨量が少なくまとまった雨もかなり少ない。
・その他日本海側、オホーツク海側も雨量は少ない傾向が明確で、「蝦夷梅雨」を除き長雨の実感は少ない。
・道東地域は海沿いで「霧」が発生しやすいことや湿った気流の影響を受けるため、日照時間が少なく、雨量は少しだけ多い。但し要因は梅雨前線そのものではなく、海水温などの要因が大きい。
・道南から胆振地域は湿った気流や梅雨前線の影響を道内で最も受けやすく、室蘭・苫小牧・登別周辺は特に雨が多めになる傾向。まとまった雨の頻度もやや増え、梅雨らしさを北海道内では比較的感じやすい地域。
概ねこのようにまとめられます。北海道内でも雨の頻度や晴れやすさ、まとまった雨量となる度合いなどは一定の違いがあります。
「梅雨がない」といっても、それを毎年実感しやすいのは札幌などのエリアであり、太平洋側や道南地域では、「梅雨のない北海道」のメリットはさほど実感できない年が多いかもしれません。
札幌の降水量については、上記の記事で別途解説しております。