「蝦夷梅雨」とはどういうものか【実は定義なし・近年多用】

初夏(6月)の北海道。この時期は本州では「梅雨入り」の便りが届くようになるものですが、北海道は一般に「梅雨がない」土地であるとされています。

確かに北海道の6月に観測される気象データは、雨は少な目で「梅雨」らしい傾向があるとは言えません。

一方で、6月頃の北海道では時に「蝦夷梅雨」という独特の表現が使われることがあります。「蝦夷(要するに北海道周辺)」の「梅雨」。北海道に梅雨がないはずなのに、どういうことなのか一見するとよくわからないようにも感じられますが、こちらの記事では、その「蝦夷梅雨」について、言葉の意味や現象のメカニズムなどを解説していきます。

蝦夷梅雨って何?

少し謎めいた用語である「蝦夷梅雨」。これは、要するに言葉の通り北海道における「梅雨」のような天候を指すキーワードです。具体的には、6月頃にしばらく雨が続くようになる時に使用されることが目立ちます。7月ではなく、どちらかと言えば「6月」です。

なお、「蝦夷梅雨」は何か公式的な気象用語であるとか、行政が頻繁に用いる用語であるとか、そういった「オフィシャル」な要素は特にありません。つまり、6月頃に雨が続く時に「蝦夷梅雨」と言われることが多い。大雑把に言えばそれだけの話です。用語に関する厳密な「定義」はないのです。

但し、近年では使用されることが増えてきたようで、メディアなどでもその文字を目にすることが多くなってきています。

一般的な「蝦夷梅雨」のイメージとしては、本州のような「まとまった雨」ではなく、「しとしと」と雨が降り続いたり、「どんより」と雲が広がり「小雨・霧雨」が降る。せいぜいそのような「雨」としてイメージされることが多くなっています。

「梅雨」がない北海道の「梅雨」なので、あくまでも梅雨ではないのですが、雨の強さには差があっても、あたかも梅雨のような気象状況に見舞われることがあり、そのような状況を「蝦夷梅雨」と呼ぶようになっていった訳です。

なお、誤解されやすいことですが、「蝦夷梅雨」があるから北海道の6月は天気が悪い時期。という訳ではありません。北海道で雨量が増えるのは7月、更に8・9月と夏から秋の初め頃に雨量が多くなる傾向がはっきりしており、6月は日照時間も比較的確保され、全体としてみると春に次いで「天候が安定しやすい時期」です。

蝦夷梅雨の「要因」は?

あくまでも公式的な用語ではなく、厳密には定義が存在しない「蝦夷梅雨」ですが、北海道で6月頃に一定期間小雨・霧雨等が降りやすくなる天候というのは、どういった要因・メカニズムで発生しているのでしょうか。

これは、本州以南の「梅雨」とは大きく異なります。

本州以南で一般的な「梅雨」は、その名の通り「梅雨前線」そのものの雨雲が、直接的に各地に雨を降らせるものです。前線による雨はしとしととした雨で済むこともありますが、時に活発化した前線は、梅雨の後半になればなるほどに、まとまった雨・大雨、短時間の豪雨をもたらすリスクを伴うなど、災害の可能性とも直結した存在です。

一方で、北海道で「蝦夷梅雨」と呼ばれることが多い「雨」については、北海道の北東側から冷たい空気をもたらす「オホーツク海高気圧」によるものを指すとされています。

オホーツク海高気圧の淵から吹き出す冷たい気流は、高気圧の名の通り、流氷が融けて間もない極めて海水温が低いオホーツク海を吹き抜け、北海道の主にオホーツク海側に吹き寄せます。湿った気流は低い雲を発生させ、主に小雨・霧雨のような弱い雨をもたらす事があります。

これが、「蝦夷梅雨」の基本的な仕組みです。つまり、紋別・網走などオホーツク海側沿岸部では、特にその影響が生じやすいと言うことになります。

悪天候が続く期間は?

「蝦夷梅雨」と呼ばれるような気象状況は、その持続期間で見た場合、概ね数日~長くても2週間程度の間を持って発生することが多くなっています。

典型的なパターンとしては、すっきりと晴れた天気が続く間に、突如全く晴れない、小雨や霧雨が降るような期間が入って来る。というものがあります。

本州の「梅雨」は1か月単位であるのと比べるとかなり短くなっており、「1か月単位」で見た場合、特に日照不足でもなく「良く晴れた6月」になることもあるのが「蝦夷梅雨」の特徴です。

一時期天気が悪くなるという意味では、毎年のように「蝦夷梅雨」らしさは北海道の天気に現れますが、影響が長続きしにくいため、さほど実感されない年も多くなっています。

日照時間のデータで見た場合、「蝦夷梅雨」らしさが最も現れやすいオホーツク海側でも、大半の年で日照時間は150~200時間程度で、極端に天気が悪いシーズンは、10年に1~2回程度とさほど目立ちません。要は、本州の「梅雨」と同様の「雨季」としては扱えない訳なのです。

雨が降れば「蝦夷梅雨」で済ませるべきなのか

オホーツク海側を中心に影響をもたらすとされる「蝦夷梅雨」。

この用語の使われ方を考えていくと、近年ではもはや6月に北海道内で少し天気が悪くなるだけで「蝦夷梅雨」と言われているケースすら散見されます。元々厳密な定義がない言葉だから、特に問題はない。という考え方もあるかもしれませんが、本州などの「ザ・梅雨」と比べ、「蝦夷梅雨」はかなりあいまいな意味合いになってきていることは否定できません。

例えば、6月に悪天候が2~3日程度、少しだけ長続きする場合、それを「蝦夷梅雨」と言うべきなのか。と言うとなかなか難しい所があります。

先述した通り、オホーツク海側から冷気が入り込んで生じるいわゆる「蝦夷梅雨」的な悪天候自体は数日単位で現れる事が多く、一般の人にとっては低気圧や前線が一時的に停滞した場合の天気の悪さ、上空に寒気が入り大気の状態が不安定になった場合の天気の悪さと区別がついていないケースも散見されます。

どういった言葉の使い方がよいかというのは、各自が判断することではありますが、例えば5~10日間など、長期間小雨・霧雨・曇りが明らかに続くようなケースでない限り、あえて「蝦夷梅雨」と強調する必要はないと言えるでしょう。

札幌における「降水量」、北海道の「秋雨」については、上記の記事で別途解説しております。