札幌の「大雨・豪雨(水害)」とは?過去の事例から気象条件を考える

冷涼で過ごしやすい土地柄として観光にも長期滞在にも人気の札幌。気候という面では、冬の寒さや雪のイメージが強く、それ以外の季節については余り印象がない場合も多いかもしれません。

一方で、各種の災害などをもたらす最大の要因である「雨」については、全国各地で様々な災害などが起こる中、札幌も含めどの都市でも「大雨」のリスクや傾向などについて、一定程度「知っておく」ことが何よりも重要です。

本ページでは、札幌における「大雨・豪雨」というテーマから、過去の災害事例なども確認しながら、その基本的な状況について見ていきたいと思います。

確かに「大雨が多くない」札幌

札幌の「大雨」。イメージとしてはそれほど強い印象のあるテーマではないかもしれません。

確かに、統計データを見ていくと、札幌では本州で降るような大雨の頻度は少なく、降水量も極端な数字にはなりにくいという傾向ははっきりしています。

「日降水量100mm以上」が観測された日数で見る

都市観測日数
那覇96日
福岡53日
東京41日
広島36日
仙台23日
名古屋22日
金沢18日
大阪17日
新潟9日
札幌4日

大雨頻度の少なさをデータ上で最も裏付けるものとしては、1日の降水量(日降水量)が100mm以上となった日数の「少なさ」です。

上記のデータは「平成以降」で日降水量が100mmを観測した日数を表示していますが、札幌は断トツの最下位。

大雨の多い場所は、台風や前線の影響を受けやすい沖縄などの南西諸島・西日本方面、また黒潮の影響を受ける太平洋側に集中しており、そもそも日本海側は大雨頻度が比較的少なくなりやすく、その中でも札幌は更に少なくなっているのです。

各年ごとの24時間雨量の最大値(1939~2020年・単位はmm)

データが大きく途切れずに残る1939年以降について、「日雨量」よりも更に大雨の状況を把握しやすい各年ごとの「24時間雨量」の最大値で見た場合も、100mmを越えるようなことはそう多くありません。とりわけ2000年以降は40~60mm台で推移することが多く、本州で毎年のようにある「24時間・1日で100mm前後の大雨」が札幌ではかなり珍しいことが分かります。

日100mm以下のまとまった雨も少ない

都市70mm以上50mm以上30mm以上
札幌0.5日1.5日6.3日
仙台1.9日4.8日10.6日
東京2.8日6.2日14.3日
新潟1.2日3.3日11.3日
金沢2.4日6.0日19.8日
名古屋1.9日5.0日15.4日
大阪1.5日3.7日11.5日
広島3.1日6.4日16.3日
福岡3.6日6.7日15.0日
那覇5.9日10.3日20.4日
日降水量が一定の雨量を越える日数(年間の平年値)

100mmを超えるかなりの大雨のみならず、それ以下の大雨・まとまった雨の指標として、70mm・50mm・30mmを超えた平均日数を見てみても、札幌の雨の少なさははっきりしています。

ざっくり言えば、本州の太平洋側などの主要としてまとまった雨となる頻度の半分程度~3分の1程度の頻度でしか同じ規模の雨が降らないデータとなっており、どのように見たところで、札幌が大雨の多い地域であるということは出来ません。

大雨の頻度自体が少ない理由は?

札幌で本州南部などと比べ、明らかに大雨・まとまった雨の頻度が少ないということには、どのような理由が考えられるでしょうか。

ざっくりとまとめれば、

1.梅雨がない
2.台風の接近数が少ない
3.本州と比べ海からの暖かく湿った気流の影響を受けにくい

上記の3点が特に大きな理由と言えるでしょう。

まず、梅雨については夏の暖かく湿った空気と、春や秋の冷たい空気がぶつかることで発生するというのが大まかな仕組みですが、札幌を含む北海道の場合、冷たい空気の影響を受ける期間が長い上、南北の空気の気温差が本州付近ほどはっきりしないため、毎年しっかりとした梅雨が続くようなことは少なくなります(梅雨のような天気になることもありますが、頻度は限られます)。

また、本州付近では台風が接近することで秋雨前線を刺激し大雨になる頻度が高いですが、札幌の場合そのようなケースもあるとは言え、本州の太平洋側等と比べ、台風がやってくる頻度が少ないためやはり大雨の頻度は減ります。

そして、夏の時期は本州の場合、太平洋からの暖かく湿った南風の影響を受け、沿岸部や山間部などでは雨がまとまりやすくなりますが、北海道の場合温暖な海流である「黒潮」からも遠く離れており、やはりそのような影響は非常に少なくなります。

寒冷な地域は一般に降水量が少なくなりやすい傾向がありますが、北海道もそれと同様で、結果大雨に見舞われる頻度自体は少なくなる訳です。

過去の大雨災害は?

大雨の「頻度」自体は少ない札幌ですが、過去に発生した大規模な大雨・豪雨災害としては戦後の場合例えば1958年・1961年・1962年・1965年・1975年・1981年に石狩川またはその周辺などの各河川流域の広い範囲で洪水が発生、1981年には南区方面の広い範囲で土砂災害が、2014年には市内南部で集中豪雨による道路災害が発生しています。

近年は平地で大きな災害が見られにくくなってはいるものの、これ以外にも例えば1992年・1996年・1997年・1998年・2000年などにも一部で小河川の氾濫等小規模な被害が発生しており、まとまった雨量が観測される度に、時折一定の被害が発生しているという実態はあります。

昭和56年8月洪水・土砂災害

札幌が人口100万人規模の大都市となってから、周辺地域に大きな被害をもたらした大雨による災害の代表として挙げられる事例は、1981年(昭和56年)8月に発生した昭和56年8月洪水です。

1981年の8月3日・4日の2日間で、札幌では約300mmの観測史上最大の大雨を観測し、石狩川の本流があちこちで氾濫したほか、支流でも多数の内水氾濫が発生し、農業部門や土木部門を中心に甚大な被害が発生しました。この際には、北区の茨戸川も氾濫寸前まで達しましたが、完成前であった「石狩放水路」を急きょ工事し緊急で通水可能としたことで、市街地の大規模浸水をどうにか回避することができました。

また、同じ月の23日を中心に、札幌市内は今度は1日で200mm以上と言う集中的な大雨に見舞われました。この大雨により、主に南区など山沿いの地域・豊平川流域を中心にあちこちで土砂災害が発生し、河岸の土砂が流出することで建物の基礎がむき出しになるなど、大きな被害が見られました。

観測項目観測値
日降水量の観測史上最大値207mm(1981年8月23日)
24時間降水量の観測史上最大値220mm(1981年8月23日)
72時間降水量の観測史上最大値293mm(1981年8月6日)
月降水量の観測史上最大値644mm(1981年8月)
年降水量の観測史上最大値1671.5mm(1981年)

上記のように、降水量に関する観測史上最大記録の多くが、この1981年8月に記録されており、明治以降観測され続けている札幌では極めてまれに見るような大雨であったことがわかります。

9.11支笏豪雨災害

近年の特筆すべき大雨・豪雨としては、2014年9月11日に発生した「9.11支笏豪雨災害」が挙げられます。

2014年9月11日に千歳市の支笏湖付近を中心に長時間発達した積乱雲が掛かり続け、札幌の気象台では合計雨量69.5mmの一方、支笏湖畔アメダスでは降り始めからの降水量が379mmと、一部の地域のみ集中豪雨となりました。

この豪雨で、札幌の市街地では特段の被害は発生しませんでしたが、札幌市南区では一部土砂災害が発生し、支笏湖方面と札幌を最短で結ぶ道路が1か月程度寸断されるなどの影響が発生しました。

こちらのケースは、都市部では大きな問題とならなかったため忘れられがちな災害事例ですが、札幌周辺でも本州で見られるような突発的な豪雨がありうるということが明らかとなるもので、ゲリラ的な豪雨のリスクが常にあることを実感させるものとなりました。

大雨が少ない=雨に強いとは限らない

これまで見てきたように、札幌周辺では災害事例はいくつもあるとは言え、データから見る場合、確かに大雨・豪雨の頻度は多くありません。

札幌は、少なくとも「大雨になる頻度」は日本の主要都市では最も少ない地域と言えます。しかしながら、大雨に少ないことと「雨に強いまち」であるということは、必ずしも全て一致する訳ではありません。

順位1時間降水量の最大値
1位50.2mm(1913年8月28日)
2位45.4mm(1957年9月17日)
3位44.1mm(1950年8月1日)
4位43.5mm(1952年7月16日)
5位42.4mm(1950年7月31日)
6位42.0mm(2012年9月9日)
7位42.0mm(2010年8月24日)
8位39.5mm(2015年8月7日)
9位37.5mm(1981年8月23日)
10位37.0mm(1975年8月17日)

上記は、札幌市で過去に観測された1時間降水量の最大値を順に並べたものですが、本州各地で言われるような80mm・100mmといったような豪雨は気象台で観測されたことはありません。また、1時間に30mmを超えるような激しい雨となる頻度も、決して多いとは言えません。

一方で、短時間で激しい雨や非常に強い雨に見舞われるなどして、市内各地の窪地や低い土地で、一時的な冠水・浸水被害が発生することは毎年のように見られます。これらは雨量として1時間50mm以下、場合によっては30mm以下でも発生していると考えられ、短時間の雨に「排水が追いつきにくい」という都市型の浸水リスクは常に存在しており、短時間の豪雨に対してはむしろ「雨に弱いまち」と言える側面もあります。

札幌市は、1981年の災害等を受けて治水対策を進め、近年石狩川及び石狩川水系で、大規模な氾濫が発生することは見られなくなっています。また、排水機能を向上させ、1時間50mm程度の雨量には耐えられるまちづくりを目指しています。

しかし、2014年の支笏湖豪雨のように、札幌のすぐ近くでも1時間に70mm程度の集中豪雨が起こり得る。という現実もあります。

今のところ、札幌の市街地・都市部でそれほどの雨量が観測されたことはありませんが、温暖化などによる気候変動リスクが指摘される中、仮に今後観測されたことのないような猛烈な雨・非常に激しい雨が札幌の都市部で降ることがあれば、これまでに見たことがないような浸水被害が発生する可能性も十分にありますので、「札幌だから雨の心配はいらない」と油断することなく、本州各地と同様、一般的な雨への備え・災害リスクの把握をしておくことが必要です。