平地・可住地面積が日本一狭い?奈良県の「県土」の特徴とは

交通・地理

近畿地方の2府4県のうちの1つに含まれる奈良県は、一般的には古代史・観光のつながりから「奈良県=奈良盆地」というイメージを持たれることが多く、「平地」が多いなだらかな土地環境。と解釈される場合も少なくありません。

しかし、実際の所は奈良県の県土はまったく穏やかな環境とは言い難く、「人が住むことが出来る」土地にあたる「可住地」面積はなんと全国最下位であるなど、かなり土地の制約が大きな地域でもあります。

こちらでは、そんな奈良県の「県土」の特徴について、知っておきたい地理的な「基礎知識」とも言える内容をシンプルにご紹介してまいります。

可住地面積全国最下位とは?

奈良県は、人が住むことが出来る土地の面積を表す「可住地面積」を都道府県ごとにランキング化した場合、その面積が一番狭い=全国最下位の県となっています。

可住地の定義は、面積全体から水面(湖沼)や林野(山地)を除いたものであり、市街地の面積という訳ではありません。例えば田んぼや畑などの農地・荒れ地も含まれるものとなっています。

総務省『統計でみる都道府県のすがた2021』から全国の状況を見ると以下の通りです。

都道府県総面積(km2)可住地面積(概算・km2)可住地割合(%)
北海道834242377628.5
新潟県12584453036.0
福島県13784421830.6
茨城県6097397565.2
岩手県15275371224.3
千葉県5158355468.9
鹿児島県9187331736.1
青森県9646323133.5
長野県13562322823.8
秋田県11638320027.5
宮城県7282315343.3
愛知県5173299057.8
栃木県6408298046.5
山形県9323288130.9
熊本県7409279337.7
兵庫県8401278133.1
福岡県4987276355.4
静岡県7777275335.4
埼玉県3798258668.1
広島県8480231527.3
群馬県6362227835.8
岡山県7114222031.2
岐阜県10621220920.8
三重県5774206135.7
宮崎県7735184923.9
富山県4248184443.4
大分県6341180128.4
山口県6113170627.9
愛媛県5676167429.5
長崎県4131167340.5
神奈川県2416147160.9
東京都2194142264.8
石川県4186139033.2
佐賀県2441133554.7
大阪府1905133069.8
滋賀県4017130632.5
島根県6708130119.4
京都府4612117625.5
沖縄県2281117051.3
高知県7104116516.4
和歌山県4725111523.6
福井県4191107725.7
徳島県4147101224.4
香川県1877100653.6
山梨県446595621.4
鳥取県350790125.7
奈良県369185623.2

奈良県は「最下位」であり可住地の割合も高くありません。可住地は東京・大阪といった面積の狭い地域と比べても大幅に少なくなっており、比較的狭い県でありながら山地が多いことが、こういった状況を生み出しています。

奈良盆地はさほど大きくない

奈良が一見すると「平地」のイメージで語られやすいのは、奈良県の北西部に広がる「奈良盆地」に人口のほとんどが居住し、古代史にさかのぼるような歴史もほとんどがこの地域に残されてきたことに由来します。

奈良盆地は奈良市周辺から飛鳥・高取・御所方面などの中和地域へかけての南北約30キロ・東西約10~15キロ程度の範囲に位置します。なお、西側は矢田丘陵・馬見丘陵がある関係で長方形というよりは、少しいびつな形状をしています。

奈良盆地の面積は、厳密な定義がある訳ではありませんが、概ね300平方キロメートル程度です。

300平方キロメートルと言えば、東京23区の半分以下、大阪市よりも少し大きいくらい、名古屋市と同じくらいの面積に過ぎず、県内の主要な平地がこれだけしかないとなると、当然ながら可住地面積は非常に少ないということになります。

例えば大阪であれば大阪市の周辺部にも広大な大阪平野が、名古屋周辺にも尾張平野が、首都圏には日本一の関東平野がありますが、奈良の場合はそういった環境にはありません。

奈良盆地以外の平地がほぼない

奈良県の平地・可住地面積が狭い理由としては、奈良盆地が大きくないこともありますし、そもそも「それ以外の平地」がほぼ存在しないことが大きな要因となっています。

南和地域の場合紀の川・吉野川沿いにわずかな平地がありますが、盆地や平野と言えるようなものではなく、川から離れるとすぐに傾斜地・山地となってしまいます。

また、東部の宇陀市内には榛原駅~大宇陀・菟田野周辺に少しの平地があり「口宇陀盆地」とも呼ばれ、このほか大和高原上の奈良市都祁地域にも「都祁盆地」と呼ばれるごく小さな平地がありますが、自転車で巡ることが容易であるなど面積的に見て広い訳ではなく、可住地面積の割合を大きく高めるほどではありません。

そのそも県の面積も大きくない

可住地面積を押し下げる要因としては、上記のように「平地がかなり少ない」県土の特徴もありますが、奈良県という自治体の面積自体が、これまた大して広く・大きくないという根本的事情もあります。

奈良県の面積は、約3691平方キロメートルでこの数字は全国40位、日本国内で海に面していない内陸部の府県としては、最も面積が狭い自治体です。

この面積は大阪府や東京都といった自治体と比べれば大きなものですが、兵庫県の半分以下、長野県の3分の1以下などとなっています。

可住地面積の狭さというのは、可住地の割合が少ないということに加え、そもそもの面積が狭いという点も一つの要因となっている訳です。

南部は日本有数の「過酷な環境」

奈良県の県土を見ると、わずかな可住地以外は基本的に山地となっています。

北部の奈良盆地以外のエリア(大和高原)の山々は、そこまで高い山もなく比較的穏やかな地形ですが、吉野川より南側など南部エリアの山間部(紀伊山地・大峰山脈)は近畿地方では最も険しく自然条件の厳しい地形で、日本国内で見ても最も土砂災害などが起こる頻度が高い過酷な環境となっています。

紀伊山地一帯は黒潮が流れる太平洋にも近いため、南の海上から吹き込む暖かく湿った気流が山にぶつかりやすく、「雨量」も日本で最も多い地域の一つとなっています。また、冬はある程度の雪も積もる地域です。

これほど県内の「北」と「南」で地理的特徴が全く違う県も珍しく、それを裏付けるように奈良市など県の最も北側の地域と県南部を結ぶ移動はそれほど活発とは言えません。

まとめ

奈良県は、全面積から水面・林野(山地)を除いた可住地面積(人が住める地域)が全国最下位で、可住地の占める割合も極めて低い地域となっています。

可住地が少ない理由としては、奈良盆地以外にほとんど平地がないため、県土の大半が山地となっている点に加え、奈良県の面積そのものが全国的に見て狭い区分にあたることも大きな要因と言えます。

奈良の歴史や観光のイメージ的には「奈良盆地=奈良=平地」という印象も持たれがちですが、実際は山地が多い奈良県は、特に南部の紀伊山地は全国的に見ても厳しい自然環境であるなど、地域による土地条件・地理的な差が極めて大きい地域です。県北部と南部の極端な地理的特徴の差は、全国的に見ても類を見ないものと言えるでしょう。