北と南で余りにも違う奈良県の「雨」事情とは?【紀伊山地】

自然・気候

こちらでは、奈良県内の「雨」の特徴について、各種データなども参考にしながら見て行きたいと思います。

「奈良県」と言うと世界遺産・各種文化財といったイメージを持たれる方も多いかと思いますが、「地理的な条件」を見て行くと、「雨の降り方」について「地域ごとの差」が極端に大きい特徴を持つ県であることが浮き彫りになる地域でもあります。

「日本一の多雨地帯」と少雨地帯が同じ県内に

奈良県は、面積的には大阪の2倍程度とそれ程大きな県ではありませんが、南北には100キロ程度の長さがあり、地理的な条件は大きく異なります。

大きく分ければ南部は厳しい環境の山岳地帯が広がる「紀伊山地」、北部は西側は「奈良盆地」・東側は「大和高原」等が広がる比較的安定した環境となっており、北と南の環境が全くと言ってよい程に違います。

雨について見た場合、この地理的な条件がまさに影響を与え、海からの気流の影響を受ける南部一帯は「日本で最も雨の多い地域」と言っても差し支えないエリアである一方、北部は奈良盆地一帯を中心に海からの気流の影響をあまり受けず、雨量がむしろ少な目な「少雨地帯」であるという極端な差異が見られます。

南部の「雨」は凄まじいスケール

「雨」が多い事で知られる奈良県南部。南部の中でも地域差はありますが、豪雨となった場合、その雨のスケールは時に凄まじいものとなります。

大雨をもたらす原因として特に目立つのは「地形性降雨」。

南部の山岳地帯は一見隔絶された「辺境」のような場所に見えますが、実際の距離としては三重県・和歌山県の太平洋沿岸まで10~40キロ程度の場所であり、特に南東部については、海からの暖かく湿った気流がそのまま山にぶつかる事で上昇気流が生じる典型的な「地形性降雨」が海に近いエリア程生じやすくなっています。

太平洋からの湿った空気の供給は台風が近づいたり南風が吹き込みやすい夏場~秋にかけては相当なスケールとなるため、特に海に近い「大台ケ原」は、屋久島と並んで日本で最も雨の多い地域として広く知られており、1日の降水量は800ミリを越えた事もある他、年間降水量も5000ミリを越えることが珍しくありません。

大台ケ原周辺を「多雨」地域の頂点とする形で、雨の多さは概ね海から離れる程に少なくなっていきますが、南部の中でも南東側に位置する(海に近い)上北山村・下北山村は日本有数の多雨地域の一つと言って差し支えない環境ですし、十津川村や天川村・野迫川村・東吉野村といった内陸寄りの環境でも「雨台風」の来襲時等には1日で300~500ミリ規模の雨量となるケースがある等、近畿地方では屈指の雨量を有する地域となっています。

一方、「南部」に当てはまる地域でも吉野町や大淀町といった近鉄電車が通るようなエリア・盆地一帯の経済圏までやって来ると、気象条件は穏やかになり、雨量も相対的には少な目となってきます。時に大雨となるケースはありますが、気象庁の吉野アメダスにおける年間平均降水量はごく一般的な1,500ミリ程度の水準であり、日本国内では目立って雨量が多い地域とは言えません。

なお、雨量の多さは災害の多さとも結びつくものであり、南部の歴史は土砂災害との戦い・大規模な治水事業の実施等と切り離して考える事はできません。

奈良県北部は相対的には「少雨地帯」

奈良市や橿原市などを含む奈良県「北部」地域は、過酷な多雨地帯を含む南部エリアと比べると、年間平均雨量は半分程度になる地域が目立ちます。

奈良盆地一帯の市街地や平坦地では、平年の年間雨量は年間1300~1500ミリ程度の場所がほとんどで、大雨になる場合でも1日200ミリ以上の規模になったことは観測史上では1982年の大和川大水害・2017年台風21号による大雨等などケースは限られます。

なお、大和高原地域に含まれる北東部地域では、海からの気流の影響をやや受けやすいため、平均雨量は平地の2割増し程度となる場所も多いですが、南部程の多雨地帯ではありません。

北部と南部の雨量を比べた場合に2倍程度の差がある地域は全国的に見ても多くはなく、数十キロ程度の距離しか離れていない場所でも極端に雨の量が違うため、同じ県内といっても北部から南部へ「同じ気分」で訪れると予想外の出来事に見舞われるケースも少なくありません。

とりわけ、気象条件が悪い場合に「南部の自然環境をよく知らない」中で南部へ車で出かけるような事は、相応に危険な行動ですので全くおすすめできません。

なお、大和川など奈良盆地一帯の河川は極端な大雨に強いとは言えず、「南部では時折見られる雨量」でも「北部では記録的豪雨」となってしまうため、比較的短い時間で100mm程度の雨が降った際などに氾濫危険水位などに達するケースが見られます。

各アメダスの雨量データから見る

奈良県内の雨量について、気象庁が公表している観測地点(アメダス)の統計データからその状況を再度確認しておきましょう。

観測地点平年年間降水量観測史上最大の日降水量
奈良(奈良市)1365.1㎜196.5㎜
針(奈良市)1566.3㎜220.0㎜
田原本(田原本町)1308.3㎜214.5㎜
葛城(葛城市)1439.6㎜256.5㎜
大宇陀(宇陀市)1553.3㎜235㎜
曽爾(宇陀市)1951.8㎜370.0㎜
吉野(吉野町)1553.4㎜270.0㎜
五條(五條市)1453.5㎜282.5㎜
天川(天川村)2493.3㎜425.0㎜
風屋(十津川村)2538.2㎜591.5㎜
上北山(上北山村)2909.3㎜661.0㎜
日出岳(大台ケ原・観測終了)データ不足844.0㎜
奈良県内アメダスの雨量データ(出典:気象庁)

アメダスについては、夏しか観測していない場所・移設によりデータの整合性が確保出来ない場所・既に観測を終了してしまった場所もあるため、県内全体の完全なデータを集める事は出来ませんが、南部の自治体に行くに従って雨量が大きく増加しているイメージは掴んで頂けるかと思います。

どこに住む場合でも「雨に気を付けよう」

奈良県については、上記で解説してきたように、南部と北部で雨を巡る環境が大きく異なります。

一方で、水害・土砂災害の発生史や傾向を見て行くと、先述の通り「南部では時折見られる雨量」は「北部では記録的豪雨」となる雨量に相当し、奈良盆地周辺などの河川は特段大雨・豪雨に強いとは言い切れないため、北部であっても時折水害に見舞われる事があります。どこに住んでいても災害と完全に無縁になることはありません。

一般的にも広く言われている事ですが、今まで災害に見舞われた事がないという自らの経験から「ここなら大丈夫」と過信し、災害などへの備えがおそろかになる事が多く見られます。

奈良県内でも、奈良市内でも、奈良でなくても、どこであっても雨をはじめとする災害リスクには注意を払っておく必要があります。

まとめ

奈良県内の気候を「雨」という観点から見て行くと、日本屈指の「多雨地帯」である奈良県南部(特に南東部)、全国的に見ても雨がそれほど多いとは言えない北部地域(特に北西部)に二分され、県内でも北と南では全く違う気候となっています。

南部の多雨は、太平洋からの暖かく湿った空気が、急峻な紀伊山地にぶつかり上昇気流を生み雨を降らせる「地形性降雨」が大きな要因の1つであり、主に夏場から秋にかけて、台風や南からの湿った気流の影響を受けて豪雨をもたらします。

データとしてみると、奈良県の北部「盆地エリア」では年間平均降水量は1300~1500ミリ程度、南部では一部では3000ミリ程度に達する等、同じ県内ながら倍程度の差が生じています。また、1日で降る雨の量は大雨の際に南部では500~800ミリ以上となるケースもあり、北部とは比べ物にならないような雨量が記録されます。

北部については雨は少な目ですが、「南部で時折見られる雨量」は「北部では記録的豪雨」と扱われるレベルの雨量であり、河川の雨に対するキャパシティも異なることから、奈良盆地一帯でも水害等に見舞われたケースがあります。通常穏やかな気候=災害が起きないという訳ではありません。県内のどこに住む場合でも、基本的な地域の災害リスクへの心がけは重要です。