暑い夏の後には寒い冬がやって来るというのは本当?【過去のデータを見る・ラニーニャ現象】

自然・気候

1年の気候について話題となる際には、時に「夏が暑いと冬は寒い」とか、「猛暑の後には大寒波」といった形で、夏の気温の高さと、冬の気温の低さを結びつけるような議論が見られる場合があります。

こちらでは、そういった議論は本当なのか?というテーマについて、いくつかの視点・データに基づいて見ていきたいと思います。

こちらの記事は、2022年時点の状況に基づくものです。

必ず当てはまるとは限らない

「夏が暑ければ、冬は寒くなる」といった議論については、「ラニーニャ現象」に関連してそういった傾向があるとされることもありますが、少なくとも平成以降においては、実際の各年ごとの状況は、必ずしもそういった特定の傾向をはっきりと示している訳ではありません。

より具体的に言えば、確かに猛暑の後に寒い冬がやって来たケースは過去に存在しますが、猛暑の後に平年並みの冬・または暖冬がやって来たケースもまた存在しますので、必ず生じるほどの明確な関係・つながりを見いだせるような状況にありません。

例えば、平成以降の日本全体のデータで見た場合、平年よりも0.5℃以上の差が生じる形ではっきり「夏が暑く、冬が寒い」傾向が見られた年は、2011年夏〜2012年冬の1シーズンのみとなっています(2023年現在)。

各年ごとのデータは?エルニーニョ・ラニーニャとの関係は?

1990年以降、2022年までのデータについて、日本全体の平均気温(夏・冬)」が平年の気温とどれだけ差があるかを見た場合、下記の通りとなります。

夏の平均気温
(平年差・℃)
冬の平均気温
(平年差・℃)
現象
1990〜91年0.470.39
1991〜92年-0.140.43エルニーニョ
1992〜93年-0.940.73
1993〜94年-1.87-0.12夏のみエルニーニョ
1994〜95年0.79-0.11
1995〜96年-0.38-0.85ラニーニャ
1996〜97年-0.62-0.09
1997〜98年-0.540.28エルニーニョ
1998〜99年-0.300.19ラニーニャ
1999〜2000年0.22-0.24ラニーニャ
2000〜01年0.47-0.75
2001〜02年0.140.21
2002〜03年-0.21-0.58エルニーニョ
2003〜04年-1.220.42
2004〜05年0.50-0.05
2005〜06年0.17-0.97
2006〜07年0.001.04
2007〜08年0.00-0.31ラニーニャ
2008〜09年-0.170.85
2009〜10年-0.600.33エルニーニョ
2010〜11年1.08-0.29ラニーニャ
2011〜12年0.51-1.09
2012〜13年0.18-1.04
2013〜14年0.76-0.29
2014〜15年0.18-0.22エルニーニョ
2015〜16年-0.090.78エルニーニョ
2016〜17年0.490.47
2017〜18年0.24-0.98ラニーニャ
2018〜19年0.570.77
2019〜20年0.121.43
2020〜21年0.620.18ラニーニャ
2021〜22年0.54-0.21ラニーニャ
2022〜23年0.910.04ラニーニャ
上記ではわかりやすく区分するためプラス0.5℃以上を赤文字・マイナス0.5℃以上を青文字で示しています。
※「平年並み」の範囲は全国レベルでの設定はありません。
※気象庁のデータに基づく

温暖化傾向により、そもそも近年は気温が高い年が目立っているという状況もありますが、左側の赤文字で示した夏の暑い年が、右側の青文字で示した冬の寒い年(ここでは平年差が±0.5℃の場合とする)と必ずしも一致する傾向は示していません。

気候を大きく変化させる場合がある現象である「エルニーニョ現象」と「ラニーニャ現象」の状況で見た場合は、よく言われる通り「ラニーニャ現象の場合夏は暑い・冬は寒い傾向」に若干程度は見えるように思われます。

しかし、実際の数字は年ごとのずれが大きく、明確にそのシーズンが「夏は暑く冬は寒い」パターンになったのは、先述の通り数少ない事例です。

出典:両画像とも気象庁ホームページ(ラニーニャ現象発生時の日本の天候の特徴)https://www.data.jma.go.jp/cpd/data/elnino/learning/tenkou/nihon2.html

気象庁のより詳細なデータ分析で見ると、ラニーニャ現象の際に確かに「暑い夏」と「寒い冬」が若干多い特徴がありますが、日本全体で見た場合、それは「統計的に有意」な状態を示していません。すなわち、一般論として若干そういった傾向がある点までは完全には否定出来ませんが、「こうなればこうなる」という数字上の明確な傾向があると断定できる状況には達していないということになります。

統計上「有意」とされる状態は、「ラニーニャ現象」発生時に「北日本」の夏が暑くなるという傾向のみとなっています。冬に関しては全国のどの地方でも、気温の高低に有意な傾向があるとはされていません。

また、そもそもラニーニャ現象が発生する年ばかりではありません。ラニーニャ現象発生時に若干の傾向が仮にあったとしても、全体の中ではあくまでもラニーニャ現象が発生していない時期の方が長い訳ですので、過去のデータを見た場合に、はっきり夏が暑く、はっきり冬が寒くなるようなケースはあくまでもまれなケースに過ぎないということになります。

海水温の状況次第では雪が増える?

「暑い夏」と「寒い冬」にそのまま直結した内容とは言い切れませんが、近年の「記録的大雪」については、気象庁がその要因として「日本海の海水温が平年より高い」点を挙げるケースが見られます。

冬型の気圧配置の際に、雲が発達する上では、下記の2つの条件が必要です。

条件1シベリアから強い寒気が流れ込む
条件2日本海上から湿った水蒸気が大量に供給される
日本海の海水温が高い状態ほど条件が整う

基本的に「流れ込む寒気」と「海水温」の温度差が大きければ大きいほど、雪雲は発達します。また、海水温が高ければ高いほど、発生する水蒸気量が多いため、降る量が増えます。

日本海の海水温が高い状態で冬の期間推移すると、結果として寒気が入るタイミングには大雪のリスクが上がることがあります。

但し、寒気の流れ込み自体は、その年が「寒い冬」でない場合でも一度や二度くらいは有り得ることです。例えば、2017年の冬は、気温がかなり上がるタイミングもあるなど暖冬傾向であった一方で、時折強い寒気が入り、西日本日本海側を中心に記録的大雪となりました。このケースでは日本海の海水温も高い状態が続いていました。

海水温の高さが大雪をもたらすケースは、必ずしも「寒い冬」と直結しない場合が多い点に注意が必要です。

まとめ

夏が暑いと冬は寒いと言われることがありますが、実際の所、データ上は特段はっきりした傾向は存在せず、そう単純に言い切れるものではありません。明確に夏暑く・冬寒いパターンとなった事例は、平成以降のケースでは一部に留まります。

とりわけ「ラニーニャ現象」発生時には、夏が暑く冬が寒くなりやすいいう一般論が存在します。こちらは、データを見ると確かに少しそのような傾向があるようには見えますが、「統計的」には必ずしも明確な(有意な)関連性は見いだせません。

海水温の高さが、結果として冬場の記録的大雪・豪雪に結びつく事例が存在しますが、これは必ずしも「暑さ・寒さ」と直接関連するものとは言えません。暖冬傾向であっても一時的に寒気が入り、記録的な大雪となるケースも存在します。