気温は地形や地理的な条件によって大きく変化し、例えば同じ高さ(標高)であっても、内陸部と海沿い(沿岸部)では気温が全く違うケースもあります。
こちらでは「海沿いの地域」にテーマを絞って、その「気温の特徴」を見ていきます。
海水温の影響
海沿いの気温は、海の上から風が直接吹いてきやすい場所では、海の温度である「海水温」の影響を強く受けることになります。
下記の表は、よくある「夏の暑い日」に、昼間と朝晩に見られる気温のイメージを示したものです。
海水温 | 沿岸部の気温 | 内陸部の気温 | |
---|---|---|---|
昼間 | 27〜30℃ | 30〜33℃ | 33〜38℃ |
朝晩 | 27〜30℃ | 25〜28℃ | 20〜25℃ |
上記はあくまでもイメージであり、必ずしもこの温度になるとは限りません。
海水温は、昼間も朝晩もほとんど違いはありません。
一方で、陸地は内陸部ほど気温差が大きくなり、場所によっては1日の気温差が10℃以上となる場合もあります。
沿岸部については、その地域ごとの状況に応じ様々ですが、海の影響を受けやすい場所ほど昼間と朝晩の気温差が小さくなります。
海陸風の影響
沿岸部の気温は、「海陸風」と呼ばれる海〜陸の間を吹く局地的な風の影響が大きくなっています。
風の種類 | 仕組み・時間帯 |
---|---|
海風 | ・昼間に気温が高い内陸側に向けて、気温が低い海上から吹き込む弱い風 ・内陸側で気温が高くなり「上昇気流」が発生する結果、空気を補う形で流れ込む ・沿岸部の気温上昇を抑える効果を持つ |
陸風 | ・夜間に気温が高い海上に向けて、気温が低い内陸側から吹き込む弱い風 ・海上側で気温が高くなり「上昇気流」が発生する結果、空気を補う形で流れ込む ・沿岸部の気温をやや下げる効果を持つ(但し、海の影響で気温は内陸よりは高くなる) |
大まかに言えば、昼間の沿岸部は海からの比較的気温が低い風が流れ込み、夜間の沿岸部は内陸側からの比較的気温が低い風が流れ込み、いずれにせよ気温上昇が抑えられることになります。なお、夜の気温は内陸側から風が入る場合でも、内陸自体と比べれば基本的に高くなりやすいため、一気に気温が下がるとは言えません。
加えて、海陸風は「弱い」ため、その他の要因でより強い風が吹いている場合は、そちらの影響が主に見られるようになります。
海霧や低い雲の影響
この他には、海沿いの地域の一部については、比較的低い海水温のエリアを、湿った風が吹くことで霧や低い雲が発生し、沿岸周辺を長時間覆うことがあります。
霧・雲に覆われる状況では、晴れる時と比べて気温上昇の度合いは大幅に抑えられ、夏であっても25℃を上回らない、場合によっては20℃を下回るような低めの気温となるケースがあります。
但し、このようなケースは日本海側や本州の南側・南西諸島では基本的に見られるものではないため、北日本・東日本の一部地域特有の現象(とりわけ北海道道東)となっています。
海沿いの地域は「涼しい傾向」
海水温によって影響を受ける沿岸部は、端的に言えば「涼しい傾向」が見られます。
この「涼しさ」は、基本的に朝晩ではなく「昼間」のもので、例えば内陸部・平野部では最高気温35℃以上の猛暑日が当たり前であっても、沿岸部では猛暑日は少ない場合があります。
太平洋側の地域で、比較的涼しい傾向がある海沿いの観測地点の気温(8月の平年最高気温)を見ると、東京・大阪と比べ明らかに低めです。
地点 | 8月の平年最高気温 |
---|---|
銚子 | 28.6℃ |
勝浦 | 29.0℃ |
網代 | 30.2℃ |
御前崎 | 29.8℃ |
潮岬 | 29.8℃ |
東京 | 31.3℃ |
大阪 | 33.7℃ |
但し、気温の数字では「涼しげ」であっても、空気は海の影響でかなり「湿気」を含んでいます。
熱中症のリスクは気温の高さだけではなく、湿度の高さも大きく関係していますので、一概に海沿いで気温がやや低いから「暑くない・安全」という意味ではありません。その点は十分にご注意ください。
海沿いの地域は「冷え込みにくい傾向」
海水温によって影響を受ける沿岸部は、端的に言えば「冷え込みにくい傾向」が見られます。海に面した観測地点では、氷点下の気温は観測されにくく、1月の最低気温平均も東京と比べ高めです。
地点 | 1月の平年最低気温 |
---|---|
銚子 | 2.9℃ |
勝浦 | 2.9℃ |
網代 | 3.9℃ |
御前崎 | 3.3℃ |
潮岬 | 5.2℃ |
東京 | 1.2℃ |
冷え込みが弱まるのは「海のすぐ近く」の観測地点の場合がほとんどで、海から離れるにつれ、冷え込みは急激に強まる場合が多くなります。
なお、冬場は「ヒートアイランド現象」に伴い都市部の最低気温が特に高く出やすい傾向もあります。加えて、季節風が弱まるようなタイミングでは、先述した「海陸風」の影響で、内陸側から冷たい空気が入りやすい場合もあります。
海沿いと比較し、都市部の方が気温が高くなるケースもあるため、一概に海沿いだけが温暖とは言い切れません。
例外もあり(フェーン現象による猛暑)
海沿いは比較的夏に涼しい傾向があるという特徴は、全ての地域・気象条件で当てはまるものではありません。
最も明らかなケースは「フェーン現象」による「日本海側の猛暑」です。
フェーン現象は、端的に言えば日本海側の地域などに温度が高い「南風(状況により東風の場合も)」が山を越えて吹き下ろす現象です。ケースとしては以下のような気圧配置で生じやすくなっています。
・台風や低気圧が日本海や西日本付近などを通るケース(日本海側に周辺を吹き込む南寄りの風が吹き込む)
・太平洋高気圧が北に偏って張り出すような場合(日本海側に南風をしっかり吹かせるパターンとなる)
この風は、湿った空気を伴って太平洋側・日本海側を隔てる山地を上り、山を越えた後は「乾いた熱風」として日本海側の各地へ吹き下ろします。
気温の上がり方は内陸部のみならず、沿岸部でも極端なものとなる場合があり、最高気温35℃以上の猛暑日、場合によっては40℃程度の極端な暑さも見られます。
こういった現象は太平洋側の沿岸部では基本的にほぼ生じませんが、日本海側では「よくある現象」ですので、同じ沿岸部・海沿いであっても、地域によっては猛暑になりやすいケースがある点に注意が必要です。