温暖化・気候変動の時代と言われる中では、日本らしい「四季」の変化が失われつつあり、「二季」の変化になりつつある。といった状況が指摘されることがあります。
そのような議論においては、「春」と「秋」が消えており、「夏」と「冬」だけになっているとされることが多いですが、こういった議論は実際の所は適切なものなのでしょうか?
こちらでは、気象データなどを確認しながら、「四季」が「二季」になるということが事実なのか?をシンプルに考察していきたいと思います。
長くなっている「夏」
季節の変化がおかしくなってきている。という認識は、体感的には「春と秋の消滅」としてイメージされることが多いですが、実際の状況として見た場合、単純に「夏」が長くなっているという状態として捉えることも可能です。
夏の気温。というのが、どの程度の気温を指すのかは、必ずしも明確な「基準」がないため一概には言えませんが、一般論として1日の最高気温が30℃前後〜の状態であれば、エアコンを一般的に使用しやすい環境ですので、ひとまずその気温を「夏らしい気温」として考えてみた場合、その基準を超える日数は古い時代と比べると明らかに増加しています。
近年は6月・9月の猛暑日や、5月・10月の真夏日といったケースも一般的に見られますので、夏らしさは7・8月だけの要素ではなくなっています。
もっとも、日本は「都市人口」の比率が高い国です。首都圏・京阪神をはじめ大都市圏は、地球温暖化のみならず、特に朝の最低気温(熱帯夜の増加)は都市化による「ヒートアイランド現象」でより気温が大幅に高くなっている側面があります。同じ日本国内でも、都市部とそうでない地域では、季節に関する体感が大きく違う場合があるため、その点は注意が必要です。
1ヶ月早まった?春
季節が「2季化」すると言われる中では、冬から夏までの期間が短くなり「春らしさが感じられない」とされることもあります。
一方で、気温のデータで見ていくと、春は消えたというよりは「より早まった」という認識が無難であるようにも思われます。
上記のデータは気象庁による3月の平均気温の変化を示したものです。
近年は3月の気温が異常に上昇しており、このような傾向は他の月では見られません。気温上昇の度合いは昭和の時期の寒い3月と、近年の3月では5℃程度に達している場合すらあり、5℃の気温差となると、季節が1つ違う段階にあると言わざるを得ません。
かつての3月は、平成の半ば頃までは、西日本などでも雪が降る機会があるような季節であり、春の入り口とは言え、冬の名残りが色濃く見られる月でした。しかしながら、近年は異常な気温上昇により、東日本や北日本ですら3月の雪が大幅に減り、2月までの「冬」と3月以降の「春」が明確に区切られるような状況が増え、冬の名残りとしての性質が極端に失われてきています。
3月だけが異常に気温が上がる傾向にある点が、温暖な季節への変化を強く印象付け、実際には4〜5月にかけて「春らしい陽気」が存在する場合でも、「冬からすぐに夏になる」イメージを強めている可能性があります。
秋が短いのは「11月と12月の気温差」が要因か?
近年は「秋が短い」と言われることが、1年の季節変化の中でも特に増えているように思われます。
この「秋の短さ」は、データから見た場合、「11月までの気温」の大幅な上昇と、「12月の気温」の変化の小ささが影響していると考えられます。
古い時代からの「平均気温」の変化を見ると、秋の中でも特に11月は、以前と比べ高温傾向が強まっており、肌寒い日となる頻度が減っています。一方で、冬に入った12月の気温を見ると、古い時代と近年の気温差が、それほど大きくありません。例えば、近年の日本海側では「1年で最も雪が多い」月が12月であるケースも多いように、12月は意外なほどに「冬らしい季節」となっている場合があるのです。
すなわち、温暖化する11月と、言うほど温暖化していない12月の気温差が、以前と比べ拡大しているため、その気温の落差が「秋が短い」イメージを強めていると推定されるのです。
もっとも、12月の気温がそれほど上がっていない状況は、あくまでも令和に入ってからしばらくまでの期間、現時点(当記事の内容は2023年時点)の平均的な傾向です。仮に今後12月の気温も大幅に上がっていく場合、「秋が短い」体感が「冬も短い」に変化することも考えられます。
冬は温暖化しても寒く感じやすい
冬の季節については、季節がおかしくなってきている。といった議論の中では「冬がなくなる」といった言われ方は余り見られません。
これは、体感的な問題であり、実際には温暖化していたとしても、冬は相応に肌寒さがあるため、暖冬であっても「冬」であると体感しやすいことも一つの要因と言えます。
少なくとも現時点においては、どんなに極端な暖冬であっても、暖房を全く使わずにずっと過ごせるような環境は、南西諸島など一部を除き、ほぼありません。
冬がいくら温暖化していても、例えば関東平野のように、一部の地域を除いては霜や氷がごく一般的に見られるような寒さとなることはありますので、結果として「気温が上がっても寒い」と体感されます。
しかし、実際のところは、昭和の「寒い時代」と比べれば、冬の気温もかなり上昇傾向にあることも間違いありません。ある平均気温(例えば東京・大阪の1週間あたりの平均気温が8℃未満など)を基準にして「冬の期間」を考えた場合は、平均すれば過去と比べ冬の長さは短くなっていると言うことも可能です。
なお、近年の「大暖冬」では、北陸・新潟などの豪雪地でも、平地ではほとんど雪が積もらないような年が見られ、冬らしさに乏しいケースが見られます。その点では、冬らしさの減少は、日本海側では印象付けられやすいかもしれませんが、雪がそもそも降りにくい太平洋側などでイメージされにくく、体感的な地域差が大きくなっている可能性もあります。
統計と体感は異なる?
気温の状況は、同じ基準で見ることが出来る「統計」データと、個々人やその時々の環境によって認識が変化しやすい「体感」による感覚的な把握では、状況が大きく異なる場合があります。
データで見ていく限り、現状の季節の変化は完全に「二季」化しているというよりは、「夏が長くなっている(それ以外の季節がやや短くなっている)」・「秋から冬、冬から春の境目がよりはっきりしている」・「各季節の雰囲気を感じる時期が変化している」状況と見る方が適切ですが、それを体感で表すと、「春と秋がなくなっている」と感じられる場合があります。
温暖化により、実際に気候は大きく変動しつつあります。先述の通り、3月の気温はどちらかと言えば「冬らしさ」が目立った過去の時代と比べ、「春そのもの」と言えるくらいに上昇してきた傾向があるなど、時期によっては過去の時代とは全く異なる気候となっている場合もあります。
各季節が一応「ある」としても、その季節の「らしさ」を体感する時期・タイミングが以前と比べずれてきている場合・急に変化しやすい場合、長く同じ場所で生活してこられた方ほど「季節がおかしい=季節がなくなった」というイメージを持ちやすい傾向があると言えるでしょう。