海洋熱波とはどのような現象?日本における状況などを解説

自然・気候

地球温暖化による様々な影響が顕在化している現在、地球規模の大きな現象の1つとして「海洋熱波」と呼ばれる現象がクローズアップされる機会が増えています。

海洋熱波とは、その名の通り地上ではなく「海洋」における「熱波」であり、端的に言えば海水温が異常に上昇する現象を指すものです。

こちらでは、海洋熱波と呼ばれる現象に関するごく基本的な知識について、その影響・日本付近における状況などをまとめていきます。

情報は2023年時点の基本的な内容です。状況がその後変化する場合も考えられますので、あらかじめご留意下さい。また、一部解釈には幅がある点も含まれる点をご了承下さい。

海洋熱波の定義

海洋熱波と呼ばれる現象は、大まかな定義としては「数日」から「数年」単位海水温が過去の温度と比べ異常に上昇する現象を指すものです。

具体的な判断基準は、公式的なものがあるとは言えませんが、一般的に多く設定されている基準としては、「統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合」というものがあります。

期間の定義は上記のようにかなり幅広く、数日単位の温度上昇であっても、数年単位の温度上昇であっても「海洋熱波」という表現で示されます。

また、統計的に10%以下とは、例えば各日の海水温平均を1000日分並べた時に、高い方から上位100日分のデータに当てはまる日を指すものです。

気象庁が「海洋熱波」という現象を「公式用語」として定めている訳ではありませんが、温暖化問題に関する政府間機構である「IPCC」においては、上記のような定義で示されており、国際的に大きな問題として認知されています。

海洋熱波については、海面付近すぐの場所の温度だけではなく、水深100m程度など少し下がった場所においても観測される場合があり、海面付近とはまた異なった温度環境となっている場合もあります。

なお、極端に海水温が低い場合は「海洋寒波」と呼ばれることもあります。但し、近年は海水温の高さの方が強く目立つため、「寒波」の方が強調されるケースは少なくなっています。

海洋熱波の要因

大きなスケールテレコネクションによる影響
地球温暖化による影響
長期的、周期的な変動による影響
局地的な海流の状況・海流が強まって暖かい海水が流入しやすくなる
・海流が弱まって海面付近の温度が上昇しやすくなる
局地的な大気の状況・特定の地域で異常な高温となり、海面付近の温度が上昇する

海洋熱波は近年急増していますが、その要因は決して単純なものではありません。

あるエリアでの海水温上昇は、海流の動きや周辺の高温などが直接的な要因となっている場合が多いですが、そのような環境の変化自体は、「その場所」だけで発生した局地的な現象とは言えない場合があります。

具体的には、あるエリアでの「変動」は、かなり離れたエリアでの「変動」と一体的に生じている場合があります。すなわち、あるエリアの海洋熱波と言っても、そのエリアだけではないかなり広い範囲の、かつ長期間に渡る様々な大気・海洋の働きによる複雑な影響を考慮しなければならない場合があります。

そのため、ある地点での海洋熱波の要因を、局地的な特定の要因だけに求めることは必ずしも現実的ではない場合があります。

離れた地域で発生している現象同士が、強いつながりを有している状態を「テレコネクション」と呼びますが、海洋熱波についても比較的多くのケースで、そのようなパターンが影響していると考えられます。

また、より大きなスケールでは「地球温暖化」の影響が海洋熱波の増加に直結していることも間違いありませんが、一方で単なる温暖化以外の要素も関係している可能性も否定できません。地球規模の大気・海の動きには、温暖化とはまた異なる比較的長期間のスパンを持った「周期的変動」が含まれています。

温暖化・周期的変動・その時点における大気や海洋の状態の広いつながり(テレコネクション)・より局地的な現象などが複雑に絡み合った結果、海洋熱波の増加がもたらされており、その構図は理解しづらい点も多いというのが実情と言えるでしょう。

海洋熱波がもたらす影響

環境への影響サンゴの白化や海藻の枯死をはじめ、海中の環境を劇的に変化させる(生態系を消滅させる)
漁業への影響・漁獲量の増減、魚種が変化するなど様々な状況が発生する可能性(一般論)
・但し、温暖化による地球全体の「海水温上昇」傾向と局地的な「海洋熱波」の違いを考慮する必要性あり
気温の上昇・沿岸部など海水温の影響を受けやすい場所を中心に高温傾向
降水量の増加、または乾燥を引き起こす場合も

海洋熱波は、「海水温」が異常に上昇することですが、その影響は海中の環境を劇的に変化させ、サンゴ礁といった既存の生態系を破壊するなど、非常にシビアな形で生じる場合があります。

また、一般に漁業への影響も大きいとされ、漁獲量の増減や魚種の変化などの影響をもたらす可能性があるとされています。但し、漁業面での影響については、局地的・一定期間の現象として生じる海洋熱波だけが問題とは言えず、そもそも「地球全体の平均海水温が上昇している」影響による変化など、様々な要因を考慮しなければならないため、海洋熱波が必ず漁業に関する環境の変化を引き起こしているとは断定できない側面があると言えます。

気象の面では、気温の高さが海水温の高さに、逆に海水温の高さが気温の高さにつながる側面があるため、一概に断定は出来ませんが、一般論として沿岸部を中心とした気温の上昇につながる場合があります。また、海水温の大きな変化は天気の傾向自体を大きく変化させる可能性があるため、降水量を増加させたり、逆に乾燥した気候をもたらしたりする場合も考えられます。

日本周辺における海洋熱波

世界各地で発生することがある海洋熱波は、日本周辺でも生じる場合があります。

エリアとしては、日本近海の全てのエリアで海洋熱波が発生する可能性があり、過去に数多く発生の事例が見られます。

出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/sst_HQ.html) 2023年7月27日の海面水温)
出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/sst_HQ.html) 2023年8月27日の海面水温)

上記の画像は、その定義から見た場合「記録的な海洋熱波」と言ってよい状況が生じていると考えられる、2023年7月下旬・8月下旬の日の日本付近の海面水温図(気象庁)です。

海面水温は北海道の南側・東北の東側の太平洋上で平年より5℃以上高い領域が比較的広い範囲で見られます。なお、1ヶ月間経過しても同じような状況になっている点からも分かる通り、このエリアで海水温が非常に高い状態は、1日単位ではなく比較的長期間に渡り継続して観測されています。

海水温の状況が「気温」にも影響を及ぼしやすい沿岸部では、海洋熱波は記録的な高温をもたらす要因にもなっていると考えられ、この時期の根室・釧路など沿岸部各地の平均気温は、過去の最高記録を大幅に上回る「観測史上最高」の気温となりました。

海洋熱波の発生は、各地での漁獲状況の変化(北海道周辺で本来より南側で多く穫れる魚種が増えるなど)、気象状況の変化(沿岸部の高温・冬型の気圧配置の際における雲の発達)を招くなど、日本周辺の環境にも大きな影響を及ぼす存在として、注視していく必要があります。

大雪をもたらす海洋熱波?

熱波というと、「夏」をイメージしがちですが、「海洋熱波」は通常よりも海水温が大幅に高い状況を示すものであり、季節を問わず発生します。

近年は全体的には「暖冬傾向」でありながら、あるタイミングで極端な「ドカ雪・豪雪」になるケースが少なくありませんが、そういったケースでは日本海の海水温がかなり高くなっている場合が多く見られます。

海水温が非常に高い場所に「強い寒気」が入ると、大きな気温差により大量の水蒸気が発生し、強い上昇気流によって通常よりも雪雲が発達しやすくなり、大雪をもたらす場合があります。

気温の高さは雪の少なさに直結しますが、海水温の高さは状況次第では雪の多さに結びつくケースがあるため注意が必要です。

まとめ

海洋熱波とは、「数日」から「数年」単位で海水温が過去の温度と比べ異常に上昇する現象で、具体的には過去のデータのうち「上位10%」の高さにあてはまるケースを指します。

発生する要因は複雑で、海流の変化・大気の温度などの影響を受けますが、それらは「その場所だけ」で生じる現象とは限らず、地球規模の広い範囲の海洋・気候の変動が関連し合う形となっている場合があります。

海洋熱波は、サンゴや海藻類の消滅などの環境面の変化、気象状況の変化など、極めて大きな影響を及ぼす存在です。また、漁業に関する大きな影響も懸念されています。

日本周辺の海域でも海洋熱波の発生が見られます。日本海上などで発生する場合、冬場の「ドカ雪」の要因となっているケースも推定されるなど、「熱波」のイメージだけではなく、季節を問わず影響を及ぼす存在である点に留意が必要です。