地球温暖化による様々な影響が顕在化している現在、地球規模の大きな現象の1つとして「海洋熱波」と呼ばれる現象がクローズアップされる機会が増えています。
海洋熱波とは、その名の通り地上ではなく「海洋」における「熱波」であり、端的に言えば海水温が異常に上昇する現象を指すものです。
こちらでは、海洋熱波と呼ばれる現象に関するごく基本的な知識について、その影響・日本付近における状況などをまとめていきます。
海洋熱波の定義
期間の定義は上記のようにかなり幅広く、数日単位の温度上昇であっても、数年単位の温度上昇であっても「海洋熱波」という表現で示されます。
また、統計的に10%以下とは、例えば各日の海水温平均を1000日分並べた時に、高い方から上位100日分のデータに当てはまる日を指すものです。
海洋熱波については、海面付近すぐの場所の温度だけではなく、水深100m程度など少し下がった場所においても観測される場合があり、海面付近とはまた異なった温度環境となっている場合もあります。
なお、極端に海水温が低い場合は「海洋寒波」と呼ばれることもあります。但し、近年は海水温の高さの方が強く目立つため、「寒波」の方が強調されるケースは少なくなっています。
海洋熱波の要因
大きなスケール | ・テレコネクションによる影響 ・地球温暖化による影響 ・長期的、周期的な変動による影響 |
局地的な海流の状況 | ・海流が強まって暖かい海水が流入しやすくなる ・海流が弱まって海面付近の温度が上昇しやすくなる |
局地的な大気の状況 | ・特定の地域で異常な高温となり、海面付近の温度が上昇する |
海洋熱波は近年急増していますが、その要因は決して単純なものではありません。
あるエリアでの海水温上昇は、海流の動きや周辺の高温などが直接的な要因となっている場合が多いですが、そのような環境の変化自体は、「その場所」だけで発生した局地的な現象とは言えない場合があります。
そのため、ある地点での海洋熱波の要因を、局地的な特定の要因だけに求めることは必ずしも現実的ではない場合があります。
また、より大きなスケールでは「地球温暖化」の影響が海洋熱波の増加に直結していることも間違いありませんが、一方で単なる温暖化以外の要素も関係している可能性も否定できません。地球規模の大気・海の動きには、温暖化とはまた異なる比較的長期間のスパンを持った「周期的変動」が含まれています。
温暖化・周期的変動・その時点における大気や海洋の状態の広いつながり(テレコネクション)・より局地的な現象などが複雑に絡み合った結果、海洋熱波の増加がもたらされており、その構図は理解しづらい点も多いというのが実情と言えるでしょう。
海洋熱波がもたらす影響
環境への影響 | ・サンゴの白化や海藻の枯死をはじめ、海中の環境を劇的に変化させる(生態系を消滅させる) |
漁業への影響 | ・漁獲量の増減、魚種が変化するなど様々な状況が発生する可能性(一般論) ・但し、温暖化による地球全体の「海水温上昇」傾向と局地的な「海洋熱波」の違いを考慮する必要性あり |
気温の上昇 | ・沿岸部など海水温の影響を受けやすい場所を中心に高温傾向に ・降水量の増加、または乾燥を引き起こす場合も |
海洋熱波は、「海水温」が異常に上昇することですが、その影響は海中の環境を劇的に変化させ、サンゴ礁といった既存の生態系を破壊するなど、非常にシビアな形で生じる場合があります。
また、一般に漁業への影響も大きいとされ、漁獲量の増減や魚種の変化などの影響をもたらす可能性があるとされています。但し、漁業面での影響については、局地的・一定期間の現象として生じる海洋熱波だけが問題とは言えず、そもそも「地球全体の平均海水温が上昇している」影響による変化など、様々な要因を考慮しなければならないため、海洋熱波が必ず漁業に関する環境の変化を引き起こしているとは断定できない側面があると言えます。
気象の面では、気温の高さが海水温の高さに、逆に海水温の高さが気温の高さにつながる側面があるため、一概に断定は出来ませんが、一般論として沿岸部を中心とした気温の上昇につながる場合があります。また、海水温の大きな変化は天気の傾向自体を大きく変化させる可能性があるため、降水量を増加させたり、逆に乾燥した気候をもたらしたりする場合も考えられます。
日本周辺における海洋熱波
エリアとしては、日本近海の全てのエリアで海洋熱波が発生する可能性があり、過去に数多く発生の事例が見られます。
上記の画像は、その定義から見た場合「記録的な海洋熱波」と言ってよい状況が生じていると考えられる、2023年7月下旬・8月下旬の日の日本付近の海面水温図(気象庁)です。
海面水温は北海道の南側・東北の東側の太平洋上で平年より5℃以上高い領域が比較的広い範囲で見られます。なお、1ヶ月間経過しても同じような状況になっている点からも分かる通り、このエリアで海水温が非常に高い状態は、1日単位ではなく比較的長期間に渡り継続して観測されています。
海水温の状況が「気温」にも影響を及ぼしやすい沿岸部では、海洋熱波は記録的な高温をもたらす要因にもなっていると考えられ、この時期の根室・釧路など沿岸部各地の平均気温は、過去の最高記録を大幅に上回る「観測史上最高」の気温となりました。
海洋熱波の発生は、各地での漁獲状況の変化(北海道周辺で本来より南側で多く穫れる魚種が増えるなど)、気象状況の変化(沿岸部の高温・冬型の気圧配置の際における雲の発達)を招くなど、日本周辺の環境にも大きな影響を及ぼす存在として、注視していく必要があります。