3月だけ温暖化が激しいというのは本当?

自然・気候

1年間の気温を見ていくと、当然のことながら季節・月により気温が大きく変化します。一方で、近年著しいとされる「温暖化」の状況として見ていくと、月ごとの気温の動きは、必ずしも全て同じとは言い切れない特徴も見えてきます。

こちらでは、温暖化する気温について「日本の3月の気温」というテーマに絞って考えていきたいと思います。

掲載情報は、2023年初頭の時点におけるものです。その後状況が変化していく可能性などもありますので、その点はご留意下さい。

3月の気温はどう変化している?

気象庁の観測データによる
3月の平均気温偏差
1898年-2.84
1899年-0.63
1900年-2.24
1901年-1.73
1902年-0.19
1903年+0.55
1904年-1.37
1905年-1.74
1906年-1.51
1907年-1.85
1908年-1.93
1909年-2.31
1910年-2.41
1911年-0.59
1912年-0.68
1913年-2.59
1914年+0.65
1915年-2.18
1916年-2.71
1917年-2.1
1918年-1.57
1919年-0.35
1920年-0.89
1921年-2.27
1922年-1.83
1923年-0.35
1924年-3.71
1925年-2.69
1926年-1.82
1927年-1.86
1928年-1.38
1929年-1.83
1930年+0.21
1931年-0.95
1932年-2.05
1933年-2.77
1934年-2.4
1935年-0.82
1936年-3.23
1937年-0.95
1938年-0.1
1939年-1.54
1940年-1.37
1941年-0.63
1942年+0.75
1943年-1.72
1944年-2.47
1945年-1.99
1946年-2.03
1947年-2.54
1948年-1.4
1949年-2.33
1950年-1.07
1951年-1.21
1952年-1.33
1953年-0.09
1954年-1.1
1955年+0.09
1956年-0.73
1957年-2.52
1958年-0.89
1959年+0.43
1960年+0.23
1961年-0.59
1962年-1.19
1963年-1.29
1964年-1.27
1965年-2.48
1966年+0.26
1967年-0.45
1968年-0.33
1969年-1.81
1970年-3.72
1971年-1.49
1972年-0.39
1973年-1.51
1974年-1.78
1975年-1.38
1976年-0.85
1977年-0.49
1978年-1.29
1979年-0.62
1980年-0.89
1981年-0.89
1982年+0.04
1983年-1.01
1984年-3.25
1985年-0.64
1986年-1.6
1987年-0.45
1988年-1.11
1989年+0.15
1990年+0.71
1991年+0.2
1992年+0.39
1993年-0.9
1994年-1.5
1995年-0.4
1996年-0.78
1997年+0.31
1998年+0.52
1999年+0.39
2000年-0.85
2001年-0.57
2002年+1.49
2003年-1
2004年-0.07
2005年-1.14
2006年-0.53
2007年+0.13
2008年+0.62
2009年+0.37
2010年-0.15
2011年-1.64
2012年-0.49
2013年+0.75
2014年-0.11
2015年+0.73
2016年+0.73
2017年-0.52
2018年+1.44
2019年+0.94
2020年+1.61
2021年+2.38
2022年+1.31
2023年+2.75
気象庁の観測データによる
単位は℃

上記は、1991年〜2020年の平均気温に対し、これまでの日本の3月の気温がどのように変化しているのか(差がどうなっているのか)を示したグラフです。

状況は一目瞭然で、平成に入るまでは平均よりマイナスの年がほとんどで、平成以降も2017年頃まではそれほど極端な上昇傾向は見られない状況でしたが、2018年以降に急速に3月の平均気温が上がっています。

上記のデータは2023年までのものですので、その後の状況がどのように変化するのかまでははっきりしませんが、2018年〜2023年までの6年間に渡り、それまでの時代とは比較にならない水準の「高温」が継続しているデータは、かなり異常な、異質なものと言えます。

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20世紀以降で最も寒かった3月(1970年・偏差-3.72℃)と、最も暖かかった3月(2023年・偏差+2.75℃)では、その差はなんと約6.5℃に達しています。

年間平均気温の変化・3月平均気温の変化を比較

気象庁の観測データによる・単位は℃

上記は、3月の平均気温偏差のデータを、「年間平均気温」の偏差(1991年〜2020年の平均との差)と合わせて見た場合のグラフです。

近年の3月の気温上昇は、年間平均気温の上昇ペースと比べ明らかに大きく、3月の温暖化傾向が特に強いことがわかります。

一方で、過去のデータを見ると、概ね1970年代頃までは、年間平均気温の偏差よりも3月の平均気温の偏差の方がより「低い」方へ振れており、かつては3月が「寒かった」ということがわかります。

すなわち、3月の気温は平均的な動きよりも低めの傾向があった所から、逆にかなり高めの傾向へと変化していっており、1年の他の時期と比べ、過去との気温差が非常に大きい特徴を持っています。

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年間平均気温は、100年でトレンド(平均的な変化)としては「1.3℃」程度の上昇方向への動きですが、3月の平均気温は「1.9℃」程度とより大きな動きとなっています。また、この「トレンド(平均的な変化)」は近年の気温急上昇を反映しきれていないため、実際の体感的な3月の温暖化度合いは、2018年以降極端なものとなっています。

寒い時期では「12月」との違いが明瞭

気象庁の観測データによる・単位は℃

比較的「寒い時期」の中で比較する場合、特に3月の気温との違いが大きいのは「12月」の気温です。

同様に平均気温の偏差を見ていくと、12月の平均気温は、2023年時点では概ね過去30年少々に渡り、極端な上昇傾向と言えるようなものは観察されていません(今後状況が異なっていく可能性は否定できません)。

一方で、より古い時代を見ると、かなり多くの年で12月の平均気温偏差よりも3月の方がより「低め」となっています。

温暖化していると言っても、月によってその実態はかなり異なる側面も見えてきます。

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12月の平均気温の上昇は、100年間のトレンド(平均的な変化)では0.95℃と、1年間の中で最も上昇レベルが低くなっています(それ以外は全て1℃以上・2023年時点のデータによる)。

一気に消えた・減った3月の「雪」

気象庁の観測データによる・単位はセンチ

3月の急速な気温上昇傾向は、3月に降る雪の量も急減させています。

日本における「平地」の代表的な「雪国」である上越市の「高田」の降雪量について、12月と3月のそれぞれのデータを21世紀以降で比較してみると、3月の雪の量が近年急減している状況がわかります(2022年までのデータ・その後の状況は反映されていません)。

一方で、12月については雪が増えているとは言えないものの、3月の状況と比べるとその変化の傾向は読み取りにくく、近年も含めしっかり降っている場合があります。

雪については、気温がより低い北海道内なども含め近年は3月の降雪量が減っており、これは寒気の流れ込み自体が減ったことで、雪雲の影響を受ける頻度自体が少なくなった結果であると推定されます。

気温も上がり、雪も減ったことで「体感的な冬の期間」が短くなってきている状況がはっきりしています。

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2018年冬以降、2023年冬までの時点で高田では3月に「10cm以上」の降雪量を一度も観測していません。新たに積もってもわずかな程度に留まっており、3月に雪がある場合、ほとんどは2月までに積もった「根雪」が解けずに残っている状態となっています。

どうして3月は特に気温が上がっているの?

全体的に温暖化傾向にある中で、特に3月の気温の上がり方が突出している状況については、その「要因」ははっきりしたことは断定出来ません

日本の気候、より大きく言えば地球の気候というものは、もちろん現在「地球温暖化」と呼ばれている現象による影響も大きく受けますが、気候を変化させる要因は、何らかの周期的なもの・突発的に生じるもの、間接的なものも含め、温暖化以外も含めた様々な要素が重なり合った結果でもあり、一概に「〜だから」と言い切れない側面があります。

そのため、3月の強い気温上昇傾向が、「温暖化メカニズム」の中だけで説明出来る現象なのか、それともそれ以外の何らかの要因が重なり合った結果なのかも含め、状況は定かではありません。

例えば、「3月の気温上昇」とはどちらかと言えば反対の内容になりますが、過去の平均気温は、大きくは上昇傾向にある中でも、1940〜80年頃にかけて一時低下・停滞したり、2000年〜2010年頃にかけても上昇が停滞した時期があり、これは太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation: PDO)と呼ばれる海洋の変動に関わる現象と関連が指摘されています。

すなわち、温暖化傾向は単なる「一直線」なのではなく、異なる要因が挟まれることによって、それが抑制されたり、逆に促進されたりしている可能性も含め議論・検討がなされる必要があるのです。

まとめ

Q
3月だけ気温が特に上がっているって本当?
A

2023年時点のデータで見る限り、近年は他の月と比べ「3月」の気温上昇傾向が極端に目立ちます。

年間平均気温の上昇度合いと比べても明らかに3月はハイペースであるほか、一例として寒い時期での比較でみた場合、12月の気温がそれほど上がっていない状況と比べると、3月は全く違う状況が見られます。

Q
3月の気温が急上昇している要因は?
A

はっきりしたことは言えない状況です。

一般論として、温暖化が進んでいる中においても、気候変動は温暖化以外の部分も含め様々な地球規模の大気・海洋の状況により左右される場合があります。そのため、この3月の気温上昇も、単なる温暖化によるものなのか、何らかの要因が追加された結果なのかも含め、断定的なことは述べにくいと言えます。