どうして春先に「花粉」が飛ぶの?気象面から考える【気温】

自然・気候

春の時期は、日本に住む人のうち相応の割合がアレルギー反応に伴う「花粉症」に悩まされる時期でもあります。

花粉症については、花粉が飛散する量や花粉症に関する医学的な内容に関しては、様々な場面で解説がなされており、毎日のようにテレビなどで目にすることもあります。

こちらでは、春に花粉が多く飛ぶ状況について「気象(気温や天気)」という側面から見ていきます。解説する内容はごく一般的な知識であり、マニアックな内容は含んでおりません。

掲載情報は一般的な議論によるものです。個別具体的な事例では、例外的なケースが生じる場合も考えられますので、その点はあらかじめご留意下さい。

春の気温上昇でスギ・ヒノキの花などが開花

花粉症というと、多くの方にとっては「春」に発生する困った症状としてイメージされる場合が多いと言えます。

春に花粉が多く飛ぶ要因は、気温が上がり植物の成長が始まる一般的なタイミングであることに由来します。

具体的にはそのタイミングで日本国内の山林に特に多く植えられている「スギ(杉)」・「ヒノキ(檜)」の花が開花し、花粉が大量に飛んでしまうため、花粉症に悩む方が多くなるという状況です。

春に近づき、春に入っていくに連れて梅が咲き、桜も咲き、チューリップも咲き、最終的には新緑に覆われる時期となりますが、スギ・ヒノキも同様に花を咲かせます。スギに関しては桜が咲かないような時期(2月の後半など)から大量の花粉を飛散させ、3月は本州の多くでピークを迎えます。次いでヒノキが主に4月以降などに花粉を飛散させます。

なお、植物には様々なものがあります。花が咲き花粉が大気中に飛散するのは、何も春だけに発生している訳ではありません。個人によって花粉アレルギーは様々であり、最も多い事例が春のスギ・ヒノキとなっていますが、秋を中心とした「ブタクサ花粉」による花粉症なども比較的一般的な存在です。

気温上昇は「上昇気流」を引き起こす

春の気温上昇は、花を開花させ花粉を飛散させる要因となりますが、気温が上がると飛んだ花粉がより「飛びやすい」気象状況を生み出します。

地上付近の空気が暖められると上へ上がります。よく聞く「上昇気流」です。
花粉が飛散する際に、上昇気流に乗って高い所へ飛ばされれば、「より遠くまで」花粉が飛びやすくなります。

花粉が大量に飛んでいる日は、たいてい春先以降の「ポカポカ陽気」の日が多く、最高気温が15℃以上、20℃以上といった日が目立ちます。

風が強まると花粉は飛びやすい

花粉の飛散は、気温上昇も非常に重要ですが、風が吹いていることも1つの要素です。

強風が吹けば、木が揺らされて花粉がどんどん飛散します。また、上昇気流で巻き上げられた花粉が、山の周囲だけではなく都市部など遠くへも流れやすくなります。

もちろん、「風」といっても様々です。気圧配置によって暖かい「南寄りの風」が吹くこともあれば、冷たい「北寄りの風」となるケースもあり、気温の状況などに応じ、同じ風の強さでも花粉の飛散度合いは異なる場合があります。

基本的には、気温が上がった晴れの日で、かつ南寄りなどの風が比較的強く吹いている日に、花粉が最も多く飛びやすい傾向があると言えるでしょう。

雨の日は花粉が抑制される一方…

花粉は「シーズン」であれば、いつでも大量に花粉が飛ぶとは限りません。

例えば、一般的に知られている通り、天気が悪い日(雨の日)は花粉の量はぐっと減ることが多くなっています。

雨で花粉が減る要因は、雨で水気を含んだ環境では花粉が飛びにくいことによります。
花粉は基本的に乾燥した状態で空中へ舞い上がるものです。

一方で、雨が降るということは、様々な場所にあった花粉が「洗い流される」ことにもつながります。それが全て流れていってしまえば問題ありませんが、ベランダや車などでよく見られる通り、雨で流された花粉は「一か所」にまとまって「濃縮」されたような状態になることが多く、次の日に晴れて再び乾燥していくと、その花粉が結局は「まき散らされる」結果を招きます。

雨の翌日はスギやヒノキの木からも大量の花粉が飛散しやすく、地面に溜まった花粉と合わせ、むしろ悪影響をもたらすことが多いと言えます。

雨が降ることは、確かに一時的な飛散量の抑制にはつながりますが、全体的に見れば、それほど良い影響ばかりとは言えない存在です。

花粉が飛散しやすい「気圧配置」とは?

出典:気象庁「過去の天気図」(https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/wxchart/quickmonthly.html)

花粉が突出して多く飛ぶ状況は、先述した通り春に気温が上がり、晴れて乾燥していて、強い風が吹いているようなケースです。これを「気圧配置」として見ていくと、「3条件」全てを完全に満たすような気圧配置はそれほど多くありません。

実際には、完全な無風状態はまずありませんので「気温が高い・晴れて乾燥」さえしていれば、花粉は多く飛散することが多く、逆に少し気温が低めでも「強い風」が吹いていればやはり花粉はそれなりに飛散しやすい傾向があります。

花粉がかなり多く飛んでいるケースで、比較的よくある天気図のパターンとしては上記のようなものが挙げられます。

上記の天気図は、日本付近が移動性の「高気圧」に広く覆われ、乾いた空気に包まれ気温が上がりやすい状況となっています。一方で、高気圧の中心は日本の南側にあり、北海道付近などに低気圧があるため、風は南側から北側へ「南寄りの風」として吹いている状況で、「強風」という程ではありませんが、南から暖かい風が吹き込みやすいパターンです。

「冬型の気圧配置」に戻ると飛散が少し減る?

雨や曇りでない場合でも、気温が高くよく晴れる日と比べると花粉の飛散が最も多い日と比べれば少なくなりやすい気圧配置があります。

それは、冬に一般的な「西高東低」の「冬型の気圧配置」です。

冬型の気圧配置は、すなわちシベリア方面からの「寒気」が入り気温が低下するパターンです。気温が低下する分「上昇気流」によって暖かい空気の塊が多くの花粉を運ぶケースは抑えられます。

但し、「冬型の気圧配置」は多くのケースで北寄りの比較的強い風をもたらします。花粉が既に飛んでいるシーズンであれば、強い風で花粉が飛散しやすい傾向に変わりはなく、雨の翌日の場合などは、地上付近の花粉が巻き上げられやすいため、気温が下がったからといって、強風を伴う場合は劇的に花粉の影響が減るとは言えず、状況次第では逆に増える場合もあります。

なお、山の位置と風向きの関係上、南寄りの風が吹いている時と比べ、花粉の影響を受けやすい場所が変わる可能性も否定できません。

花粉光環という現象

花粉の飛散状況は、花粉予報などに桑、ベランダや車などに「積もった」花粉の量などから一般的にも分かる場合がありますが、「空」を見るだけでも分かる場合があります。

それは、「花粉光環(かふんこうかん)」と呼ばれるものです。

これは、大量に飛散した花粉が太陽の光の向きを変え(回折)、その結果として太陽の周囲に虹のような光の環が見えるというものです。

春に空に「飛散する」要素には「霞んだ空」をもたらす「黄砂」や「PM2.5」などの物質もありますが、それらと花粉は太陽の光に与える影響が異なるため、「花粉光環」は、花粉以外の物質が余り空に飛んでいない、比較的澄んだ空気となっている際に見られることが多くなっています。

夏の気候が花粉の量を決める?

花粉が飛びやすい気象条件も重要ですが、そもそもの「花粉自体の量」を決める要素も、また気象に関係しています。

但し、これは花粉が飛ぶ時期の話ではありません。

花粉の量を決定する最大の要因とされているのは「前年夏」の気候です。
具体的には、「日照時間が長い(よく晴れる)」・「気温が高い」・「雨が少ない」といった気候の夏となると、花芽の生育が促進され、翌年春の花粉の量が増えやすいとされています。

逆に言えば、日照時間が短い(晴れにくい)・気温が低い・雨が多い夏、すなわち「冷夏」のケースでは、花粉の量は少な目になりやすいとされています。

ポイント・まとめ

「花粉」による影響は気温上昇によりスギ、ヒノキの花が開花し花粉を大量に飛散させることが大きな要因です。

花粉の飛散を特に増やす条件は気温の高さ・晴れ間(乾燥)・風です。

春に気温が上がると「上昇気流」が生じ、上空に花粉が巻き上げられやすく=遠くまで飛ばされやすくなります。また、強風が吹いているとより飛散しやすくなります。

花粉は乾燥した状態でよく飛散します。逆に雨の日は湿気、水分により花粉の飛散は抑えられます。但し、雨で花粉が流されて1か所に溜まる影響や、その後晴れると反動で大量に飛散する影響もあります。

「冬型の気圧配置」により「寒の戻り」があると、若干花粉が減る場合がありますが、「冬型の気圧配置」は「強風」をもたらすため、減る効果は限定的です。

花粉の多い空では太陽の周囲に虹のような光の環が出来る「花粉光環(かふんこうかん)」と呼ばれる現象が生じるケースがあります。

花粉の量そのものは、前年夏の気候に大きな影響を受けます。
前年夏が「よく晴れる・気温が高い・雨が少ない」気候の場合、翌年春の花粉は増えやすいとされています。