関西には複数の大手私鉄がありますが、各社の「運賃」は様々で、近鉄・南海のようにJR線と同等かそれ以上の運賃額となっている会社もあれば、阪急・阪神のように距離が長い区間を中心に、首都圏の鉄道以上の安さが特徴の会社もあります。
こちらでは、その中でも「阪急電車」の運賃について、「どのくらい安いのか」や「距離が長い区間で安いのはどうしてなのか」といったテーマから解説・考察していきます。
阪急線の運賃はいくら?
関西を代表する私鉄である阪急電車は、その運賃もかなり「安い」特徴を持っています。
運賃の額は、乗車距離に応じて以下の通りとなっています。
キロ程 | 運賃 | 主な区間 |
---|---|---|
1~4km | 170円 | 大阪梅田~十三 |
5~9km | 200円 | 大阪梅田~淡路 |
10~14km | 240円 | 大阪梅田~豊中 |
15~19km | 280円 | 大阪梅田~西宮北口 |
20~26km | 290円 | 大阪梅田~高槻市 |
27~33km | 330円 | 大阪梅田~神戸三宮 大阪梅田~宝塚 |
34~42km | 390円 | 大阪梅田~桂 |
43~51km | 410円 | 大阪梅田〜京都河原町 神戸三宮~高槻市 |
52~60km | 480円 | 京都河原町~西宮北口 |
61~70km | 540円 | 京都河原町~宝塚 |
71~76km | 640円 | 神戸三宮~京都河原町 神戸三宮~嵐山 |
大阪梅田からの場合、神戸・京都までは400円以内でアクセスが可能です。
距離が長いほど安い(神戸~京都間ではかなりの差)
阪急電車の運賃の安さが最も際立つ区間は、比較的長い距離を乗車する場合です。
なお、神戸~京都間については、JRの場合「新快速」が非常に早く、三ノ宮~京都間を50分少々で結んでいる一方、阪急線は「十三駅」で乗り換えが必須かつ所要時間がやや長いという点があるため、必ずしも阪急の利用ばかりが多いという訳ではありません。
「安さ」か「速さ」か、またどこへアクセスしたいのか(河原町なのか京都駅なのか)によって、適宜使い分けて頂くとよいでしょう。
大阪~京都・神戸間でも阪急が安い
神戸~京都間のように特に距離が長い区間のみならず、大阪梅田から京都・神戸方面へご利用頂く場合も、阪急電車が大変安くなっています。
大阪~神戸間 | 運賃 |
---|---|
阪急(大阪梅田駅~神戸三宮駅) | 330円 |
阪神(大阪梅田駅~神戸三宮駅) | 330円 |
JR(大阪駅~三ノ宮駅) | 420円 |
大阪~京都間 | 運賃 |
---|---|
阪急(大阪梅田駅~京都河原町駅) | 390円 |
京阪(淀屋橋駅~祇園四条駅) | 430円 |
JR(大阪駅~京都駅) | 580円 |
神戸へは阪急線がJRより90円、京都へは駅は異なるものの(四条河原町・京都駅)阪急線がJR線よりも190円も安くなっており、安く移動したい場合は阪急電車がお得です。
距離ごとの運賃で各社を比較すると?
関西の主な鉄道会社について、初乗り、5km、また10kmから50kmまで10km刻みの運賃について比較をした場合、以下の通りとなります。
阪急 | JR西日本 | 大阪メトロ | 阪神 | 京阪 | 近鉄 | 南海 | 山陽 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
初乗り | 170円 | 140円 | 190円 | 160円 | 170円 | 180円 | 180円 | 170円 |
5kmの運賃 | 200円 | 170円 | 240円 | 200円 | 220円 | 240円 | 240円 | 250円 |
10kmの運賃 | 240円 | 190円 | 290円 | 250円 | 280円 | 300円 | 290円 | 310円 |
20kmの運賃 | 290円 | 320円 | 380円 | 300円 | 350円 | 490円 | 490円 | 530円 |
30kmの運賃 | 330円 | 480円 | 設定なし | 320円 | 390円 | 590円 | 610円 | 690円 |
40kmの運賃 | 390円 | 660円 | 設定なし | 設定なし | 410円 | 760円 | 740円 | 750円 |
50kmの運賃 | 410円 | 820円 | 設定なし | 設定なし | 430円 | 910円 | 850円 | 820円 |
JRについては大阪特定区間の運賃(その他と比べやや割安な運賃)を掲載
なお、関東(首都圏)の鉄道会社との比較で見ると、東京メトロのように30km前後で阪急より安くなる例外を除き、近距離で阪急と比べやや安く、距離が長い区間ではやや割高な会社が多く見られます。
関東でも特に運賃が安いことで知られる京王線については、距離が長い区間でも阪急線よりやや割安な運賃でしたが、2023年以降の値上げによって、距離が長い区間の運賃は阪急線と大きな差はなくなることが見込まれます。今後阪急電車が値上げを行わない場合は、比較的長めの距離については「日本一安い」水準となると言えるでしょう。
阪急の運賃はどうして安い?
阪急線の運賃が距離が長い区間ほどかなり安くなる理由については、様々な要因が考えられますが、一般論として考えられる内容としては以下のようなポイントが挙げられます。
利用が多い・都市部の路線のみ(ローカル線がない)
阪急電車の路線としては、大阪梅田から京都・宝塚・神戸方面を結ぶ「京都本線・宝塚本線・神戸本線」の3つの幹線と、それらの路線の支線としての役割を果たすいくつかの路線(嵐山線・千里線・箕面線・今津線・伊丹線・甲陽線)があります。
これらの路線はいずれも都市部を通り、郊外も含め多くは「人口が多い区域」・「住む場所として人気がある地域」・「公共交通機関の利用率が高い地域」を結んでいます。また、阪急阪神グループが開発した沿線施設・マンション・住宅地や梅田エリアのまちづくりなどにより、電車を利用する機会を増やす動機付けにもつながっています。
営業距離あたりで見た利用者数も大阪メトロを除く関西私鉄の中では阪急が最も多く、京阪神のいずれの地域でも効率的に通勤・通学・日常生活に利用されていることが、運賃を安く設定出来る大きな要因と考えられます。
他社のケースで見ると、近鉄線などは奈良線など需要の多い路線もある一方で、吉野線方面など収支が厳しい地方ローカル線と言える区間が多く、全体でのバランスを図るために運賃が比較的高くなってしまう特徴がありますが、阪急にはそういった路線がない点が運賃面でのメリットにつながっていると言えるでしょう。
コスト削減への取り組みも充実
阪急電車は、一般的には「上品な車両・内装」といった、私鉄の中でも特にグレードが高いようなイメージで取り上げられることが多い存在です。
一方で、阪急の鉄道事業の運営そのもの・車両製造コストなどが、必ずしも他社と比べ著しくコストが高いという訳ではなく、その他企業と同様に必要な投資はしっかり行いつつも、コスト削減への取り組みがしっかり行われていると言えます。
車両についても、近年一気に新型車両(1000系・1300系)への取り換えが進んでいますが、これまでの経過を見ると比較的長い年数使用する傾向があり、「上質な車両」を「長期間」丁寧に使用することが、結果としてのコスト抑制にもつながってきたと言えるでしょう。
近距離利用で収入を確保しやすい
阪急電車の運賃は、概ね15km程度までの近距離ではJR線よりは割高な、目立って「高くも安くもない」一般的な運賃水準となっています。
また、阪急線については、大阪・京都・神戸都心へそれほど遠くはない周辺地域からアクセスする際に利用されやすく、15km圏内程度での利用が多い特徴を持っていると言えます。
全体的に見た場合、必ずしも神戸三宮~京都方面といった距離の長い移動が輸送のメインではないため、距離が長い区間の運賃ほどむしろ割安に設定し、気軽に利用しやすくしている側面もあると言えるでしょう。
裏返して言えば、阪急線を近距離で利用する利用者の方にとっては、特段「阪急=安い」というイメージはないかもしれません。
新線建設がなく加算運賃なし(全線一律の運賃)
阪急電車の各路線は、最も古いものでは明治時代を含め、基本的には「戦前」に建設がなされたものです。近年になって多大な投資が必要となるような路線の開発などは特に行われておらず、「全線で一律」の運賃制度が実施されています。
一方で、関西私鉄の中でも京阪線であれば「鴨東線・中之島線」、阪神線であれば「なんば線」、近鉄線であれば「けいはんな線」は、比較的新しい時代に建設されたこともあり、建設費を回収するための「加算運賃」が設定されています。
これらの路線を利用する場合は、阪神など比較的運賃が安い会社であっても、加算運賃を支払うため運賃はやや割高になりますが、阪急線の場合は加算運賃などが必要な路線はないため、どこへ移動する場合でも同じ安い運賃でご利用頂けるようになっています。