冬の天気・気象現象には雪をはじめ様々なものがありますが、まれな現象として時折見られるものとしては「凍雨」と呼ばれるものがあります。
こちらでは、凍雨というものが「どういった現象」なのか?「どうやって発生する(仕組み)」のか?「あられ・ひょう」などとの違いはなにか?といったテーマについて、なるべく簡単に解説していきたいと思います。
凍雨という現象・言葉の整理
凍雨という気象現象は、その名の通り凍った「氷の粒」が雨のように降り注ぐ気象現象です。
氷は半透明またはほぼ完全な透明さを持つ氷の粒で、雨がそのまま凍ったような姿をしています。
似たような言葉としては、「氷雨(ひさめ)」という言葉が日本語にはありますが、こちらはかつては「あられ・ひょう」を意味する語として、近年は多くの用例で「冬の冷たい雨」を意味する語として使われる一般的な単語で、文学的な色彩の強い表現です。「気象用語」・「気象学的現象」としての意味合いは持つものではありません。
凍雨については、生活上の言葉というよりは「気象用語」にあてはまるもので、余り日常的に使われるキーワードとは言えません。
凍雨の「発生の仕組み」
氷雨の発生する仕組みは、大まかには以下のようなプロセスとなっています。
気温の低い上空で雪(結晶)が生じる
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地上に向かって降る途中に、地上付近よりも気温が高い空気の層「逆転層」を通る
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結果として雪が解けて雨になる
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地上に近づくと再び気温0℃未満の空気の層となる
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雨粒がそのまま「再凍結」して「凍雨」となる
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地上に氷の粒として降り注ぐ
すなわち、雨が凍って落ちてきたものというよりは、「雪が雨になった後再び氷になって落ちてきたもの」と言える現象です。
但し、雪は結晶構造を持つ一方で、この凍雨はあくまでも水滴がそのまま凍り付いたものですので、雪が解けたからといって、「雪」に戻ったものとは言えません。
凍雨が発生する状況とは?
凍雨は、雨が地面に落ちた後に凍り付く「雨氷」と同様に、気象現象の中でも極めて珍しいもの(ひょうよりも珍しい)と言えます。
凍雨の発生に必ず必要な条件は下記の通りです。
・上空に「暖気」が流れ込んでいること
・地上付近の空気が「0℃未満」の冷気が残っていること
・冬~春にかけて「低気圧」が通過する場合
・冬~春にかけて「前線」が通過する場合
単に暖気が流れ込んだり、低気圧・前線が通過することはよくありますが、あくまでも冷たい空気が地上付近に残っている必要があります。こういった条件は、必ずしも多く発生するものではありません。
また、東北より南側の平地など多くの地域では、「上空ほど」冷たい空気が入る「強い冬型の気圧配置」の際を除き、広い範囲で0℃未満の冷たい空気に覆われ続けるようなことはほぼないため、仮に地上付近と上空の気温が逆転したとしても、凍り付いて降って来るようなことはまずありません。
そのため、発生する可能性がある地域は、主に以下のような地域に限られます。
・元々気温が下がりやすい地域(北海道・東北・それ以外の標高の高い地域)
・地形の関係で冷たい空気が「溜まりやすい」地域(北海道の十勝平野・関東甲信の山沿いなど)
気温が比較的高い京阪神や名古屋周辺・瀬戸内海側・九州や四国の平地といった地域で「凍雨」が降る可能性は、科学的にはゼロではありませんが、可能性としてはほぼゼロに近い状況と言えます。
関東地方の平野部については、可能性は極めて低いですが、西日本と比べると冷たい空気が溜まりやすいため、状況によっては一部の地域のみで発生する可能性もあるかもしれません。
なお、北海道や東北、標高の高い地域であっても、凍雨は珍しい現象であり、見られない年の方が多いものです。
あられ・ひょう・みぞれとの違いは?
あられ | ・日本では気象現象(気象庁が記録する「天気」の内容)としては「同じもの」として扱われる ・気象学的には「みぞれ・あられ」の両方に含まれる現象 ・あられは「積乱雲」から降りやすい一方、凍雨は基本的に「乱層雲」などから降る場合が多い |
ひょう | ・空から降る氷の粒(雪の結晶ではないもの)のうち5mm以上のものを「ひょう」と呼ぶ |
みぞれ | ・日本では異なる現象として記録される ・アメリカでは定義が異なるため「みぞれ」の一種とされる |
「凍雨」は、他の気象現象との区別は少しややこしい点があります。
まず、日本国内での扱いで見た場合は、「氷の粒」として降って来るものでかつ「直径5mm未満」の場合、一度解けた後に再凍結したものであっても基本的に「あられ」としての扱いを受けることになっています。例えば気象台で「~時~分から~時~分に、~を観測」といった形で「気象現象」が記録される場合には、凍雨は「あられ」として記録に残ります。
あくまでも、「凍雨を記録」といったような形では記録に残らないため、過去にいつ「凍雨」が降ったかを広く把握する方法は存在しません。
なお、あられについては、中心に雪の結晶を持つ「雪あられ」と、ひょうに近い仕組みで発生する「氷あられ」の2種類があり、凍雨については氷あられと見た目はよく似ているため、降っている状況を見るだけでは「凍雨」であることを判断することは容易ではありません。
ひょうとの違いは、端的に言えば「直径5mm未満であるかどうか」ですが、凍雨のサイズが5mm以上に巨大化することは一般的には考えにくいため、ひょうと凍雨が直接関係することは少ないでしょう。
みぞれとの違いについては、日本国内では異なる現象として扱われ、見た目も異なるため判別はしやすいと言えます。
雨氷との違いは?
あられ・ひょう・みぞれよりも「凍雨」にある種より近い現象としては、こちらも極めてまれに発生する「雨氷」と呼ばれるものがあります。
それぞれの違いは、簡単には以下の通りとなります。
凍雨 | ・見た目はあられ ・降っている途中に水滴から氷に変わる ・氷が降って、氷が積もる可能性がある ・上空の一部で「水滴」になっている点では雨氷と同じ |
雨氷 | ・見た目は雨 ・降っている最中は「水滴」のまま(0℃未満でも凍らない「過冷却」状態) ・雨が地面に降った後すぐ「氷」に変わる |
凍雨と雨氷は、降っている最中に「水滴」となっている段階があるという点では共通していますが、凍雨は落ちてくるまでに再度凍結する一方、雨氷は「0℃未満」まで下がっても凍らない「過冷却」と呼ばれる状態で落下し、地面に落ちた衝撃で性質が変わり、一気に氷に変わるものです。
ポイント・まとめ
凍雨は、凍った水滴が雨のように降る現象で、見た目は「あられ」と大差ありません。
発生の仕組みはあられとは異なり、降っている最中に「雪→水滴→氷の粒」という形で変化する経過をたどります。
上記のような変化は、地上付近が0℃未満の寒気に覆われている一方で、上空に雪が解けるくらいの気温の高い層(逆転層)があるために発生します。
発生は気温の低い地域・標高の高い地域が主で、北海道などではまれに発生しますが、西日本の平地などではまず見られません。
他の近似する気象現象との違い、共通点は以下の通りです。
【あられ】気象現象としては同じ扱い・発生の仕組みは異なる
【ひょう】氷の直径が5mm以上の場合ひょう・雨氷が5mm以上に大型化するケースはほぼない
【みぞれ】見た目が異なる・気象現象としても異なる扱い
【雨氷】水滴のまま落ちて来て凍るのが雨氷・途中で水滴になる点では共通