こちらでは、冬の「乾燥」というテーマについて、「カラカラの風が吹き付ける首都圏」との対比として言われることがある「日本海側は乾燥しない(しにくい)」という状況について、「それは本当なのか?」という観点から、なるべくわかりやすく解説していきたいと思います。
冬の乾燥とはどういう仕組みなのか
冬という季節は、一般に空気が「乾燥」する時期であるとされています。
実際に、皮膚がひび割れたり、乾燥肌と呼ばれる状態になったりすることからも分かる通り、乾燥している状況を単に体感するだけでなく、物理的に「乾燥の被害」を受けるケースも少なくありません。
一方で、この「冬の乾燥」という問題が「なぜ発生するのか」という意味で見て行くと、決して「天気が悪いかどうか」や「湿度が高いかどうか」だけでは説明できない根本的な要因があります。
それは、「冬になると(気温が下がると)空気中に含むことが出来る水蒸気量(水分)が一気に減る」というある種、かなり単純な要因です。
乾燥の目安というものは、一般に「湿度」がイメージされやすいですが、湿度というものは、その時点の空気が「含むことが出来る水蒸気の量(飽和水蒸気量)」に対し、どの程度の割合なのかを示したもので、「相対的」な数字です。
飽和水蒸気量 | 空気の中に含むことが出来る水蒸気の量(温度により大幅に異なる) ・30℃であれば「30.3g/㎥」、0℃であれば「4.85g/㎥」と気温による差は大きい |
湿度 | 飽和水蒸気量を最大とした場合に、その時点の空気に含まれる水蒸気の割合を示したもの ・飽和水蒸気量が「30」の場合、湿度50%なら水蒸気の量は「15」 ・飽和水蒸気量が「5」の場合、湿度50%なら水蒸気の量は「2.5」 |
つまり、夏の「湿度50%」と冬の「湿度50%」では、空気中の水蒸気は極端に異なっており、実際には全く「湿り具合」は異なるということになります。
空気中に含むことが出来る「水蒸気量」は?【首都圏・日本海側の比較】
前項では、冬の乾燥は「空気中に含むことが出来る水蒸気の量(飽和水蒸気量)」が一気に下がるため生じる。という構図を解説しましたが、では、「首都圏」と「日本海側」の「水蒸気量」は、冬場に実際どのくらいの数字になり、どのくらいの違いが見られるのでしょうか。
まず、確認しておきたいのは「1年間」全体の流れです。
平均気温 (℃) | 相対湿度 (%) | 水蒸気量概算 (g/m3) | |
---|---|---|---|
1月 | 5.4 | 51 | 3.56 |
2月 | 6.1 | 52 | 3.81 |
3月 | 9.4 | 57 | 5.16 |
4月 | 14.3 | 62 | 7.63 |
5月 | 18.8 | 68 | 10.97 |
6月 | 21.9 | 75 | 14.5 |
7月 | 25.7 | 76 | 18.22 |
8月 | 26.9 | 74 | 18.97 |
9月 | 23.3 | 75 | 15.71 |
10月 | 18 | 71 | 10.93 |
11月 | 12.5 | 64 | 7.05 |
12月 | 7.7 | 56 | 4.55 |
水蒸気量は当サイトによる概算値
上記のグラフ・表は東京の平均気温を基にした、1年間の月ごとの平均的な水蒸気量の「概算値」です。グラフから明らかな通り、夏の水蒸気量はかなり多く、冬の水蒸気量はかなり少なくなっており、1月は8月の5分の1程度と、これだけでも皮膚が乾燥する理由がよくわかるかと思います。
東京 | 横浜 | 新潟 | 上越 | 富山 | 金沢 | 秋田 | 札幌 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1月平均気温 | 5.4℃ | 6.1℃ | 2.5℃ | 2.5℃ | 3.0℃ | 4.0℃ | 0.4℃ | -3.2℃ |
平均湿度 | 51% | 53% | 72% | 79% | 82% | 74% | 74% | 69% |
飽和水蒸気量 | 6.99g/m3 | 7.32g/m3 | 5.76g/m3 | 5.76g/m3 | 5.96g/m3 | 6.37g/m3 | 4.99g/m3 | 3.88g/m3 |
実際の水蒸気量 | 3.56g/m3 | 3.88g/m3 | 4.15g/m3 | 4.55g/m3 | 4.89g/m3 | 4.71g/m3 | 3.69g/m3 | 2.68g/m3 |
気温・湿度は気象庁の平年データによる
水蒸気量は当サイトによる概算値
また、上記の表やグラフは日本海側の水蒸気量の概算値も含めたものです。
表などからも分かるように、北陸・新潟の地点で見た場合、1月の東京・横浜よりも「ほんのわずかに」水蒸気量が多い計算となります。
しかし、東京の8月と比べるとその少なさは歴然としており、日本海側と首都圏に「差がある」と大きな声で言えるほどの状況ではありません。また、秋田は東京や横浜とほぼ同水準、札幌に至っては更に水蒸気量が少ない計算になるなど、寒冷な地域へ行くと「わずかに多い」状況すら見られません。
「冬の日本海側が乾燥しない」は限定的
これまでの解説してきた内容からも分かる通り、「日本海側は乾燥しない」と首都圏と比べて言う場合、確かに「厳密に」見た場合、北陸や新潟といった比較的気温の高い地域であれば、水蒸気量の観点から見た場合「ほんのわずかに」そういった側面はあるかもしれません。
しかしながら、それがはっきりと実感・体感できるような状況であるかと言えば、とりわけ通常過ごす屋内の環境といった場所では、極めて限定的な状況と言わざるを得ません。
日本海側は雪や雨の頻度が多く、「何かが降っている状況」の屋外であれば、ほぼ常に乾いた風が吹いている首都圏と比べ、何かが降っている以上は物理的に濡れたりするなどして「湿り気」は感じられるでしょうし「影響」は抑えられるかもしれません。
しかし、住宅など屋内の環境で「風」は全く関係なく、暖房の使用状況などに応じ「湿度」も一気に低下します。そもそもの「水蒸気量」に大きな違いはない(冬はどちらにせよかなり少ない)訳ですので、強く実感できるほどの差は余りないと言えるでしょう。
また、いくら日本海側と言っても「晴れ間」が見られる場合もあります。そういった天候であれば、屋外でも乾燥した風が吹く場合もあり得ます。暖冬で雪が積もっていない・雪解け水で地面が濡れていないような場合はなおさらその傾向は強くなると言えるでしょう。
ポイント・まとめ
・冬の乾燥は「気温低下」による「水蒸気量」の減少による点が大きい
・冬場の「水蒸気量」自体は首都圏と日本海側の差は小さく、日本海側の一部がわずかに多い程度
・その差は夏と冬の水蒸気量の差と比べ微々たる状況
・日本海側では雪や雨が降る分、屋外での乾燥による影響は抑えられる可能性あり
・但し、全体的に見た場合「日本海側は乾燥しない」と言えるほどの状況にない(差は限定的)