日本の中でも最も温暖で亜熱帯の気候を持つ「沖縄県」。
沖縄県の気候に関して見た場合、「雪」というテーマは最も縁遠いようにも見えますが、本当に沖縄で雪が降ったことはないのでしょうか。
こちらでは、「沖縄で雪が降るかどうか?」という少しユニークな疑問(沖縄県における「雪事情」について、具体的な過去の記録から解説していきたいと思います。
2016年「名護(沖縄本島)でみぞれ」を観測
沖縄で雪が降るかどうか。この疑問に端的に答えれば、「一部の地域では降った記録がある」と答えることが可能です。
一般に「沖縄」とだけいう場合、その地域は「沖縄本島」を指す場合が多いですが、沖縄本島では20世紀の間「雪」の記録は残されてきませんでした。
観測場所 | 名護特別地域気象観測所(標高6m) |
降った日 | 2016年1月24日 |
降った時間 | 22時26分~22時42分(16分間) 23時41分~23時44分(3分間) 23時50分~24時00分(10分間) 合計29分間 |
気象現象 | 全て「みぞれ」 |
降雪時の気温・湿度 | 約6℃台・約60~70% |
しかしながら、2016年1月24日、100年に1回とも言われるような強烈な寒波が流れ込み、名護の観測所で一時的に「みぞれ」を観測し、初めての「降雪記録」となりました。
「みぞれ」は雪じゃない。と考える方もおられるかもしれませんが、気象庁の定義では「雪が混じったもの」は「降雪」として捉えますので、雨に少しだけ雪のかけらが混じって降るような「みぞれ」もれっきとした「雪」の記録となります。なお、氷の粒である「あられ」だけの場合は「降雪」には含まれません。
当日の降った時間帯の気温は6℃台と、通常みぞれになるかも微妙な高い気温でしたが、湿度が比較的低かったため「みぞれ」の観測となりました。
注意点としては、名護の観測地点は、目視による観測ではなく「自動観測装置」での観測である点が挙げられます。自動観測装置は、気温と湿度の関係を見て雨・雪・みぞれの違いを判断しますので、必ずしもそこでみぞれが降ったことを「この目で見た」ことは証明されません。
なお、名護での「みぞれ」について解説した文章の中では「積雪」となったと書いてあるものが見受けられますが、これは間違いであり、あくまでも「みぞれ」が降ったとされるだけで、雪が「積もった」公式的な記録は一切残されていません。
久米島でも2回の降雪(みぞれ)記録あり
観測場所 | 久米島特別地域気象観測所(標高約5m) ※1977年は久米島測候所 |
降った日 | 2016年1月24日・25日 1977年2月17日 |
降った時間(2016) | 24日18時台~25日2時台まで断続的に観測 |
気象現象 | 全て「みぞれ」 |
降雪時の気温・湿度 | 約5~6℃台・約60~70% |
名護以外の観測地点で「降雪」記録が残る地点としては、沖縄本島から100km弱離れた「久米島」があります。
久米島で降ったものも名護と同じく「みぞれ」ですが、こちらは2016年1月24日・25日の寒波で観測されたケースのみならず、1977年2月17日にも「みぞれ」が観測されており、沖縄県内で唯一「2回」の降雪が記録されています。
また、1977年は自動観測ではなく測候所で「目視」での観測となっていたため、沖縄県内で「この目で見た」公式的な唯一の降雪現象でもあります。
観測した際の気温や湿度の条件は2016年の場合、名護と大差はなく、やはり「雨」寸前の状況でかろうじて「みぞれ」と判断されるような状況となっています。
沖縄県内と言っても様々
沖縄県は、「県内」といっても、大東島地方から宮古・八重山地方まで、幅にして800km以上の極端な広さを持ちます。
すなわち、「雪」の可能性といっても、地域によってその状況は全く異なります。
冬の気温で見た場合、大東島地方と宮古・八重山地方は沖縄本島や久米島と比べると「高温」傾向が際立つ地域です。緯度的にも沖縄本島方面が北側となっているため、寒波がやってきた場合に気温がより下がるのは「必ず」沖縄本島方面となります。
これまでの気温データから考えると、大東島・宮古・八重山方面で「降雪」となる可能性は、100年単位で見ても基本的に「ない」と言えるでしょう。大まかに言えば、台湾や香港で雪が降る可能性よりも更に大幅に低いと言えるのが実情です。
また、沖縄本島周辺でも、北側にある名護方面、寒気の流れ込む向きに近い久米島方面で気温が下がりやすく、結果として「降雪」はこの2か所のみで記録されています。
沖縄最大の都市である那覇市は、名護と比べ気温の低下が鈍く、2016年1月の寒波でも、最低気温に1℃程度の差が見られました。6℃というぎりぎりの気温で「みぞれ」となっても、更に1℃程度気温がが上がった場合、基本的に雪のかけらは解けてしまいます。
那覇では気象観測が開始されてから降雪が記録されたことは一切ありません。
1999年「那覇の雪」は気象学的には考えにくい
降雪記録のない那覇市ですが、1999年の12月20日に那覇市久茂地で「雪のようなものが降る」ビデオ映像が記録され、NHKのニュースなどでも報道・分析がなされたことがあります。
動画などを確認すると分かるように、確かに映っているものは雪にしか見えない白いもので、ちらちらと舞っている姿が確認できます。
降ったとされる時刻 | 1999年12月20日18時40分頃 |
18時の気温・湿度 | 13.9℃・53% |
18時台に観測された気象現象 | 曇り(雨などの降水現象の観測なし) |
当時の気象データを見ると、この際の気温は14℃程度と、通常雪やみぞれが降る気温とは到底言えない環境で、気象学的には現実性には乏しいと言える状況です。
雪やみぞれは、決して0℃未満(氷点下)でなければ降らない訳ではなく、「湿度」が低いほど高い気温でも降りやすく、先に解説した「名護」・「久米島」の「みぞれ」も気温5~7℃程度の気温(湿度は50~70%程度)で降ったものです。このくらいの気温であれば、湿度が50%未満であれば、場合によっては「雪」が降ることもまれに見られます。
当時の那覇の湿度は53%。確かに比較的乾燥した低い湿度の条件ですが、いくらなんでも「10℃以上」で雪が降ることは基本的にありません。全国的なデータを見ても、気温14℃近い状況で、みぞれ・雪が降ったことはなく、降雪現象には含まれない「あられ(ひょうよりも小さな氷の粒)」であっても、極めてまれな事例となっています。
当時の検証でも、気象台は「雪とは考えにくい」として降雪があったことを否定しており、基本的に雪が降った可能性はないと考えられます。
ポイント・まとめ
・沖縄県では、通常雪が降るような環境ではありません。
・但し、2016年には名護と久米島、1977年には久米島のみで「みぞれ(気象庁の区分では雪に入る)」を観測しているため、県内で「雪が降ったこと」はある地域です。
・気温がより高い宮古、八重山、大東島地方で雪が降ったことはありません。
・本島でも那覇は雪の観測がありませんが、過去に雪のようなものが目撃されたとの話があります。但し、その当日の気象条件を考慮すると、雪であったとは考えにくい状況です。