「大気汚染」に関する用語として最も一般的なものといえば、テレビなどでも取り上げられることのある「PM2.5」が挙げられます。
PM2.5と言えば、かつて中国大陸からの大気汚染物質の流入が酷かった時期(現在は環境対策により大幅に改善傾向)は西日本を中心に極めて高い濃度となることもあり、一般に「北海道」のイメージは薄いかと思われます。
一方で、北海道だからPM2.5と無縁かと言えば、必ずしもそうではありません。むしろ、北海道独特の要因のようなものもあり、稀にかなりの濃度が観測されることもあります。
本ページでは、北海道におけるPM2.5の状況について、その傾向や過去に観測された濃度、影響などを見ていきたいと思います。
PM2.5の基礎知識
大きさ | 直径2.5μm(マイクロメートル)以下の非常に小さな粒子を指す ※1μm=1mmの1000分の1の大きさ ※概ね髪の毛の大きさの30分の1以下の大きさ |
物質 | 物を燃やして直接発生するもの等:炭素成分・硝酸塩・硫酸塩・ケイ素・ナトリウム・アンモニウム塩・アルミニウム等 硫黄酸化物(SOx)・窒素酸化物(NOx)・揮発性有機化合物(VOC)といったガス状で排出される大気汚染物質が粒子化したものも ※粒子の大きさで区分するため、特定の物質=PM2.5という決まりはなし |
発生源 | ・工場や焼却炉等からの排気 ・自動車等輸送機関からの排気 ・鉱物を加工、保管する施設等からの煤塵 ・火災(野焼き・山火事・森林火災など)による煙 ・その他自然由来のものも |
環境基準 | 1年平均値が15μg/m3以下・1日平均値が35μg/m3以下 |
PM2.5は、基本的には上記のような条件・特徴を持つ物質です。非常に小さな粒子であるため、詳細については解明しきれていない部分もありますが、肺の奥深くまで侵入しやすい=健康被害が懸念される存在として知られています。
日本の場合、特に健康被害が懸念される指標は70μg/m3とされており、北海道を含む国内でも稀にこの基準を超過することがあり、その際には外出を減らす等の対策が望まれます。
札幌市におけるPM2.5観測体制等
大気汚染物質であるPM2.5については、札幌市内でも観測が行われています。市内には大気汚染物質の種類等に応じ観測施設が多数設けられており、このうちPM2.5を観測している施設は以下の通りです。
施設名 | 所在地 |
---|---|
国設札幌大気環境測定所局 | 札幌市北区北19条西12丁目 |
北1条局 | 札幌市中央区北1条西2丁目 |
南14条局 | 中央区南14条西10丁目 |
篠路局 | 北区篠路4条9丁目 |
北19条局 | 北区北19条西2丁目 |
東18丁目局 | 札幌市東区北33条東18丁目 |
発寒局 | 西区発寒5条7丁目 |
手稲局 | 手稲区前田2条12丁目 |
月寒中央局 | 豊平区月寒中央通7丁目 |
厚別局 | 厚別区厚別中央4条3丁目 |
駒岡局 | 南区真駒内602 |
清田局 | 清田区平岡1条1丁目 |
観測は基本的に常時行われており、各年・各月ごとのデータも一般に公開(大気汚染物質の常時監視と測定結果:札幌市役所公式サイト)されています。
高濃度のPM2.5が観測された場合、札幌市では注意喚起を行うことが定められています。
注意喚起を行う基準 | 1.午前5時・午前6時・午前7時までの1時間に観測されたPM2.5濃度の平均値が札幌市内の測定局2箇所以上で85μg/m3を超えた場合 2.午前5時~正午までに観測された1時間の平均PM2.5濃度が札幌市内のいずれかの測定局で80μg/m3を超えた場合 |
基準は一般的な環境基準よりは高く設定されており、これ程の濃度になることは滅多にありません。しかしながら、後述する「森林火災」等の影響で、2014年には濃度が基準に達しこの「注意喚起」が実際に行われたケースもあります。
PM2.5は一般に高濃度の場合呼吸器など健康に悪影響を及ぼすことが懸念される物質です。濃度が急上昇するような場合、以下のような対策を取ることがおすすめです。
・不要不急の外出を控える
・ソーシャルディスタンスに関わらず屋外でもマスクを着用する
・屋外からのPM2.5が室内等に流入し過ぎないように気を付ける
・呼吸器に基礎疾患等をお持ちの方は、特に健康に留意する
札幌・北海道におけるにおけるPM2.5の原因
北海道内においては、時に高濃度のPM2.5が観測されることもありますが、PM2.5の濃度が上がる要因としては2つの要因があります。
1.主に中国からの大気汚染物質の流入
2.日本海の対岸で発生した「森林火災」等の影響
主に中国方面からの大気汚染物質の流入
一般にPM2.5と言うと、これまでは中国からの大気汚染物質の流入というものがその原因の最たるものでした。これは多くの場合西日本ほど濃度が高く、北海道にも影響はあっても西日本よりは低い濃度になる。という事例が大半となっていました。
近年は、中国政府が環境対策にかなりの重点を置くようになり、この10年程で劇的と言って良いくらいに大気汚染物質の流入が減っています。元々北海道は離れていた上に、近年は流入そのものが減っている状況ですので、一定の濃度が観測されることがあっても、懸念されるような高濃度になり影響が生じるようなことは少ないと言えます。
北海道特有?森林火災による濃度上昇
一方で、北海道特有の原因としては「森林火災」というものがあります。これは、主に日本海を挟んで北海道の対岸に位置するロシア・シベリア地方で比較的大規模な森林火災が発生し、その煙が風向き次第では日本海を越えて北海道に直接流れ込む事で、PM2.5濃度が大幅な上昇を見せるというものです。
近年では2014年・2018年などに森林火災の影響で札幌・北海道一帯のPM2.5濃度が急上昇する現象が観測されています。特に2014年の7月25・26日にかけての濃度上昇では、一時札幌市内の全ての観測地点で100µg/m3を超えるかなりの高濃度となり、遠くが見通せない程の状況で「煙霧」が観測され、札幌市が緊急の呼びかけを行う事態になりました。
中国大陸からの「人為」的な大気汚染物質の流入によって、上記のような事態はまず発生しませんので、札幌・北海道におけるPM2.5の影響はむしろ稀に発生するシベリアの森林火災の方が大きいと言えるでしょう。
このパターンでは、森林火災が起きるかどうかも重要な要素ですが、何よりも「風向き」が重要となります。2014年のケースでは、森林火災が起きている際でも「東寄りの風」が吹いているタイミングでは問題なかったものの、「北西・北北西の風」が吹き始めたタイミングで急に濃度が上昇しているなど、火災による煙が流れる方角と一致した場合に影響が生じます。
過去のPM2.5濃度の記録
札幌市内で観測されているPM2.5濃度について、各年ごとに高濃度となった状況を見ていくと、以下のようになります。
日平均濃度35μg/m3超日数の合計 | 1日平均濃度の市内最高値 | |
---|---|---|
2019年度 | 観測なし | 31.1μg/m3 |
2018年度 | 合計31日/8測定局=平均3.9日 | 72μg/m3 |
2017年度 | 合計5日/8測定局=平均0.6日 | 40.8μg/m3 |
2016年度 | 合計11日/8測定局=平均1.4日 | 44.3μg/m3 |
2015年度 | 合計6日/8測定局=平均0.8日 | 37.9μg/m3 |
2014年度 | 合計49日/8測定局=平均6.1日 | 71.8μg/m3 |
2013年度 | 合計21日/8測定局=平均2.6日 | 60.7μg/m3 |
2012年度 | 観測なし | 33.6μg/m3 |
2011年度 | 3日(測定局1か所のみ) | 48.8/m3 |
このデータからは、必ずしも大きな傾向は見出せませんが、年によって全く観測されない年もあれば、複数の日で日本の環境基準を越えるような状況になっている年もあることが分かります。
日本全体で見た場合、主な大気汚染物質の発生源であった中国の環境対策が奏功しPM2.5濃度は近年大幅な減少傾向にあります。札幌も今後統計データからその傾向がはっきりするようになるものと推定されますが、北海道の場合は先に解説した「森林火災」の影響が生じる可能性があるため、必ずしも本州各地と同じような傾向が表れるとは限りません。