こちらでは、北海道における国の各種公共事業の実施を行う「北海道開発局」について、その組織としての位置づけ・所管する業務など、基本となる知識を解説していきます。
前身は「北海道開発庁」・現在は国土交通省の一組織
北海道開発局は、歴史的なルーツを2001年まで存在した「北海道開発庁」と呼ばれる官庁に持つものです。
北海道という地域は、歴史的な位置づけが日本国内の他地域とは異なり、明治以降に人口増加・開拓が行われた地域ということで、当初より各種のインフラ整備などは「国の関与」が比較的大きいという特徴がありました。
北海道開発を担う主な組織 | 設置期間 | 特徴 |
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開拓使 | 1869年~1882年 | ・国直轄の機関 ・インフラ整備を進める一方、国家財政の限界もあり「産業育成」にも重点 |
三県一局 | 1882年~1886年 | ・函館県、札幌県、根室県、北海道事業管理局(農商務省の部局)の4組織による体制 ・県の設置により地方と国の分担によりインフラ整備、開拓を実施する体制に |
北海道庁 | 1886年~1947年 | ・「北海道庁」という名称である一方、組織としては国の統制下という側面が強い ・インフラ整備などの開発行政は北海道庁の傘下で一元的に実施 |
北海道開発庁 | 1950年~2001年 | ・北海道開発法に基づく ・省庁の縦割りによらず、国による公共事業を実施する「現業機関」としての側面が強い |
北海道開発局 | 2001年~ | ・開発庁の現業部門を継承 ・国土交通省の地方支分部局として設置 |
明治以降、開拓使・旧北海道庁・北海道開発庁と、一部期間を除き国によるイニシアチブが強い形で開発行政が進められ、2001年の中央省庁再編後においても、独自の組織として「北海道開発局」が国土交通省の地方支分部局として残され、現在に至ります。
北海道開発法に基づく
北海道における国の公共事業は、1950年に制定された「北海道開発法」に基づき制定される「北海道開発計画」をベースとして実施されるものです。
北海道開発法は、北海道における土地、水面、山林、鉱物、電力その他の資源を総合的に開発する目的(実質的な各種インフラ整備等)制定された法律であり、当初は北海道開発庁の設置規定なども含んでいましたが、現在は「北海道開発計画」を決定する根拠となる法律として機能しています。
北海道開発計画は、中央省庁の再編により北海道開発庁→北海道開発局へと変わった2001年以降も継続して立案・決定がなされており、2022年現在は「8期目」の計画期間内となっています。
北海道局と北海道開発局
北海道開発局という組織の特徴として、国土交通省の「地方支分部局」としての組織である一方、東京の国土交通省本省に設置された「北海道局」という組織の事実上の傘下に置かれているという特徴もあります。
北海道局は、上述した「北海道総合開発計画」に関する企画立案、各種事務などを担う組織であり、北海道開発局の運営状況を指導・監督する役割なども果たしています。
開発計画との関わり | 相互の関わり | |
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北海道局 | 政策の企画・立案・推進 など | 事業の実施に関わる指揮・監督を開発局に対し行う |
北海道開発局 | 計画に基づく事業の実施 計画に関わる調査の実施 など | 北海道局の監督の上で各種事業を実施 |
他方、北海道開発局は「開発計画」に基づく各種公共事業を実施し、計画の推進を図る「現業組織」としての位置づけであり、実務的な面を北海道局の指導・監督の下で担う役割を果たしています。
業務量・組織の規模としては、北海道開発局が圧倒的に規模が大きく、一般的な知名度としては北海道局はそもそも知られていないような存在ですが、組織の形式・体系としては「北海道局―北海道開発局」というある種の序列があることも確かです。
所管業務の幅
北海道開発局は、非常に大まかに言えば、「国土交通省の各地方整備局」の果たす役割に加え、「農林水産省の地方農政局」の業務の一部も含め所管することが大きな特徴です。
主な所管業務 (地方整備局相当) | 河川・道路・港湾・空港・漁港などに関する国直轄事業の実施、補助事業への関与、各種維持管理の実施 都市計画・住宅行政・防災、建設、まちづくり、観光、不動産などに関する業務・官庁の営繕業務 など |
北海道開発局独自 (地方農政局の一部相当) | 農業施設・農地などに関する国直轄事業の実施、補助事業への関与、各種維持管理の実施 など |
また、北海道を担当する独立した部門として機能していることや、先述の「北海道局」との関係などもあり、他の地方整備局などと比較した場合は、省庁をまたいだ連携が行われやすい特徴もあると言えるでしょう。
二重行政批判は当てはまる?
北海道開発局については、時折規制緩和や行政改革を主張するような文脈から「二重行政」の典型例として批判的に取り扱われることがあります。
二重行政とは、要するに国が行う事業・自治体が行う事業などを所管する組織がそれぞれ異なることで、同じ地域で似たような事業を行う組織が分立する問題に対し、しばしば批判的な文脈で用いられるキーワードです。
一方で、北海道開発局という組織の現状を見ると、少なくともそれ自体が他地域と比べて著しい二重行政的な性質を持つものとは言えません。開発局は、解説してきた通り「国土交通省の地方整備局」・「農林水産省の地方農政局の一部機能」相当の機能を持つもので、むしろ「省庁をまたいだ業務」を包括している効率的な側面もあります。
開発局には上部組織である在東京の「北海道局」があることで、行政機能の重複を指摘する声もあるかもしれませんが、北海道局は事務的な業務・計画立案などを主に担う組織であり、規模としてはかなり小さな組織となっています。
二重行政批判を本腰を入れて行いたいのであれば、「地域を問わず」地方整備局など国の出先機関一般と、地方自治体の関係性そのものを問う形で行うのが一般論としては妥当であり、北海道開発局のみをやり玉に挙げるのは、必ずしも合理的な議論とは言えないでしょう。