夏は涼しく、冬は寒いというわかりやすい気候のイメージで知られる北海道札幌。
確かに、気温のデータだけ見れば時期による差はあるものの、東京や大阪と比較して5~10℃くらい低いことが多く、気温が高い場所とは到底言えません。
一方で、札幌で「夏」を過ごす場合、とりわけ最近は「札幌も暑くなる」とか「涼しい時代は終わった」とかいった議論もあり、一概に「避暑地」扱いを受けている訳ではないようです。
夏の暑さをやり過ごすためのツールとしては、現代では何よりも「エアコン」の存在が身近な存在と言えますが、札幌で生活する上で「エアコン」の必要性はどの程度あるのでしょうか。こちらでは、そのテーマについて気温のデータなども参考にしながら考えていきたいと思います。
エアコンの普及率はどれくらい?
札幌や北海道におけるエアコンの普及率(保有率)については、公的なデータは2014年(平成26年)に実施された「全国消費実態調査」に含まれる項目「主要耐久消費財に関する結果」が最後のデータです。
「全国消費実態調査」は2019年に実施された最新では「全国家計構造調査」と名前を変えリニューアルし、ここで耐久消費財の保有率が調査項目から外れてしまいました。
この最後となる2014年のデータでは、北海道内全体では25.8%・札幌市内では27.0%の世帯がエアコンを保有しているとされています。道内でも夏の気温が低い釧路では5.3%、札幌よりも平均気温は低くても暑い日の頻度はむしろ多い帯広では48.8%と、地域によって大きな差があることも特徴です。
もっとも、近年の傾向としては札幌市内でもエアコンを購入する世帯が次第に増えているとされることが多くなっています。そのため2014年時点と比較した場合、現在の方が高い数値と推定され、場合によっては4割を超えている可能性もありますが、公式的な調査は行われなくなったので、実際の所はよくわからないというのが実情です。
エアコンが必要な日は何日くらい?
エアコンが普及しつつあるとも、まだまだ全国と比べれば普及していないとも言える札幌。実際に生活する上においては、エアコンが必要な気温になる頻度はどのくらいあるのでしょうか。
一番わかりやすいデータとしては、最高気温30℃以上の「真夏日」日数という指標があります。
エアコンは一般に室温が28℃くらいを越えてくると必要になると言われています。窓を開けて換気をしながら・日差しが直接当たらないという室内の条件であれば、昼間の気温が一時30℃に達するくらいの場合に、室温は少なくとも28℃台くらいに上がって来る(窓を閉め切ってかつ日当たりが良い場合、室温の方が先に上がる場合もあるため要注意)場合が多いですので、真夏日というのは、エアコンの必要性を考える上で一つ重要な基準となると言えます。
この真夏日の「平年値(1991年~2020年の平均値)」を見ると、札幌は年間8.6日程度となっており、東京の約52日、大阪の約74日と比べ、圧倒的に少なくなっています。
月 | 札幌の真夏日日数 | 東京の真夏日日数 | 大阪の真夏日日数 |
---|---|---|---|
5月 | 0.1日 | 0.6日 | 1.1日 |
6月 | 0.5日 | 3.6日 | 7.9日 |
7月 | 2.9日 | 16.8日 | 22.6日 |
8月 | 4.5日 | 22.6日 | 28.3日 |
9月 | 0.6日 | 8.2日 | 14.4日 |
10月 | 0.0日 | 0.3日 | 0.6日 |
過去の真夏日日数を見ると年によって相当な差が見られ、「札幌は暑い?」というイメージは、近年の増加によるところが大きくなっています。この10年ほどのデータを見ると、真夏日が年間15日以上観測される頻度が増えている状態にあり、2021年の夏は、18日連続真夏日という史上最も長く暑さが続く記録が観測されてしまいました。
日 | 最高気温 | 最低気温 |
---|---|---|
7月21日 | 31.2℃ | 22.3℃ |
7月22日 | 30.6℃ | 21.4℃ |
7月23日 | 30.3℃ | 22.0℃ |
7月24日 | 32.1℃ | 22.7℃ |
7月25日 | 32.5℃ | 22.7℃ |
7月26日 | 31.4℃ | 22.1℃ |
7月27日 | 31.8℃ | 20.3℃ |
7月28日 | 35.1℃ | 22.7℃ |
7月29日 | 30.2℃ | 23.9℃ |
7月30日 | 31.0℃ | 23.5℃ |
7月31日 | 34.7℃ | 22.6℃ |
日 | 最高気温 | 最低気温 |
---|---|---|
8月1日 | 32.6℃ | 24.8℃ |
8月2日 | 31.3 ℃ | 24.2℃ |
8月3日 | 34.4℃ | 23.7℃ |
8月4日 | 33.1℃ | 25.0℃ |
8月5日 | 33.4℃ | 24.1℃ |
8月6日 | 35.0℃ | 25.3℃ |
8月7日 | 31.9℃ | 25.1℃ |
上記のデータが、その2021年の真夏日が連続した期間の気温です。大まかに言えば、首都圏(東京)や京阪神(大阪など)の真夏の気温が「少し涼しくなった」くらいのイメージであり、内陸部で朝の気温がやや下がりやすい地域であれば、本州のどこでもよく見られるような夏の気温になっています。朝の気温は熱帯夜になることは流石にまれですが、昼間の暑さはなかなかのものです。
このデータだけ見れば、札幌にエアコンが不要。とは言えません。
また、2023年の夏も過酷な暑さとなり、真夏日の継続日数は2021年には及ばずとも、平均気温は2021年を大幅に上回り、かつての首都圏並みの気温となりました。
但し、近年でも10日前後からそれ以下の数日程度しか観測されない場合もあります。それほど真夏日が多くない夏であれば、せいぜい扇風機の使用だけ、場合によっては風通しをよくする・服装を調整する・水分補給をしっかりするだけで乗り切れる。そう考える人が一定数いてもおかしくはありません。
年による暑さの違い、朝の気温はやり過ごせる場合が多い。こういった事情があって、札幌のエアコン保有状況は「持つ派」と「持たない派」に未だ二分されていると言える訳なのです。
結局エアコンは必要なのか
2021年・2023年のような夏の気温がより長期間で一般化していくと、エアコンは健康の観点からも必要になって来る。これは現実と言える状況です。
一方で、温暖化の動向、進み具合などははっきり予測出来るとは限らないため、どの程度の頻度で暑い夏が一般化するのか、またどの程度の期間継続するのかについては、断定的なことは言えません。
札幌におけるエアコンの必要性については、ざっくりまとめれば以下のような状況に集約されます。
・2021年、2023年のように、本州に近いような『エアコンの必要性が高まる』夏になることがある
・それ以外の年の多くも、近年では年間10~15日くらいは『エアコンが欲しい』気温になることが多い
・年によっては「やり過ごせる」気温が多い場合も
・札幌都心周辺のように「ヒートアイランド」の影響が強い場所を除き、昼間暑くなる可能性と比べ、夜寝苦しくなる可能性は低い
・気温が特に低い年は、そもそも数日程度しか真夏日にならないことがある
こういった状況で、果たしてエアコンを所有したいと思うか。
これは、近年は明らかに「エアコンが必要」な方向に強く傾いてきているとは言え、必ずしも首都圏などより暑い地域と同等の「動機づけ」までには至らない、少し微妙な状況と言えるでしょう。
もちろん、熱中症対策という観点からは厳密には夏に暑い日が少しでもあればあった方が良い。ということになりますが、昼間在宅することがほぼない。であるとか、適度な日陰・風通しの良さによって室温が28℃以上になることが少ない。といった場合、また札幌市内でも都心部ではなく郊外に住んでいるため朝晩はかなり涼しいという方もいらっしゃる中で、保有する世帯とそうでない世帯に割れているということになっている現状があります。
そういったことで、今後も根本的な気候変動(完全に本州と同じ気温になるような極端な変化)がない限り、また次項で解説する「寒冷地用エアコン」が一層普及しない限り、札幌のエアコン普及率が突然首都圏など本州の温暖な地域並みまで増えることはないと推定されます。
寒冷地用エアコンの状況次第?
夏の暑さで見た場合、エアコンが次第に普及するような状況が進んできている札幌ですが、必ずしも大多数がエアコンを備えているという状況には至っていません。
しかしながら、近年では冬の暖房に用いることを想定した「寒冷地用エアコン」の性能が上昇しているため、夏が少しでも暑くなるなら、エアコンを買ってしまおう。という動機付けに一部でつながっている側面もあります。
札幌を含む北海道の冬の暖房は、セントラルヒーティング・FFストーブなど灯油を使用するものが多くを占め、この他ガス暖房も多く見られます。
一方で、寒冷地用エアコンの普及状況はまだ割合としては低く、全体から見ると少数派です。しかし、その性能が上昇してきていることから、セントラルヒーティングを設置していない建物などを中心に、エアコンで冬を乗り切る世帯も増えてきているとされます。
北海道の場合、灯油による暖房というものが、設備や配送といった点も含め、一つの大きな産業として成立していますので、住宅を建設する時も灯油暖房・灯油タンクの存在を前提としていることが多いですが、今後は「夏に暑くなる日も多いし、エアコンにしてみるか」という選択が、長期的には一層広がる可能性もあるでしょう。
もちろん、だからといってエアコン普及率が突如爆発的に上がり、東京などと同水準になることは考えにくいですが、今後のエアコン普及状況のカギを握るのは、夏の暑さだけではなく、冬の暖房も合わせて考える場合のエアコンの必要性なのではないでしょうか。