近畿地方では最も南側に位置する和歌山県は、広く「温暖」なイメージが持たれており、実際に気温は近畿地方のより北側の地域よりは高い傾向があります。
一方で、年間全体の気温ではなく「夏の暑さ」という点に絞って考えると、和歌山だから暑い。とは言い切れない状況も見られ、実際の気温は地域によって様々です。
こちらでは、和歌山県の夏の気温についてその傾向・特徴を地域ごとに解説していきたいと思います。
和歌山市の「夏の気温」
県内では気温が最も高い地域
和歌山市の市街地一帯は、和歌山県内では夏の気温が最も高い地域です。
全体的な平均気温で見ると、県内では和歌山地方気象台の観測データが最も高い気温となっており、最低気温の平均、熱帯夜の日数も県内1位の数字が見られます。
なお、最高気温のデータについては、後述するように紀の川沿いの内陸部(かつらぎ)の方が高いため、昼間の気温が最も暑い地域という訳ではありません。
大阪周辺よりはましな暑さ
夏の平均気温 | 8月の平均最高気温 | 真夏日日数 | 猛暑日日数 | 熱帯夜日数 | |
---|---|---|---|---|---|
和歌山 | 26.3℃ | 32.6℃ | 65.8日 | 6.2日 | 32.8日 |
大阪 | 26.8℃ | 33.7℃ | 74.9日 | 14.5日 | 41.5日 |
大阪との差 | -0.5℃ | -1.1℃ | -9.1日 | -8.3日 | -8.7日 |
県内では最も気温が高い傾向がある和歌山市ですが、近畿地方全体で見た場合、大阪周辺よりはやや気温が低めです。
気温の高さは地形や標高などの自然の条件のみならず、人間の活動(工場や自動車)による熱の「放出」、ビルなどによる熱の「蓄積」といった要因も大きく、これらは一般に「ヒートアイランド現象」と呼ばれます。
和歌山市も都市化が進んでいるため、県内で見れば「ヒートアイランド現象」の影響が出やすい地域ですが、国内2番目の大都市である大阪の「ヒートアイランド現象」は強烈なもので、特に「猛暑日」日数では和歌山の2倍以上となっています。
和歌山県内(和歌山市以外)の「夏の気温」
紀の川流域では「酷暑」の傾向
和歌山県内で最も夏の暑さが厳しい地域は、紀の川流域の海から離れた地域、かつらぎ町や橋本市一帯の市街地周辺です。
こちらは、紀伊山地と和泉山脈に囲まれた狭い地形となっており熱が溜まりやすいほか、山地を越える風が温度を上げて熱風として吹き込む「フェーン現象」が起こりやすく、県内では唯一年平均「10日以上」の「猛暑日(最高気温35℃以上)」が観測される地域となっています。
なお、内陸部であり都市化も和歌山市ほど進んでいないため、夜になると気温は下がりやすく、熱帯夜になることはほぼないなど、昼間は酷暑でも朝晩は涼しい「気温差」の大きさが特徴でもあります。
海沿いは涼しい?
地点名 | 8月の平均最高気温 | 和歌山地方気象台との差 | 大阪管区気象台との差 |
---|---|---|---|
南紀白浜 | 31.3℃ | -1.3℃ | -2.4℃ |
潮岬 | 29.8℃ | -2.8℃ | -3.9℃ |
新宮 | 30.9℃ | -1.7℃ | -2.8℃ |
和歌山県内の気象観測地点を見ると、海に近く海からの風が入りやすい場所は、基本的にほぼ例外なく夏の「昼間の暑さ」は抑えられる傾向があり、どちらかといえば涼しい地域となっています。
最高気温の平均値は和歌山や京阪神と比べ概ね1~4℃程度低く、変動が小さい海水温の影響を受けることから、最高気温が35℃を越える猛暑日となるケースは珍しい環境です。
とりわけ、海に突き出した地形の潮岬周辺は常に海からの風を受けるため、これまでに猛暑日を観測した記録は「約110年で2回のみ」という少なさで、和歌山市内などとは全く異なる気温の条件が見られます。
なお、変動の小さい海水温の影響が大きいということは、逆に朝晩は気温が下がりにくい(1日の気温差がやや小さい)ことになるため、「熱帯夜」は比較的多い環境となっています。
山間部の朝晩はひんやり?
地点名 | 8月の平均最低気温 | ←和歌山地方気象台との差 | 平成以降の最低気温記録(8月) |
---|---|---|---|
高野山 | 18.8℃ | -5.3℃ | 11.8℃(1997年8月31日) |
清水 | 21.1℃ | -4.0℃ | 13.9℃(2009年8月25日) |
龍神 | 20.7℃ | -4.4℃ | 13.7℃(2018年8月18日) |
栗栖川 | 21.6℃ | -3.5℃ | 13.4℃(2002年8月22日) |
西川 | 21.6℃ | -3.5℃ | 13.8℃(2002年8月21日) |
県内は海沿いを離れると、多くの地域で山深い「紀伊山地」一帯となっており、標高が高い地域も目立ちます。
山間部は海からの風が入りにくく、地上の熱が夜間になると逃げていく「放射冷却」が発生しやすい環境のため、昼間はある程度暑くても朝晩は気温がかなり下がり、田辺市の龍神地区の一部・高野山一帯など標高が500m程度以上の地域では、真夏の最低気温が20℃以下となることが一般的です。
また、標高がそれほど高くない地域でも山沿いであれば気温はやはり下がりやすく、まれに最低気温が15℃前後の「肌寒さ」を感じる気温が観測されるケースがあります。
最低気温の平均値は、和歌山市街地と比べると4~6℃程度低い傾向があり、数字のみならず「体感」でもかなりの気温差が感じられるほどです。
近畿地方の南部だから「温暖」というイメージは、県全体の平均としては間違っていませんが、山沿いでは「寝苦しい」どころか「寝冷え」に注意が必要な気温になることがありますので、地域ごとに気候は大きく違うという点を理解しておく必要があります。
なお、昼間の気温については猛暑日こそ少ないものの、30℃以上の暑さになる場合は一部(高野山・護摩壇山など標高の高い地域)を除き多めですので、朝晩の気温ほどの差は生じません。