データから考える和歌山県の「雨」【降りやすい地域・時期など】

自然・気候

近畿地方では最も南側に位置する県である和歌山県。

和歌山県は、一般に「温暖」な地域とされ、太平洋(海)からの気候的影響を受けやすいことでも知られています。

また、台風や前線などの影響で頻繁に大雨となり、災害関連のニュースで和歌山県内が取り上げられることもしばしば見られます。

こちらでは、和歌山県内における「雨」の状況について、気象データなどを参考にしながら、雨の多い地域・雨の多い時期など、その特徴を詳しく見て行きたいと思います。

雨が多いのはどこ?

和歌山県内では、非常に大まかに言えば「南」へ行くほど、そして「東」へ行くほど雨が多くなります。

新宮市・勝浦町・古座川町の山地は、全国的にみてもかなり雨が多い地域で、年間降水量は平均4,000mm近い場所もあり、多い年は5,000mm以上の降水量が観測されます。

和歌山市や紀ノ川流域の平地は環境が全く異なり、どちらかと言えば降水量は「大阪寄り」の数字となり、1,500mm前後と多くありません。

雨量の大まかな目安
(地域の中心部の場合)
自治体・地域
年間平均3,000mm以上新宮市・田辺市龍神地区・古座川町・勝浦町
年間平均2,500mm以上田辺市(中辺路・本宮地区)・すさみ町・串本町・太地町
年間平均2,000mm以上田辺市(旧田辺市地区)・白浜町・上富田町・みなべ町・印南町・高野町
年間平均1,500mm以上海南市・御坊市・日高川町(山地はかなり多い)・由良町・広川町・湯浅町・有田市・有田川町・紀美野町
年間平均1,500mm未満和歌山市・岩出市・紀の川市・橋本市・かつらぎ町・九度山町

和歌山県は、県内における「降水量の差」がかなり大きな地域です。

雨量は概ね南および東へ行くほど増える(紀伊山地一帯)傾向があり、一般的に「紀南」と呼ばれる田辺市以南の地域は、沿岸部も含め雨が多い地域です。

雨は山間部の斜面沿いで特に多くなる傾向があり、場所によっては年間降水量の平均は3,000mmはおろか、4,000mm弱に達する場合もあります。

同じ自治体でも範囲が広い場合、降水量に大きな差が生じる場合もあり、例えば田辺市は東部の山間部と海沿いの西部、日高川町の沿岸部と美山・寒川方面といった山間部で比較した場合、状況によっては年間降水量に1.5倍以上の差が見られます。

雨が多い「時期」はいつ?

和歌山県は、「雨が多い地域」では長期間「雨のシーズン」が続きやすい環境です。

紀南地域では通常3月~10月頃まで雨量が多い(概ね月平均200mm前後~500mm程度)状況が続きやすい環境です。
一方で、和歌山市~紀ノ川沿いの北部平地では、多くの年で雨量は4月頃まではそれほど多くありません。

雨は「梅雨時」と「秋の前半」に特に多く降り、全体的・平均的には両方の雨量差はそれほど目立ちませんが、一部地域では大きな差が生じます。

和歌山県内は、地域によって雨の量のみならず、降りやすいシーズンにもやや違いがあります。

早い時期から湿った気流が入りやすい紀南地域では、春先から既に雨量が急増し、3月の時点から1日100mm単位のかなりまとまった雨量が観測されることがあります。一方で、和歌山市~橋本市周辺の北部平地は、大阪平野や奈良盆地の気候に比較的近いため、まれなケースを除いては春先は雨量がそれほど多くない状態が続き、まとまった雨は概ね5月頃からとなります。

雨量は「梅雨」シーズンの6~7月と「秋雨+台風」が訪れる9月~10月に2つのピークを持ち、台風の影響を受けやすい新宮方面など県の南東側ほど秋の雨量が多い傾向が見られます。

また、梅雨前線の雨雲が流れ込む先(梅雨前線の雨雲は南西側から入りこむ)にあたる田辺市龍神地区では、6~7月の平年雨量が秋と比べかなり多い傾向が見られ、護摩壇山の月間平年雨量(7月)は600mm以上となり、県内の観測地点で年間を通して最も大きい数字となっています。

なぜ雨が多くなるの?

和歌山県内の南部で特に雨が多くなる要因は、「紀伊山地」と「太平洋(黒潮)」影響、この2点に集約されます。

海水温が高い太平洋からは、夏になると南からの湿った気流がどんどん流れ込みます。特に台風接近時などは、台風を周りこむように吹く湿った風が、同じ方角から長時間影響を及ぼします。

湿った気流は、紀伊山地の急斜面にぶつかり強制的に「上昇気流」を発生させ、結果として急激に雨雲が発達します。

台風の接近・前線の停滞など、状況によっては「数日間」湿った気流+上昇気流の影響で大雨が続くケースもあります。

和歌山県の南側で雨量が多くなるメカニズムは、大まかに言えば上記の通りです。

湿った気流が流れ込む場合、その気流が入るだけでも大気が不安定になり雨が増えやすくなりますが、和歌山県の場合、紀伊山地が存在するため、斜面に気流がぶつかって上昇気流が発生する結果、より一層極端に雨が多い天候を生じさせます。

「なぜ上昇気流で雨が降るのか」という点については、「空気中」に「水蒸気」を含むことが出来る量と関係しています。

上昇気流が雨をもたらす構造

1.湿った気流が流れ込む(この状態では必ずしも雨雲ではない場合も)
2.気流が山地にぶつかり「上昇気流」となる
3.空気は高い所へ行くと「温度」が下がる
4.温度が低い空気では、空気中に含むことが出来る「水蒸気(水分)」が少ない性質を持つため、耐えきれず「水蒸気→雲粒→雨粒」となり、雨をもたらす
5.水蒸気量が多く、上昇気流が激しいほど雨は強まる

紀伊山地の険しい地形と、すぐ近くに温暖多湿な空気をもたらす「太平洋」があるという地理的条件は、まさに上記のような雨の発生メカニズムにとって「この上ない」環境となっており、結果非常に雨が多くなっているのです。

なお、最も大雨をもたらしやすい「台風」については、主に風が南東側から吹き込む形になるため、紀伊山地一帯でも、特に海から見て北西側、陸から見て南東側に位置する山地(斜面)では、極端に雨が増える傾向にあります。

台風からの南東の風は、風が入り込む太平洋一帯から離れた和歌山県の北部には、与える影響が限定的となり、和歌山市~紀ノ川沿い・御坊周辺より北側の沿岸部では、それより南側の地域と比べ、雨量や大雨となる頻度はかなり少なくなります。

災害と雨

和歌山県内は、全国的に見ても大雨(豪雨)に伴う水害・土砂災害による被害を多く受けてきた地域です。

県内の雨が多い地域は例えば「大阪・神戸・京都」周辺と比べると「雨に強い」地盤・河川を持つ地域ですが、長時間続く大雨・豪雨では災害が発生する場合があり、近年も比較的規模が大きな災害が発生しています。

災害の名称発生時期概況
紀伊半島大水害(平成23年台風第12号による大雨)2011年8月31日~9月5日死者56人・行方不明者5人
那智勝浦町・新宮市の被害が特に甚大
紀州大水害(昭和28年南紀豪雨)1953年7月16日~7月25日死者600人以上
日高川・有田川周辺で壊滅的被害
明治22年大水害(紀和大水害)1889年8月18日~20日死者1,200人以上
富田川流域で壊滅的被害

過去に発生した災害は、やや規模の小さなものも含めると極めて多く、明治以降では、とりわけ上記の3回の災害が大きな被害をもたらしました。

記憶に新しい2011年の「紀伊半島大水害」は、紀州大水害以降では最も大きな水害であり、数日間に渡り大雨が続いたことから、和歌山県南部から奈良県南部にかけての広範囲で、地形が丸ごと変わってしまうような大規模土砂災害も多発しました。

一見すると「紀北」に位置づけられる和歌山市周辺~橋本市周辺などは災害が少なく見えますが、歴史を見ると紀の川の河川整備が進められる前の時代は大規模水害が一般的であった他、近年でも2017年の台風21号などで紀の川流域の一部が浸水するなど、一部地域では紀の川自体ではなく流れ込む河川の「内水氾濫(紀ノ川の支流が逆流する形で氾濫)」による被害などが発生していますので、大雨災害と無縁の地域ではありません。

まとめ

和歌山県は、特に紀伊山地一帯の南側・東側の地域ほど雨が多い環境です。
和歌山市~紀の川周辺は、大雨となるケースもある一方で、平均的に見た場合は雨はそれほど多くなく、大阪の気候に比較的近くなります。

雨量は新宮・古座川・勝浦方面の一部などは年平均4,000mm近くに及び、全国屈指の「多雨地域」となっています。

雨が多い地域は通常春先から秋の半ばまで降水量が比較的増えやすい時期が続きます。
梅雨時に雨量が特に増えやすい地域、台風シーズンに雨量が特に増えやすい地域など、県内でも地形・地域によって「降りやすい時期」にはやや差も見られます。

雨が多い理由は、「紀伊山地」・「太平洋」の存在によるもので、海からの湿った気流が山の斜面で「上昇気流」となり、雨雲を発達させることが大きな要因です。

雨が多いため「災害」も多く、紀南・紀中地域などを中心に多くの大雨・豪雨災害を経験してきた歴史があります。
近年では2011年の「紀伊半島大水害」によって甚大な被害が発生しています。