【底冷えするのか】奈良の「最低気温」ランキング・冬の気温を考える

自然・気候

奈良と言うと、盆地地形で山岳地帯もあることから「底冷え」するイメージを持たれる方も多いかもしれません。当記事では、そんな奈良の「冬の冷え込み」について「最低気温」の記録などの各種データを見ながら考えていきたいと思います。

奈良地方気象台の最低気温ランキング

1位-7.8℃(1977年2月16日)
2位-7.5℃(1981年2月27日)
3位-7.4℃(1966年2月8日)
4位-7.0℃(1967年1月17日)
5位-6.6℃(1967年12月31日)
6位-6.4℃(1981年2月26日)
7位-6.4℃(1965年1月26日)
8位-6.2℃(1981年2月28日)
9位-6.2℃(1970年1月20日)
10位-6.2℃(1958年1月4日)

奈良地方気象台で観測された最低気温ランキングを見て行くと、最高気温ランキングが近年の観測も多い一方で、こちらのデータは昭和以前の観測記録しかありません。

平成以降のデータを見て行くと、最も気温が下がったのは1997年1月22日の-5.4℃、次いで2012年2月19日の-5.3℃という記録がありますが、マイナス6度台より低い気温は一切観測されていません。

また、2017年には気象台が移転し観測機器の設置場所も変わったため、暖冬傾向もあって気温の下がり方は更に鈍くなっています。例えば気象台移転以前は「どんな冬でも」マイナス3度台までは下がったにも関わらず、2019年の年間最低気温は-2.1℃に留まっており、明らかに観測される気温が上がる傾向が見られます。

奈良-7.8℃(1977年2月16日)東京-9.2℃(1876年1月13日)広島-8.6℃(1917年12月28日)
大阪-7.5℃(1945年1月28日)名古屋-10.3℃(1927年1月24日)新潟-13.0℃(1942年2月12日)
京都-11.9℃(1891年1月16日)福岡-8.2℃(1919年2月5日)金沢-9.7℃(1904年1月27日)
神戸-7.2℃(1981年2月27日)札幌-28.5℃(1929年2月1日)那覇4.9℃(1918年2月20日)
和歌山-6.0℃(1945年1月28日)仙台-11.7℃(1945年1月26日)大津-6.6℃(1981年2月27日)

各地と比較した場合、最低気温ランキングは大きくデータがばらつく他、思いのほか奈良の気温が低く見えない結果となります。

但し、京都のマイナス10度以下の記録など、各地の多くの最低気温記録は都市化が現在ほど進んでいなかった時代、また「温暖化」する前の時代(むしろ少し寒冷な時代)であった19世紀~20世紀前半の気温であるなど「比較対象」としては現実的ではありません。

奈良地方気象台は昭和の戦後になってから観測をはじめた場所なので、もし明治時代から観測をしていた場合、京都と同じかそれ以上に寒い気温を観測していた可能性は十分にあると言えるでしょう。

平均気温・冬日日数で見た場合は?

奈良地方気象台の「平均気温」を見ると、1991年~2020年で区切った平年値は以下の通りになります。

平均気温最高気温平均最低気温平均
12月6.8℃11.6℃3.0℃
1月4.5℃8.7℃0.8℃
2月5.1℃9.9℃1.0℃
3月8.5℃13.9℃3.6℃

この気温は、過去の平年データと比べかなりの上昇傾向にあります。例えば1981年からの平年データでは、最も寒い時期の最低気温平均は「氷点下」でしたが、上記の平年値では全てプラスの気温です。

近年はとりわけ気温の上昇傾向が目立ちます。例えば2011年以降の冬の気温を見ると、以下の通りになっています。

12月平均気温1月平均気温2月平均気温3月平均気温
2011年冬6.9 ℃2.4 ℃5.3 ℃6.2 ℃
2012年冬5.8 ℃3.6 ℃3.3 ℃7.4 ℃
2013年冬4.8 ℃3.4 ℃3.8 ℃9.1 ℃
2014年冬5.9 ℃3.8 ℃4.0 ℃8.2 ℃
2015年冬5.0 ℃4.4 ℃5.1 ℃8.4 ℃
2016年冬8.0 ℃4.9 ℃5.5 ℃8.9 ℃
2017年冬7.2 ℃4.2 ℃4.4 ℃7.6 ℃
2018年冬5.3 ℃3.5 ℃4.0 ℃10.3 ℃
2019年冬7.8 ℃4.7 ℃6.3 ℃9.2 ℃
2020年冬7.7 ℃7.0 ℃6.3 ℃10.0 ℃
2021年冬6.7℃4.7℃7.4℃11.0℃
2022年冬7.3℃3.8℃4.0℃10.1℃
2023年冬6.1℃4.7℃5.4℃11.6℃
2012年12月・2017年3月のデータは不完全
12月最低気温平均1月最低気温平均2月最低気温平均3月最低気温平均
2011年冬2.8℃-1.7 ℃-0.1 ℃0.9 ℃
2012年冬1.8 ℃-0.1 ℃-0.8 ℃2.4 ℃
2013年冬0.6 ℃-0.9 ℃-0.1 ℃2.7 ℃
2014年冬2.1 ℃-1.0 ℃0.1 ℃2.9 ℃
2015年冬1.4 ℃0.8 ℃1.2 ℃3.3 ℃
2016年冬3.5 ℃0.6 ℃0.5 ℃3.2 ℃
2017年冬2.5 ℃0.0 ℃0.0 ℃2.8 ℃
2018年冬1.4 ℃-0.1 ℃-0.2 ℃4.5 ℃
2019年冬4.1 ℃0.7 ℃2.2 ℃4.3 ℃
2020年冬3.5 ℃3.5 ℃2.3 ℃5.3 ℃
2021年冬2.7 ℃1.0℃2.5℃5.5℃
2022年冬3.3℃0.3℃-0.1℃5.1℃
2023年冬2.2℃0.7℃1.2℃5.5℃
2012年12月・2017年3月のデータは不完全
冬日日数の推移

どのデータを見ても、全体的には気温が上がっている傾向があるほか、最低気温が0度を下回る「冬日」日数のデータが最もはっきり示しているように、2017年に気象台を移転してから極端に氷点下になる日数が減っています。

冬日の日数は、2010年以降でも年間60日を越える日があったにも関わらず、観測地点が変わってからは近年まれに見る寒さであった2018年でも40日を上回ることがなく、暖冬であった2019・2020年には10日前後に留まるなど、異様な下がり方を見せています。

なお、2021年1月の平均気温を全国各地と比べると以下のようになります。

奈良4.7℃東京5.4℃広島5.2℃
大阪6.2℃名古屋5.0℃新潟1.9℃
京都5.1℃福岡7.0℃金沢3.9℃
神戸6.1℃札幌-4.4℃那覇16.8℃
和歌山6.3℃仙台1.2℃大津4.2℃

近畿地方では大津に次いで平均気温が低いとは言え、京都や名古屋・広島との差はごくわずかで、かつてと比べて明らかに各地との気温差が縮小している結果となっています。

盆地であり冷え込みやすい・底冷えのする奈良。というイメージであったものが、気象観測地点の移転後は「都心部よりちょっと冷え込むくらい」にデータ上変わって来ているのです。

なお、かつての奈良地方気象台の観測機器は、市内北部(半田開町)の市街地から少しだけ離れた高台にありました。現在の観測地点(循環道路真横の東紀寺町の学校敷地内)と比べると、自然豊かな環境であり、本来の市街地の気温よりも「低め」に観測されやすかった可能性があります。

その意味では、現在の「高くなった」後の冬の気温の方が、奈良の街で観測される「実際の気温」に近いデータとも言えるかもしれませんので、必ずしもデータの変化は問題とは言えないでしょう。

奈良県内各地の冬の気温は?

冬の気温について、奈良地方気象台だけではなく、県内各地の観測地点のデータを見て行くとどのような傾向があるのでしょうか。

一例として、大暖冬であった2020年冬のデータを以下に示します。

観測地点12月平均気温1月平均気温2月平均気温3月平均気温標高
奈良地方気象台7.7℃7.0℃6.3℃10.0℃102m
針アメダス4.5℃3.7℃3.0℃6.6℃468m
五條アメダス6.4℃5.8℃5.2℃8.8℃190m
大宇陀アメダス5.0℃4.5℃3.7℃7.5℃349m
風屋アメダス6.8℃5.8℃5.0℃8.8℃301m
上北山アメダス6.3℃5.1℃4.7℃8.6℃334m

このように、都市部に位置する奈良地方気象台に比べ、それ以外の地域は標高の高さなどに応じて気温は低めになっています。

特に山間部で冷え込みやすい針アメダスなどは、寒い年には平均気温がマイナスになることもあるなど、東北並みといっても過言ではない気候条件となっており、県内でも奈良市街地など盆地一帯の人口密集地と、それ以外の内陸部・山間部では寒さの感じ方は大きく異なって来ます。

観測地点の移転で冬日が激減した奈良地方気象台ですが、それ以外の地点では冬日は未だ多く、100日単位で観測されることもあるなど、あくまでも氷点下の冷え込みがやや少な目なのは奈良市街地など盆地エリアの人口密集地に限られると言って良い状況です。

まとめ

奈良の冬の気温は、一般に底冷えしやすいと言われる環境で、実際に山間部や内陸部ではかなりの寒さになりますが、奈良市街地中心部などの人口の多いエリアでは大都市圏と比べ「やや冷え込みやすい」程度の環境とも言えます。

とりわけ近年は気象観測機器の移転もあり、市街地の実際の気温がかつての観測データよりも高めであることがはっきりしつつあり、氷点下が当たり前とされてきた冬の奈良の冷え込みが、暖冬の年には「冬日」が10日ほどしかないなど、都市部では思ったほどの冷え込みが見られなくなりつつあります。
なお、山間部では冬日日数が100日前後になることもあり、地域差がかなり大きい点は留意が必要です。