奈良市・奈良県には富裕層(お金持ち)が多いって本当?貯蓄額全国1位の謎を考える

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多数の世界遺産に指定された寺社のある「古都」である奈良市。

奈良市は観光都市としては全国的な知名度を有していますが、「まち」や「生活」単位で見た場合には、実は「富裕層(お金持ち)」が多い都市としての側面があることでも知られています。

こちらのページでは、その奈良市(奈良県)の「富裕度」という特徴について、その内容や歴史的背景・要因等を考えていきます。

預貯金の額が全国トップ?

自治体ごとの「富裕層」の多さを把握する手段は、統計的には総務省統計局が実施している家計調査を見ると、貯蓄額という一番わかりやすい指標を見る事が出来ます。

この家計調査のデータを見ていくと、奈良市の順位は統計のずれもあるため年によって差がありますが、近い年では2018年以前には数年間に渡り全国の県庁所在地で1位となっており、それ以外の年でも基本的には上位に入っています。

金額としては、年によって統計のずれはありますが、概ね2000万円程度から2700万円程度となっており、1000万円前後の数字が見られる東北北部・九州沖縄地方の一部と比べると倍以上の貯蓄額になっていますし、東京23区や横浜市といった日本の「富裕層」が極度に集中する大都市と比べてもほぼ同額と、地方都市の中で見ると奈良市の貯蓄額の多さは際立つ形になっています。

また、その貯蓄の内訳は現金・有価証券・定期預金・生命保険などがバランスよく保有されており、特定の資産に偏っているという訳でもありません。また、負債が少ない傾向があり、純貯蓄額として見た場合、より奈良の貯蓄傾向が強く見られます。

なお、必ずしも奈良県内で奈良市だけがそうなのではなく、奈良県全体の統計で見ても同じ傾向が見られます。地方の県は一般にそれほど富裕度は高くない傾向がありますが、奈良に関してはなぜか「田舎」も含めて貯蓄額が多いとされているのです。

ザ・昭和の郊外高級住宅地がずらり

さて、奈良に富裕層が多いと言っても「数字」では分かっても、実際の風景としては「ピンと来ない」方も多いかもしれません。

なんといっても、奈良には東京のような超高級タワーマンションや、兵庫の芦屋市の一部で見られるような富裕層しか立ち入り出来ない「ゲーテッドコミュニティ」は一切ありませんし、東京や大阪の都心のように、いかにもお金を持っていそうな人が高級な車両で乗り付けているような姿がよく見られる訳でもありません。

そんな奈良市内で、あくまでも一つの事例に過ぎませんが、「富裕度」を裏付けるとされるのは、主に奈良市西部に広がる郊外の「高級住宅地」。

具体的には市内の近鉄学園前駅周辺の「学園北・学園南」地区、また学園前駅と富雄駅の間に広がる「百楽園」地区、学園前駅から北に離れた「登美ヶ丘・中登美ケ丘」地区の一部等は、明らかに敷地面積・建物面積の広い「豪邸」が立ち並ぶエリアとなっています。

高級住宅地のエリアは比較的広く、その規模は芦屋や苦楽園エリアには及ばずとも、それに次ぐ関西有数のスケールと言え、現在でも億単位の値段が付くような不動産が見られます。

なお、これらの住宅地は、昭和の中頃以降に急速に開発された住宅街であり、その居住者の方は様々ですが、バブル期にかけて大阪でビジネスを行い富を築いた人々や、有名大企業の幹部クラスの住居なども一般的には多いとされています。

令和の現在においては、「風景」からは新しさを感じるような住宅街ではなく、風格ある「昭和のニュータウン」と言えそうな状況ではありますが、現在もいわゆる富裕層の方が多く居住されています。

また、このようなわかりやすい高級住宅街以外の地域も、それなりの敷地面積を持つ「戸建て」が奈良市西部にはずらりと並んでいます。後述していく通り、実際には豪邸にお住まいの富裕層だけではなく、生活基盤が分厚い世帯が満遍なく居住されている点が、奈良市民の平均貯蓄額を大きく底上げしている側面があると言えるでしょう。

「剪定ゴミ」の大量発生や「耐久消費財普及率」といった指標も

上述したようなわかりやすい「高級住宅地」のみならず、奈良の「富裕度」を反映する具体例としては、「剪定ゴミ」の多さや、「耐久消費財普及率」の高さという特徴を挙げる事が出来ます。

まず剪定ゴミについては、これは要するに木々を伐採したり剪定した結果生まれる木くずや葉っぱの事を指すものですが、奈良ではこのゴミが日本一多いと言われており、かつてニュースに取り上げられた事すらあります。

剪定ゴミは、基本的に「お庭」の「植木」から発生するものですので、マンションやハイツ・アパート等にお住まいの場合にはほとんど発生することはありません。

つまり、奈良の剪定ゴミの多さはひとえに「一戸建て住宅」の多さ、それも「それなりの広さで、お庭のある」一戸建て住宅の多さを反映している訳なのです。

実際に、奈良市内には先述した百楽園や登美ヶ丘地区等の高級住宅地に留まらず、比較的敷地面積の広い一戸建て住宅はあちこちに存在します。広い一戸建てが多いということは、おのずから富裕度も比較的高いという事になる訳です。

また、「耐久消費財普及率」についても、総務省の「全国消費実態調査」によれば、大半の耐久消費財において、常に上位をキープしていることが伺えます。

例えばピアノ、またたんすや学習机など、「広いおうち」に置かれやすいような楽器・家具類は全国と比べても奈良の保有率は高くなっています。

また、ビデオレコーダーや空気清浄機、デスクトップパソコンといった家電の普及率も高くなっています。

一戸建ての住宅が多く、自宅に設置する耐久消費財も充実している。奈良の富裕度は、一部が突出したものというよりは、比較的広い階層に及ぶ「豊かさ」を反映しているとも言えるでしょう。

なぜ富裕層が多い都市になったのか

やはり存在する「貯蓄文化」?

貯蓄額ベースで見ると富裕度が日本トップレベルである奈良のまちは、なぜそんな特徴を持つに至ったのか。それを考えると、まずは奈良の特徴としての「貯蓄文化」とも言える基盤を否定する事は出来ません。

奈良県一般に言える事として、閉鎖的ではないがやや保守的であり、日々の生活をごくごく「普通=堅実」に送るという県民の特徴のようなものが指摘されることがありますが、それは経済的基盤の確保といった観点からは「強み」として機能しうるものです。

「県民性」という概念自体がステレオタイプ的で、そんなものなんてあるのか?という疑念は当然あり得るでしょうが、現実的に奈良の風景を見て、堅実な貯蓄文化の存在を否定する事はなかなか難しいとも言えます。

後述するように、奈良の「富裕度」は、必ずしも「セレブ」や「大富豪」のようなステレオタイプで語られるものと言うよりは、一般的な勤め人の方の堅実な生活、中小企業経営者による堅実なビジネスの展開、実家の資産の継承といった中で形成されたものと言えます。その上では、堅実な「貯蓄文化」の存在は、年収水準を問わず、経済的レベルの底上げに大きく寄与したと言えるでしょう。

過剰なまでの「ベッドタウン」としての一時代

奈良における一定の富裕層の多さというものは、貯蓄文化もさることながら、大阪の大ベッドタウンとして発展した歴史を切り離すことは出来ません。

現在こそその地位はやや薄れつつあるものの、昭和の中頃以降、奈良市や県内北西部のあちこちで大規模な住宅開発が行われ、先に述べたような百楽園や登美ヶ丘といった高級住宅街も整備され、いわゆる大阪都心の大企業に勤めるサラリーマン・公務員、また経営者・実業家等が奈良に大勢居住するような図式が生まれました。

奈良のベッドタウンに住んでいる方々は、おおざっぱに言えば日本にとって「景気が良かった」時代を知っている世代が多く(団塊の世代)、現在は高齢化が進んでいる一方、在職時代の比較的高額の所得や、充実した年金支給により資産は多い傾向があり、その上資産運用をバランスよく行っている方も少なくないため、その結果「貯蓄額」が日本トップレベルになっている訳なのです。

すなわち、奈良の「貯蓄額」の高さは「現役世代」だけではなく、相当の比重が「退職者・リタイア後」の方々の資産状況を反映したものとも言えます。

なお、統計調査を見れば、神戸市や横浜市・さいたま市・大津市等、拠点都市である一方「ベッドタウン」としての性質が強い都市の貯蓄額も高い傾向がありますが、奈良の場合は拠点性は薄い上に「ベッドタウン」としての性質だけが強かった歴史もあるため、これまで貯蓄額が「全国の県庁所在地トップ」になることが多かったとも言えるでしょう。

奈良の富裕度は「堅実さ」故に「見えにくい」

「貯蓄文化」と「ベッドタウン」の相乗効果とも言える構図により、全国トップレベルの資産を持つようになった奈良市やその周辺のエリア。

これまでの解説からもなんとなくご理解頂けたかと思いますが、奈良には首都圏や京阪神の都心部のように驚くようなセレブ・富豪が多数住んでいる訳ではありません。

タワーマンションもなければ、高級リゾートマンションもなく、ゲーテッドコミュニティもない。

奈良には先述の通りある程度の規模を持った「高級住宅地」があり、一部にはかなりの豪邸もありますが、市全体として見れば「それなりに広い一戸建て住宅」がたくさんある。という点の方が目立ちますので、風景からはその「富裕度」は見えてきません。

しかし、全体として見た場合には、その「堅実」で「相応」の暮らしぶりというものが、統計としては全国トップの貯蓄額というデータで現れて来る。奈良の富裕度というものは、そのような実直で堅実な生活文化の反映とも言える訳なのです。

ずば抜けた資産を持つ富豪ではなく、大企業の社員や公務員、また企業・組織の幹部クラスであった方々が、日本が比較的景気の良かった時代の「名残」として多くの資産を保有している。言い換えれば、団塊の世代の経済環境を最も色濃く反映している。

それが奈良という街の、実に「見えにくい」一定の富裕度に現れている訳なのです。

なお、奈良という地域は、とりわけ北西部エリアにおいては、現在でもやや過剰なまでの「学歴志向」が見られたり(人口流出が多い)、その裏返しとして県庁所在地としては全国でもかなりはっきりとした少子化が進んでいる等、今後の構造的な状況については楽観視できる内容はありません。

ベッドタウンとしての一時代の反映が「終わり」を迎えた先には、貯蓄文化は残ったとしても、これまで程には「富裕度」がクローズアップされることもなくなっていくとも言えるでしょう。但し、各世帯の貯蓄額が多いということは、それが次世代に結局は継承され、分厚い資産管理の「世襲」が行われる可能性も大きいでしょう。

まとめ

奈良市は、総務省の「家計調査」の統計データからは、日本で最も貯蓄額(資産保有)が多い県庁所在地の一つとなっています。貯蓄額は全国1位が続いた期間もあり、1位でない年も上位に位置づけられる状況です。この20年程の統計上の貯蓄額を平均すると2000万円~2700万円程度の数字となっています。

奈良の富裕度というものは、奈良に存在する「貯蓄文化」とも言える生活上の堅実さ、そして何よりも大阪のベッドタウンとして大きく発展してきた(大企業の社員や公務員、各種組織の幹部クラスが多く居住した)歴史に由来するものです。

奈良のベッドタウン住民には、大企業の社員・公務員・各種幹部クラス・実業家であった方々等も多く、大雑把に言えば「景気が良かった時代」を知っている「団塊の世代」周辺の方々が、着実に積み上げた資産が反映されている側面が少なくありません(現役世代の富裕度とは限らない)。

奈良の富裕度は、見えにくいものではありますが、具体的な指標としては「剪定ゴミ」の多さ(広い一戸建て住宅が多い証)や、ピアノ・たんす・各種家電といった「耐久消費財」の保有率の高さ等に反映されています。いずれにしても、突出した富裕層というよりは、比較的広い対象に及ぶ「豊かさ」を反映している訳なのです。

今後については、他県を上回るような人口減少ペースや少子化、また資産を持つ世代からの人口面での世代交代によって、貯蓄額の高さが維持されるかは不透明と言えます。但し、貯蓄の構造は世代継承されうるため、大きな図式が変わるかどうかはわかりません。