近鉄の支線系統の現状・今後は?公有民営化などが進むのか

基礎知識・お役立ち情報

2021年5月に発表された近鉄グループホールディングスの中期経営計画では、新型コロナウイルスによる大きなダメージを受けたことから、今後の効率化・合理化をいかに進めるかを中心に記述がなされ、コロナ前の「勢いのある(フリーゲージトレイン計画など)」経営計画とは大きく異なる構図が見られる形になりました。

その中でも特筆すべき内容としては、鉄道事業の効率化の一環として「支線については、一層のコスト削減に加え、今後の運営体制を抜本的に検討」という記述がしっかり明記されている点が挙げられます。

「今後の運営体制」という表現は、要するに現在の「近畿日本鉄道直営」ではない運営体制も視野に入れた記述であると解釈するのが一般論となりますが、こちらでは近鉄の「支線」が置かれている現状を概観しながら、今後の状況について考えていきたいと思います。

「支線」とは何を意味するのか

近鉄西田原本駅
典型的な近鉄の支線「田原本線」の始発駅「西田原本駅」

近鉄電車の路線について、一般に「支線」と呼ばれているものは、いわば「本線」のような役割を果たしている「奈良線」・「大阪線」・「京都線・橿原線」・「名古屋線」・「南大阪線」から乗り継いで利用するような路線となっています。

一部列車を除き本線系統から乗り継ぎが必要な「支線」は以下の通りです。

路線名区間
生駒線生駒駅(奈良線と接続)~王寺駅(JR線・田原本線と接続)
天理線平端駅(橿原線と接続)~天理駅(JR線と接続)
田原本線新王寺駅(JR線・生駒線と接続)~西田原本駅(橿原線と接続)
道明寺線道明寺駅(南大阪線と接続)~柏原駅(JR線と接続)
御所線尺土駅(南大阪線と接続)~近鉄御所駅
信貴線河内山本駅(大阪線と接続)~信貴山口駅
鈴鹿線伊勢若松駅(名古屋線と接続)~平田町駅
湯の山線近鉄四日市駅(名古屋線と接続)~湯の山温泉駅

このほか、南大阪線系統・名古屋(山田)線系統として一体的な運行がなされている一方、実質的に「ローカル線」としての解釈が一般的な路線としては吉野線・鳥羽線・志摩線があります。

路線区間
吉野線橿原神宮前駅~吉野駅(南大阪線から乗り入れる列車も多い)
鳥羽線宇治山田駅~鳥羽駅(名古屋・大阪方面から特急が多数乗り入れ)
志摩線鳥羽駅~賢島駅(名古屋・大阪方面から特急が多数乗り入れ)

また、主要路線とは異なる一方、運行形態や利用者数の観点から「支線」としてローカル線扱いすることは出来ない路線としては以下の路線があります。

路線区間
けいはんな線長田駅~学研奈良登美ヶ丘駅(大阪メトロ中央線と直通運転)
長野線古市駅~河内長野駅(原則として南大阪線と直通運転)

利用が激減する支線系統

近鉄御所駅
近鉄御所線「御所駅」

近鉄の各路線が置かれている環境は、平成に入ってから現在に至るまでの30年以上、長年に渡り既に厳しい状況にあります。

都心部や利便性の高い地域の人口が堅調に推移する一方、近鉄各線が沿線とする大都市郊外(昭和に開発されたベッドタウン)や地方部の人口は減少傾向となり、近鉄の各路線を見た場合「奈良線」や「大阪線」のような主要路線であっても利用者数はピーク時の概ね3分の2~半分強程度にコロナ前の時点で減っており、これまでも様々な「合理化」が行われてきました。

支線系統は、人口減少・少子高齢化の影響を一層強く受ける地域を運行している場合が多く、利用者数の減少幅は一層大きく、最盛期の半分に満たない利用状況となっている所もあります。

近鉄御所駅の1日平均乗車人数(単位:人)

わかりやすいデータとしては、近鉄御所駅の利用者数データ(参考:奈良県統計年鑑・年間データを日単位で再計算)を見るとその「厳しすぎる状況」をはっきり見て取ることが可能です。

少子高齢化が現在ほど進んでいなかった平成初頭は通勤客や学生の利用が大変多く、1日4000人を越える利用があったものが、平成の終わりまでに2000人を割り込むなど「半減」以下となっています。御所市の人口減少は極端なペースになっており、増える要因など一切ありません。

また、このデータはコロナ禍に見舞われた2020年以降は反映していませんので、現在は半減はおろか、3分の1程度まで減ってしまっている可能性すらあります。

御所駅に限らず、田原本線や信貴線なども半減と言ってよいペースで利用が減少している線区があり、減少率がやや緩やかな三重県内の鈴鹿線などもありますが、いずれにせよ「利用が増えている支線」など現在の近鉄線にはありません(支線と言えるか微妙な「けいはんな線」を除く)。

2021年7月ダイヤ改正で減便実施

支線系統については、これまでのダイヤ改正でも多くの路線で合理化(一部時間帯の減便など)が行われてきましたが、コロナ禍を受けて実施された2021年7月3日のダイヤ改正では、昼間時間帯の大幅減便など、やや踏み込んだ形の対応がとられました。

主な変更内容としては以下の通りです。

御所線

昼間時間帯の運行本数が15分おき=1時間4本から、30分おき=1時間2本に大幅減便となりました。

田原本線

昼間時間帯の運行本数について、30分間隔=1時間2本の運行時間帯が大幅に拡大され、朝夕ラッシュ時も約15分おき=1時間4本から、20分間隔=1時間3本に減便されました。

天理線

橿原線・京都線への直通電車が大幅に減り、大半の電車が線内のみの運行(天理駅~平端駅間)となりました。

志摩線

鳥羽駅~賢島駅間で運行されている普通電車について、昼間時間帯の運行本数が30分おき=1時間2本から、1時間に1本の運行に大幅減便となりました。

吉野線

運行本数に大きな変化はありませんが、昼間時間帯に大阪阿部野橋駅まで運行されていた急行が普通電車の橿原神宮前行きに変わっています。

既に近鉄直営から離れた支線も

近鉄の歴史を見ていくと、「支線」とされてきた路線の中には、既に近鉄直営から離れ、異なる形態で運営されている路線も複数あります。

これらの運営見直しは、近鉄グループの合理化施策の一環として行われ、運行本数などは大きな変化がない場合も多いものの、「運賃」は別会社として切り離されたことで近鉄線との通算運賃ではなくなり、近鉄線に乗り継いで名古屋や大阪方面へ移動する際の運賃負担は実質的に大幅値上げとなる形になりました。

路線区間・経緯
伊賀線伊賀神戸駅~伊賀上野駅間
・2007年より子会社の伊賀鉄道の運営
・2014年からは設備が伊賀市保有の「公有民営」化
養老線桑名駅~大垣駅~揖斐駅間
・2007年より子会社の養老鉄道の運営
・2018年より設備が養老線管理機構保有の実質「公有民営」化
北勢線西桑名駅~阿下喜駅間
・2003年に同地区で三岐線を運営する三岐鉄道に譲渡
内部・八王子線四日市駅~内部駅・西日野駅間
・2015年より四日市あすなろう鉄道の運営、当初より設備は四日市市の保有(公有民営)

現在までに近鉄の直営を離れた路線は、いずれも三重県内を通る(養老線は岐阜県内も通過)路線であり、奈良県・大阪府の路線には「合理化」の鉄槌は下されていません。

今後の「支線」のゆくえは?全国基準では「優良ローカル線」?

さて、これまで解説してきたように、近鉄の「支線」に関しては既に経営分離されて合理化されている路線と、急速な利用者数減少に苦しみながらも「近鉄直営」で運営されている路線があり、直営路線についてもコロナ禍を受け「運営体制」の抜本的検討が行われる運びとなっています。

今後については、近鉄の公式発表や方針の発表がない限り断定的なことは言えませんが、一般論としては一定の時間をかけながら直営の支線のうち、特に採算が悪く利用者数が少ない路線については、これまで経営分離されてきた路線と同じように分社化と公設民営化が行われる可能性はあるかもしれません。

なお、鉄道の「合理化」というと「廃止」をすぐに連想される方も多いですが、近鉄の支線については現時点では廃止の可能性はほぼない・極めて考えにくいと言えます。

各支線は先述の通り利用は急減していますが、JRのローカル線で抜本的な見直しが検討されるような路線(芸備線庄原方面・越美北線・小浜線など)と比べると、天と地の差があると言えるほどに「利用は未だ多い」路線が目立ち、桜井線・草津線といったJRの利用が多めのローカル線と同等かそれ以上の利用状況が見られます。

支線系統やローカル線系統の主要駅利用者数を見ると、以下のような状況となっています(データはコロナ禍前のもの・全ての主要駅を掲載している訳ではありません)。

駅名1日当たり乗車人員
天理線:天理駅6,518人
生駒線:王寺駅5,060人
田原本線:新王寺駅4,012人
鈴鹿線:平田町駅3,248人
道明寺線:柏原駅3,304人
生駒線:南生駒駅2,922人
生駒線:一分駅2,774人
湯の山線:桜駅1,911人
御所線:近鉄御所駅1,910人
鳥羽線・志摩線:鳥羽駅1,789人
吉野線:下市口駅1,478人
信貴線:服部川駅1,043人
データは最新年の「奈良県統計年鑑」・「大阪府統計年鑑」・「三重県統計年鑑」に基づく

生駒線・天理線の場合は通勤・通学路線として乗り降りベースでは万単位の人の動きが見られますし、道明寺線・田原本線・鈴鹿線でも数千人単位の人の動きが、御所線・湯の山線についても1日の乗降人数が2000人を越える駅があるわけで、多くの路線が地方ローカル線として見れば未だに「優等生」であることには違いありません。

同じく関西私鉄のローカル線で経営に苦しむ代表例としては、神戸電鉄の「粟生線」が代表されますが、近鉄の各支線は粟生線よりも輸送効率のよい路線も複数あると言えますし、そもそも粟生線ほどの過大な設備投資に対する減価償却・資産保有コストに苦しんでいるという話も聞きません。

支線の運営体制見直しは、今後も利用が減り続けるという明らかな未来・コロナ禍で利用がさらに急減している状況・近鉄全体として見た場合採算性が低いといった事情で行われると推定されるもので、突如廃止・使い物にならないようなサービス改変が行われる訳ではないでしょう。

また、支線の中でも利用が多い路線については、仮にダイヤの見直しがあったとしても直営から外れる可能性は現時点では低いのではないでしょうか。