奈良市民・奈良県民の「消費」は今も大阪に流出?変化する「ベッドタウン」の実態を解説 | 奈良まちあるき風景紀行

奈良市民・奈良県民の「消費」は今も大阪に流出?変化する「ベッドタウン」の実態を解説

奈良の基礎知識

奈良のまちと言うと、何よりも全国的には「観光」で有名な都市として知られていますが、もう一つの側面としては「大阪のベッドタウン」としての性質が常に語られるという実態もあります。

大阪のベッドタウンとしての「奈良市」や「奈良県」を論じる時には、必ずと言ってよいほどに「買い物」をする時に奈良市内ではなく、大阪都心(梅田・難波・心斎橋・天王寺)等に行って買い物をするから「消費」が流出してしまう。という「嘆き」が聞かれて来ました。

こちらのページでは、そんな奈良市民・奈良県民の「消費活動」の実態について、どのような背景や歴史的経過があるのか?現在も続いているのか?という視点も含めて見ていきたいと思います。

かつての奈良は過剰なまでの「ベッドタウン」

まず、歴史から見ていきましょう。奈良市を中心とした奈良県の北西部地域は、戦後しばらくして1960年頃から急速に「郊外住宅地(ニュータウン・ベッドタウン)」の開発が進みました。

奈良は穏やかな田舎町であったのが一気に市街化が進み、膨大な数のサラリーマンが毎日奈良と大阪を行き来するという構図が当たり前になったのです。例えば、かつての最盛期には、奈良市内の学園前駅を1日10万人程・近鉄奈良駅は11万人程(乗降人員)が利用していた時代もあり、首都圏郊外と変わらない程に通勤者であふれていた時代もありました。

この時代には、奈良には今のように大きな商業施設は少なく、平成初期の時点では奈良市内であれば「奈良ファミリー」や「奈良そごう」があった以外は、まだ特段大きな施設はありませんでした。

例えば今でこそ当たり前な「イオンモール高の原」・「イオンモール登美ヶ丘」・「イオンモール大和郡山」はあるはずもなく、奈良市内で言うと「押熊地域」や「国道24号線沿い」に立ち並ぶ大規模な「ロードサイド店舗」も昭和~平成初期の当時は今ほどにはありませんでした。

一方で、近鉄電車や奈良交通バスの利便性は非常に高く、気軽にぶらりと大阪や京都へと「お出かけ」しやすい環境は抜群のものがありました。出かける。と言えば奈良をうろつくよりも「大阪」や「京都」まで行ってしまう方が、むしろ「お手軽」であったとも言えるのです。

もちろん、ニュータウン開発の進捗に伴い、例えば高の原駅前には「サンタウン高の原」が昭和期から既に設けられたり、学園前駅前の「パラディ」や現在は存在しない近鉄奈良駅前の「奈良ビブレ」が平成初頭に開業する等、駅前を中心とした商業施設は着実に整備されていきましたが、21世紀以降の大規模商業施設の開発と比べるとまだゆるやかな開発であり、過度なマイカー志向でもありませんでした。

21世紀に入るまでの奈良は、概ね「ザ・ベッドタウン」として近鉄・奈良交通バスの利便性故に大阪とのつながりが今よりも更に強く、その上商業施設の数は現在よりも少な目でした。

県内の消費はあったとしても「駅前」中心、その上人口は今よりも多かったため、「大阪への消費流出」というイメージが形成されたのは当然の事であり、実際に消費がかなり流出していたことも否定できない訳なのです。

2000年以降商業施設の置き換え・立地が進む

奈良でその「消費」のあり方が本格的に変わり始めたのは、21世紀に入ってからでした。

これまで大規模商業施設が少なかった奈良市周辺で、矢継ぎ早に中規模の商業施設・大規模ショッピングモールの整備等が進みます。また、商業施設の置き換えや再編も一部で進みます。

2001年:奈良そごう閉店
2003年:奈良そうご跡地にイトーヨーカドー奈良店開店
2004年:イオン大安寺ショッピングセンター(現・イオンタウン大安寺)開業
2006年:イオンモール奈良登美ヶ丘開業
2007年:イオンモール高の原開業
2008年:ガーデンモール木津川開業
2010年:イオンモール大和郡山開業
2013年:奈良ビブレ閉店
2014年:イオンタウン富雄南開業
2018年:イトーヨーカドー奈良店から「ミ・ナーラ」へ

※この他奈良県内各地でも商業施設のオープン(アルル・アピタその他)が相次ぎます。

大規模商業施設の整備により、置き換えられるようになくなってしまったスーパーや商店、駅前商業施設も存在する一方、「売り場面積」や「売上高」といった観点から見ると、21世紀に入ってからの伸びは大変大きく、他の全国各地と同様に「イオンの進出」が奈良の消費動向に少なからぬ変化をもたらしたのです。

一方、バブル期の遺産を引き継いだとも言われる「奈良そごう」は早々と2000年には閉鎖され、以降はイトーヨーカドーが再進出しています。

百貨店で買い物をするのが当たり前。という文化は昭和期から平成初頭の奈良(郊外に住む「富裕層の主婦」というある種のステレオタイプが成り立った時代)ではかなり根強いカルチャーとして定着しており、それらの需要は奈良そごうや近鉄百貨店奈良店、そして大阪の大丸・高島屋等に流れていた訳ですが、その傾向が次第にイオンモールや大型店舗の利用という形に「一般化」していきました。

大量に建設されたイオングループの大規模商業施設には、奈良県内各地や奈良市内各地から「マイカー」を利用して訪れる大量のお客さんが訪れるばかりではありません。奈良の場合「駅前(高の原・学研奈良登美ヶ丘駅)」にイオンモールが建設されたケースもあるため、公共交通機関の利用でも「イオンモール」に移動が流れるという「奈良独特」の傾向も生まれました(奈良のイオンモールは、駅前であれば電車で行けますし、大和郡山や橿原といった駅から離れたイオンモールでも最寄駅からの「シャトルバス」が多数運行されています)。

21世紀以降は「イオンの進出」によって、「県内消費」がしやすい環境へと変わっていくことになったのです。

この他、各種スーパーマーケットについて見ても、平成以降・21世紀以降は比較的店舗面積の広いスーパーの進出・開店が相次ぎます。

人口が減少し始める中で、消費を取り合うかの如く大きな店舗が増えていく。地域の規模が縮小する中で競争が激しくなるということは、必ずしも構造的には適切な状態とは言えませんが、良かれ悪かれ消費者の利便性は大きく向上する結果を招きますので、「昔ほど」には大阪まで買い物へ行く必然性が薄れるのは当然の結果でした。

現在も「消費流出」していることは事実

これまで、「ベッドタウン」化著しかった時代の奈良から、奈良市内やその周辺にイオンモール等の大規模商業施設が立ち並ぶようになった時代の奈良への変化を解説してきました。

大きな傾向としては、21世紀に入ってからは奈良市内周辺や奈良県内で「イオン」系列の大規模商業施設・ショッピングモールが次々と建設された事で、「県内消費」がしやすくなり、実際に県内消費の傾向が強まったというのが全体の流れに基づく結論です。

一方で、絶対値としてみると、今でも奈良県は全国トップの「消費流出県」であり、奈良市も同様の傾向が見られます。

いくらイオンモールが便利とは言っても、「あべのハルカス」・「グランフロント大阪」・「大阪ステーションシティ(ルクア1100)」といった商業施設は奈良にありませんし、そういった施設に行きたい。というニーズは分厚く存在します。

奈良県が実施した奈良県消費流出実態調査(2011年)では、消費額の23.4%・約4000億円の消費が県外に流出したと推定されています。また、国の統計(全国消費実態調査)でも、奈良県民が「県外」で商品を購入する比率は、基本的に全国トップという流れが続いています。

県内での消費額の絶対値や、店舗面積などは明らかに21世紀以降は伸びており、昭和の頃よりは「県外消費」の傾向がかつてよりも薄れたことは確かですが、今でも「近鉄電車が便利=県外に行くのは当たり前」であり「大阪に行けば何でもある」環境自体は変わりありませんので、特に女性や若者を中心に大阪への消費流出が続いていることは間違いありません。

今後の「消費」は厳しさばかり?

奈良県・奈良市における消費の実態はこれまで述べてきた通りですが、将来像を考えていくと、余り明るい未来は見えてこないという問題もあります。

人口という観点から見ると、近年は奈良県・奈良市の人口は急速な減少局面へと移行しつつあり、「県外消費」であっても「県内消費」であっても、買い物をする人口自体が減っています。

奈良県は、「地方」や「田舎」といった区分で扱われがちですが、ベッドタウン地域が多いことから、全国屈指の少子化県でもあり、大学生が地元へ帰って来る割合もかなり低めです。

県内消費なのか、県外消費なのか。といった争い以前に「消費」規模が著しく減ってしまう未来が既に見えている訳なのです。

そのため、今後は「県内消費」の基盤である各種ショッピングモール等も存続し続けるのか。という懸念が増えてきます。一度は便利になった「買い物環境」も、人口が減り過ぎれば維持できるはずもありません。また、「マイカー」利用で買い物をするのが当たり前になった中では、商業施設の立地もアンバランスになり、特に奈良市以外の地域では過度にお店が集まる地域と、極端にさびれた地域の格差も一層生じて来るでしょう。

唯一の救いとしては、奈良市内のイオンモールは「高の原・学研奈良登美ヶ丘」駅前にあるため、「コンパクトシティ」的な政策との相性が良いという点が挙げられます。ありとあらゆる全ての施設を駅前に集めておけば、人口が減っても、施設そのものは多少なりとも維持しやすくなります。

今後は「消費先」を巡る争い以前に、県内消費をしやすい環境を「どうやって守るか」という難しい問題への対応が求められているのです。

まとめ

奈良市・奈良県は近鉄電車や奈良交通バス(公共交通機関)の利便性が比較的高く、ベッドタウン化の進展により大阪への通勤・通学者が多いことから、大阪等への「県外」の消費流出は現在でも続いており、その流出割合は全国トップレベルとなっています。

一方で、昭和期や平成初期と比べた場合、21世紀に入ってからは「イオンモール」等の大規模商業施設・ショッピングモールが県内に次々と進出したことで「県内消費」しやすい環境が整ったため、昔ほどの過度な消費流出・県内消費の少なさは目立たなくなりました。

現在も奈良県は県外消費の多さを問題視し、県内消費の活性化を図ろうとしていますが、現在は急速な人口減少局面に入り、県外消費・県内消費の争い以前の問題が生じつつあり、イオンモールも含めた「今の比較的便利な買い物環境」を今後も守る事が出来るのか。という問題への対応に迫られています。