「奈良への修学旅行」の現状を整理する

「学び」のスタイルも多様化する中で、近年は行き先も大きく変化しつつあるとは言え、現在でも「定番中の定番」とも言える「奈良」への修学旅行。

奈良への修学旅行を巡っては、奈良市の観光経済にとって無視できない規模の経済効果をもたらす存在として、奈良市は来訪者数の増加を目指している一方、「奈良観光」に一家言ある人の一部からは、「無理やり寺社仏閣・文化財を見せられる」ことによって奈良のイメージが悪化する。大人になってからの将来のお客様としての可能性を減らすものである。として無理に修学旅行に訪れる必要はないと指摘する人もいない訳ではありません。

この記事では、そんな奈良への「修学旅行」について、その現状(来訪者数)などを簡単に整理してみたいと思います。

奈良への修学旅行者数は?

国際文化観光都市であり、今や平日の主要観光スポットは外国人観光客のほうが多いのではないか。というくらいにグローバルな観光経済のうねりに飲み込まれつつある奈良のまち。

奈良市を訪れる観光客数は、外国人観光客なども含め、2017年度では1631万人です。その中で、修学旅行生は82.5万人観光客全体の5パーセント程度を占めており、学生団体だけでそれだけの来訪者数があるとなると、決して少ない数字とは言えない存在となっています。(参考:奈良市観光入込客数調査報告書

なお、修学旅行者数は少子高齢化のうねりの中で、かつてと比べると数十万人単位で減少していることは否めません。そもそも若年層の人口が大変多かった昭和の終わり頃などには、200万人近い修学旅行生が奈良を訪れていた時代もありましたので、単純な数字としては最盛期と比べると修学旅行生は「激減」しています。しかしながら、小中高校生の「人口比」で考えると、人口の減り方とそれほど乖離した数字と言う訳ではありません。つまり、海外も含め様々な選択肢が増えていると言われる割には「奈良を選ぶ」という選択が相変わらずなされていることになります。現在でも全国各地の学校に「奈良は選ばれ続けている」とも言えるのです。

修学旅行で巡る場所は?

奈良で修学旅行に訪れた場合に巡るコース。それはやはり「定番ルート」が多くなっています。

近年は「創意工夫」・「体験型」の観光が人気・注目を集める時代になってきてはいますが、奈良に訪れる修学旅行生が訪れるスポットは、やはり「東大寺」が最も多く、春日大社・興福寺・平城宮跡・薬師寺・唐招提寺など有名観光スポットを巡るパターンが一般的です。

なお、班行動の場合は、ガイドの方に案内される中で「ならまち」などを散策する修学旅行生もいるほか、タクシーで観光される場合はこの他のスポットに行っている場合も多少はあるようです。

基本的には、修学旅行で訪れる「はじめての奈良」は「定番観光スポット」を一通り見て回る。というパターンがほとんどと言えるでしょう。

宿泊は?

奈良を訪れる修学旅行生については、「泊まってもらえないまち」である奈良の特徴の通り、やはり「京都」などを宿泊の拠点にしておられる場合が多くなっています。

すなわち、奈良は昼間に貸切バスやタクシーで訪れて一通り見て回り、夜は京都に戻って泊まる。

そんなパターンが少なくありません。京都には「連泊」するのに、奈良には泊まりすらしない。そんな場合が往々にして見られるわけです。また、利用するバス会社・タクシー会社についても、全員が奈良の「奈良交通」や「奈良近鉄タクシー」を利用している訳ではなく、移動や観光地巡りには京都の「ヤサカ観光バス」・「KM観光バス」・「MKタクシー」などの利用も多くなっていません。

もっとも、奈良に宿泊される修学旅行生もいない訳ではありません。2017年の場合、奈良市観光入込客数調査報告書によれば82.5万人の修学旅行生のうち、奈良に宿泊したのは11.3万人。一定数の宿泊者はいますが、やはり全体から見ると少ないと言わざるを得ないでしょう。なお、宿泊される学生の方は関東をはじめ全国各地から訪れておられ、北海道のような遠方から訪れる修学旅行生も少なくありません。

なお、奈良で宿泊して下さる貴重な修学旅行生の方は、概ね「修学旅行生御用達」のホテルに宿泊される場合が多くなっています。多くが貸し切りバスで訪れる以上は、必ずしも「駅前」のホテルである必要はありませんので、阪奈道路の入り口付近のホテルなど、主要観光スポットから離れた場所に宿泊される場合も少なくありません。また、多くが公立学校の修学旅行でありますので、極端な高級ホテルに宿泊するような場合はほとんどありません。

今後の来訪者数は?

上記のように、京都を拠点と奈良の修学旅行情勢ですが、今後奈良を訪れる修学旅行生の来訪者数はどのようになっていくのでしょうか。

もちろん、今後の見通しですので予測・推定に過ぎませんが、修学旅行を巡る環境が「現在のまま」の状況で推移するならば、その修学旅行者数はある種これまで通り、10年単位で考えれば「人口比」にほぼ追従するような形になるのではないかと思われます。

人口比ということは、すなわち「減少」であることには他ならないのですが、相対的に「割合」で見ると、相変わらず「健闘」し続けるということでもあります。

一方で、修学旅行生というものは歴史的な観光都市においては、京都でも、鎌倉でもどこであっても重要なお客様であるため、各自治体が一定程度の「誘客」プロモーションを行っていることには変わりありません。自治体間競争がそれなりに激しい中、奈良だけが抜きんでるということは前向きに見積もっても想定することは出来ません。

また、奈良に「泊まってもらえない」という「嘆き」は、ある種の「地理的宿命」という性質も有しています。近鉄特急や観光バスによるアクセス性が悪くない都市、そして主要観光地を半日程度で巡ってしまえる都市、奈良時代・日本の歴史・鹿といったある種の画一的なテーマに基づく「学習」に適応した都市。奈良の修学旅行と言うものは、種々の要素が必然的に効率的な行程づくりに寄与してしまっています。

とりわけ修学旅行のような、スケジュール管理の厳しい旅行においては、奈良に宿泊するメリットというものは「混雑対策」や「奈良を拠点にした旅行」という観点以外からはあまり見出すことが出来ません。どうしても奈良に現在以上に泊まってもらうのであれば、奈良県南部などを含め、もはや京都に立ち寄らず「奈良だけ」を修学旅行の舞台にするような行程づくりをしなくてはなりませんが、そのような旅行ルートを増やしていくのであれば、修学旅行にこだわらず、一般の観光客を増加する施策として実施する方が無難なのではないでしょうか。

まとめ

以上、奈良の「修学旅行」について、現状とざっくりとした将来像を考察してきました。

ざっくりまとめ直すと、

・修学旅行生は現在でも観光客全体の5パーセントを占める
・修学旅行生は長期的には減少傾向
・京都を拠点とする場合が多く、奈良に宿泊するケースは少数
・主要観光地を巡るという典型的な観光ルートが大半
・修学旅行生が宿泊するホテル、旅館というものは固定化されている

といった状況があることを解説してきました。

修学旅行生と言うものは、一定の規模を持つ「重要なお客様」として現在までも、これからも奈良の観光に不可欠な存在であり続けることには違いありません。

しかしながら、「奈良に長時間滞在してもらう」もしくは「奈良に宿泊してもらう」という観点から見ると、修学旅行という行程の性質上、また奈良と言う都市の地理的性質上、それは働きかけても限界性があるということは言うまでもありません。

一部の旅館や一部の土産物店などにとっては、修学旅行生は欠くべからざる最大の顧客であるため、修学旅行誘致というものは、そのような地元企業・事業者への経済対策という側面も色濃いため、決して無視できるものではありませんが、今後は長期的には「修学旅行ゼロ」であってもよいくらいの観光の仕組みへと移行していく必要もあるかもしれません。