奈良の秋。とりわけ10月以降は正倉院展の時期も近づく中で、過ごしやすい気候と美しい風景もあいまって奈良には続々と観光客の方が訪れるシーズンとなっています。
そんな「秋の奈良」を代表する行事としては、「正倉院展」や「平城京天平祭」などのみならず、「鹿の角切り」と呼ばれる行事も大変有名な行事となっています。
この行事は、その名の通り神様の使いとして古くから大切に保護されてきた奈良の「鹿」の「角」を人間の手により切り落とすという行事となっており、鹿を捕まえて角を切るというダイナミックな風景を味わいに大勢の見物人が訪れる行事としても知られています。
この記事では、そんな「鹿の角切り」の内容や日程などについて、はじめての方でもなんとなく理解して頂けるように簡潔に説明していきたいと思います。
「鹿の角切り」の概要
なぜ角を切るの?
鹿の角切りは、1000頭以上生息する奈良の「鹿」のうち、長い角が生えている鹿たちの「角」をダイナミックに「カット」してしまうという行事ですが、そもそもなぜ角を切り落とすのでしょうか。
それは、簡単に想像できる内容ではありますが、基本的には「安全対策」のために行われるということになっています。
鹿の角は、1年周期で生え変わり、4月ごろに生えて来た角が、10月ごろには立派な状態になり、その後翌年の2月や3月になると自然に脱落し、再び新しい角に生え変わることになっています。
つまり、あの立派な鹿の角は凄まじい勢いで成長し、1年も経てば勝手に落ちてしまうので、本来「角切り」をしなくても勝手に角は短くなってくれるのです。
しかし、生え始めてから半年余りで尖った立派な角になってしまうため、そこからの半年間はずっと長い角を振り回すような状態になってしまうほか、とりわけ秋は鹿たちの「発情期」として知られているため、余り挑発するようなことをすれば、人間にも危害が加えられる(角で刺される)可能性があるため、また鹿同士が角で刺し合うような事態を防ぐ為に、角が生えそろった頃には角を切り落としてやることでその危険を減らしているわけなのです。
そんな鹿の角切りは、決して近年ではなく、実は江戸時代から長く続く歴史を持っています。江戸時代の「奈良町」の住民も、同じように鹿の角の危険性を減らすため、また角で樹木が傷つけられることを防ぐ為にこの行事を開始したとされています。
関連記事:奈良の鹿の歴史(江戸時代):鹿の角きりの開始・共存の時代へ
関連記事:奈良の鹿の生態は?季節ごとに異なる特徴・行動を詳しく解説!
関連記事:「奈良の鹿」の「身体的特徴」とは?体格・角・毛色などについて解説
どうやって角を切るの?
長い歴史を持つ鹿の角切りですが、角を切るという作業自体はなかなかハードなものになっています。
現在の角切りは観客席などのある特設会場で行われており、角を切るまでに、まずは会場内に誘い込んだ鹿を「勢子」と呼ばれる人たちが追いかけ、その角に縄をかけて捕まえるという作業を行います。
角を切るためにはまず捕まえなくてはならないのですが、この作業に手間取ることも比較的多く、なかなか捕まえられず苦戦する「勢子」の方も時にはおられます。
角に縄を掛けることが出来れば、その後は鹿を寝かしつけ、水を与えて興奮状態を抑えてから、神官がノコギリで角を豪快に切り落とします。もちろん保護対象の鹿のことですから、角以外には絶対にダメージを与えることがないよう、細心の注意を払いながら作業が行われます。
切り落としてしまえばそれで作業はおしまいです。鹿たちは解放され、「神の使い」である鹿の角は神前にお供えされることになります。
痛くないの?
角切りの流れは以上のようなものになっていますが、この行事については、特に「動物愛護」関係の方などから「痛くないのか」などといった疑問が寄せられる場合もあります。
実際にノコギリで角がカットされる様子を見るだけでは、痛そうに見えなくはないのですが、これについては、実は鹿は痛みを感じることはありません。角は毎年勝手に生え変わるとう特徴からもわかるように、どちらかと言えば巨大な爪のような存在になっており、それ自体に太い神経が通っているといったようなことはないのです。
だからこそ、鹿は角を切られた後に苦しむようなこともなく、すぐに元の生活に戻ることが出来る訳なのです。
仮に、角の切り口から血がにじんでいるような鹿がいるとすれば、それはむしろ「角切り」ではなく自然に角が脱落した直後の鹿であるということになるでしょう。
日程・時間・会場
人気行事となっている「鹿の角切り」。
その会場は、奈良の鹿を保護する施設である「鹿苑」に設けられた特設会場で行われます。「鹿苑」は、飛火野の東側、春日大社の西側にあり、春日大社の参道を通る形でアクセスするような形になります。
その開催日程は、
毎年10月「スポーツの日(体育の日)」のある土日月の三連休
各日11時45分から15時
に固定されています。
実施にあたっては、約30分サイクルで観客を入れ替えて実施することになっており、最も混雑しやすい初回の角切りは午前の11時15分から入場が行われ、最後の入場は14時半となっています。
開催については、小雨決行・荒天時中止となります。
見学方法・料金
約30分サイクルで計6回実施される「角切り」の行事ですが、見学には各回入場料が必要です。
入場料は
大人(中学生以上)1000円・子ども(小学生)500円
となっています。
見学は立ち見となり、鹿を追い込む会場の周囲に設けられたスペースから見学することになります。ペット同伴での参加や、写真・動画撮影を行う際に「三脚」を使用することは一切認められていませんのでご注意ください。
会場・アクセス
会場である「鹿苑」は、春日大社と飛火野の中間点とも言える森の中にあり、場所は少しわかりづらくなっています。
しかし当日は「春日大社参道」を通ってアクセスして頂く限りは、見学者の人の流れや案内表示によって鹿苑へのアクセスルートが把握できるため、迷う事はありません。
JR・近鉄奈良駅からのアクセスは、三条通り沿いをひたすら東に進むというルートを使い、徒歩でアクセスすることも可能ですが、奈良交通バス「市内循環外回り」に乗車頂き、飛火野に面した「春日大社表参道」バス停で下車し、そこから春日大社の参道を少しだけ歩くというルートが便利になっています。バスの運賃は220円、ICカード乗車券等ももちろんご利用いただけます。
関連記事:【鹿苑】通年見学可能な「奈良の鹿」を保護するための専用施設
関連記事:【観光に便利】奈良交通『市内循環』バスのご案内【主要バス停一覧】
鹿苑周辺地図
まとめ
以上、奈良らしい伝統行事「鹿の角切り」の概要についてまとめてきました。
安全のために行う行事でありながら、鹿の角を丁寧に切るという大変見ごたえのある行事となっている「鹿の角切り」。
入場料が必要でありながら、毎年多くの人が訪れる行事となっていますが、11時45分からの初回の角切りが最も混雑すると言われていますので、大混雑を避けたい場合それ以外の回、後半の回などに参加して頂くのがおすすめとなっています。
皆さんも、「鹿と人間」が古くから共存して来た歴史を味わえる行事にぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
関連記事:これはダメ!観光客の方が「奈良の鹿」に「してはいけないこと」まとめ